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    138番ひとつ🚬

    @AMEspGOLD_suko

    2️⃣1️⃣、弟1️⃣、過去🐴1️⃣の人。
    支部で文字を主にかくので、文章以上に絵は苦手です。適当にポイってしてます。

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    138番ひとつ🚬

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    なんかもう、没なんだけど文字数はそこそこある。
    支部に上げたやつの続き書こうとしたんだけどなんかもう、没。
    再利用もできなさそうなので;;

    かみ合わないじろいち(没)一郎は、毎晩隣で眠る二郎の顔に触れ、キスをする。
    いつも、二郎がしてくれるような、優しいキス。

    一郎が、二郎を裏切ったあの時から…。

    「二郎」

    二郎に聞こえないように、微かな声で名前を呼ぶ。
    規則正しい寝息を立てる、その胸に、そっと顔を寄せる。

    トクトクと、二郎の心臓の音を聞きながら、おずおずと、てのひらに手を伸ばす。


    一郎が、二郎を裏切ったあの時から。
    二郎が一郎の手を握ることはなくなった。


    「そばに……」


    いつか、二郎が遠ざかっていくとき。
    考えただけで胸が張り裂けそうで、ズキズキと痛む。


    どうか。お願いだから。


    そう、心の中で唱えたと同時に、なんて身勝手なやつなんだ、と、自己を責め立てる。

    一郎はぎゅっ、と両目をつむり、つないだ手を解いた。

    もう一度、二郎の寝顔を覗き込む。

    「おやすみ」

    また、小さな声でつぶやいて、二郎の隣に横になると、その肩に額を寄せて、眠りについた。



    ***



    あの日、二郎は、まるで真っ暗な深い谷底に突き落とされたみたいだった。
    この世の仕組みを理解してからずっと、自分の想いが通じてからずっと、一番怖れていたことが現実となった。

    二郎は何度も、ありとあらゆるものを恨んだ。
    しかし、腐りはしなかった。

    オメガとか、アルファとか、番とか。
    そんなものより、ずっとずっと濃くて、切れない繋がり。
    世界でたった3人だけの、兄弟。

    それに敵うものなど無いと、二郎は信じていた。


    一郎には選択肢がある。
    誰と、生きるのか。

    一郎に選ばれなければ、この深い谷底でひとり死ぬのを待つだけだと、二郎は思った。


    『どうか、お願いだから、俺を捨てないでくれ』


    あの日、一郎は、床に顔を擦り付け、泣きながら言った。


    『お前と離れたくないんだよ、二郎』


    他の男との子どもを抱えて…自分と一緒にいたい、理由。
    そんなもの、考えたくもなかったけれど。


    理由なんて、何だって…





    夢を見ていた。
    そう自覚し、二郎は目を覚ました。





    最悪の目覚めだ。
    気持ちが悪くて、思わず上半身を起こした。


    隣に目を遣ると、いつも通り、そこには一郎が眠っていた。


    そうだ、一郎は自分の隣を選んだんだから。
    卑屈になることなんて、ない。

    理由は、どうであれ。
    一郎が選んだのは自分なんだから。


    二郎は毎日毎日、そう自分に言い聞かせた。


    「おはよう」


    二郎は、そっとそう呟いて、寝息を立てる一郎を見つめる。


    あの時から、一郎は触れ合うと身体を強張らせるようになった。
    身ごもっていた頃は、そういうものなんだろうと気にしないようにしていたが…寂しさは拭えなかった。
    あの子が産まれた後も、それは続いた。

