別れ話そのあと、何を続けていいのか。
頭にはたくさんの感情や、言葉が浮かぶけど、そのどれも言うべきではないと、一郎は思う。
もうこれ以上嫌われたくない。
二郎に捨てられたくない。
愛想をつかさないで。
どうしたら、何を言ったら、二郎は今まで通りそばにいてくれる…?
そんなこと、わかるわけない。
自分の頭でいくら考えたって。
もう、とっくに無理だったって、今まで通りなんていかないって、あの時から、ずっと…。
「…二郎は、どうしたい?」
「え…?ど…どうしたいって…何を…」
いきなり問われたその言葉に、二郎は混乱した。
この投げかけが、別れ話だとすぐに理解できたから。
一郎の気持ちが、そちらに傾いているんだと、はっきり感じ取ったから。
一郎は、寂しそうに微笑みながら、二郎を見つめている。
その顔を見て、二郎は悟る。一郎の覚悟を。
「…やっぱり、俺じゃダメだった?」
二郎はそう言って、笑いながら泣いた。
こんなの、笑える状況なはずないのに。
すっかり、変な癖がついてしまったな、と自嘲した。
どうも、二郎は、昔から、自分の望みを誰かに伝えるのが苦手だった。
相手に何を言われても、それが大事な人ならその通りにしてあげたいと思った。
それが一番相手のためになると思った。
「俺、バカだから」
本当は、ずっと一緒に居たい。
誰にもとられたくない。
自分だけを見て欲しいし、愛して欲しい。
「ダメだったね」
どうしてこんなときにまで。
嘘はつけない、しかし、すべてを話すことも出来ない。
一郎を、傷付けるのが…いや、一郎に疎まれるのが、怖い。
二郎は、一郎の顔を見ることが出来なかった。
一方で、一郎は、二郎の顔から目を離すことが出来なかった。
ずっとずっと、抱き続けていた想い。
これから先も変わらないであろうこの想い。
何よりも大事にしていた筈なのに。
自らの手で、全て失くすんだ。
自己管理が甘かった。
自分が制御できなかった。
ずっと、三郎も、二郎でさえ遠ざけていたのに。
過ちを犯しても、なお、学習しなかった自分のために。
一番大事なものを傷付け続けた。
「お前が、バカなわけないだろ。バカなのは、俺だよ」