    キスをして、身体に触れて…そのうちにわかる、自分が拒まれていることが。
    身体は震えているし、腕に力は入っているし、しかし言葉では拒まない。

    一郎は、間違いなく無理をしていた。
    そんな状態の一郎を抱くことなど、二郎には出来なかった。

    そういった行為自体が、きっと、一郎のトラウマのようなものなのだろう。


    ずきん、と、胸に痛みが走る。


    だから、二郎は、一郎に触れたくなるとき、呼吸を置く。
    一度、溢れ出る感情を飲み込んで、余裕のあるフリをする。

    長く、深く、触れてしまえば、それだけ、もっと求めてしまうから。


    二郎は、一郎の寝顔を見つめ、指先でそっと…。
    触れたかったけど、出来なかった。


    ずっと、このまま。
    お互いの温度を忘れていってしまうのだろうか。



    ***



    一日の終わり。
    一郎と二郎は一緒に過ごす。

    「ねぇ、兄ちゃん」
    「ん…?」

    いつも通り、PCに向き合ってカタカタと音を立てながら、一郎は答える。
    いつもより、少し気怠そうに二郎には聞こえた。

    「もう、仕事休みにした?」
    「うん、今日まで」
    「そっか」

    そろそろ、ヒートの時期だ。
    二郎は、一郎の匂いだとか、そういうもので体調の変化を感じ取ることが出来ない。


    「アルファなら…」


    感じ取ってあげられるのだろうか。

    一郎は昔から、ヒートの間、自室に誰かが立ち入るの強く拒む。
    三郎相手なら理解できたが、どうして自分まで拒まれるのだろう、と二郎はずっと思っていた。
    しかし、多分、自分なんかには到底理解できない事情があるんだろうと…Ωとαには…そうなんだろうと…口を出すことが出来なかった。

    いつの間にか止んでいたキーボード音に、二郎は気づく。
    そして、自分が、一番口走ってはいけない言葉を口にしたことにも気づく。


    「二郎」


    一郎が、震える声で二郎を呼ぶ。

    あぁ、また泣かせてしまったのか、と二郎は思った。
    しかし、一郎は、その目を逸らさず、じっと二郎を見つめていた。


    「ごめんな」


    そう言って一郎はぎこちなく笑った。

    そんな一郎を見て、二郎は思う。
    泣かれた方が、マシだったと。


    「ねぇ、兄ちゃん、なんでさ」


    身体で繋がれなくても、心は一緒だと思っていた。


    「なんで…」


    実は、そんなもの、とっくに離れていて。
    だから、あの日。


    「離れたくない、なんて、言ったの…?」


    ぽろぽろと涙を零しながら、二郎は尋ねる。


    一郎は、二郎の涙を久方ぶりに見て、全身が震えた。


    なんてことだろう。
    あぁ、なんて酷いことを。


    二郎は、ずっと笑っていてくれた。
    いつも、隣で。
    もう、何年も、何年も…。


    「……お前を…」


    己の愚かさに潰れてしまいそうな喉から、絞り出せたのはたったそれだけ。

    愛してる、って、それだけ。
    それだけ、素直に言えたらいいのに。
    そんなこと、言う資格が自分にあるのかと……。


    そして、二人の間に流れる沈黙は、また、二郎の心を殺した。



    ***



    もう、思い出せないくらい久々に、二郎は一人で目覚めた。
    朝の自室など、見たことのない景色だった。


    首を絞められたような悲痛な声で、苦しそうに顔を歪める一郎を。
    まるでこの世の終わりみたいに、身体を震わせる一郎を。
    二郎はひとり置き去りにした。


    だって、でも。
    俺だって、辛かった。

    どんどん大きくなるお腹を隣で見ていて、自分は一体誰で、何をしているのか、わからなくなった時もあった。

    それでも、明らかに笑うことの減った一郎の、たまに見せる笑顔が見たくて。
    それが本当に大事で。
    尊くて。

    あの子が無事に産まれてきてくれた、その時の、その表情を。
    一生護りたいと、二郎は思ったのに。
    きっと、酷い仕打ちを受けた、と言っても、誰にも責められやしないだろう。


    「信じてたのに、信じてた……」


    何年も何年も、見て見ぬふりをしてきた自分の感情が、洪水の様に押し寄せて、涙と嗚咽が止まらない。

    そんな状態で家に居られるはずもなく、二郎は堪らず、一人外へと逃げ出した。



    ***



    すぐに追いかければよかったのに。
    一郎は、一晩中一人で泣き続けた。

    ヒートの前兆なのか、泣きすぎただけなのか、頭は熱くてぼーっとするし、身体は怠くて思うように動いてくれない。
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