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    sccdelta

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    🔈様の甘いような苦いような、そんなシリアスな思い出話です

    bittersweet memory song 数多の街灯に照らされ、常に賑わいの絶えないサイバーワールド。普段なら気を高めてくれるこの無数の光も、今は四方八方から投げかけてくるプレッシャー同然だ。勿論、電灯にそんな気がある訳もない。ただ、不調な自分が勝手に連想しているだけに過ぎないのだ。
    「はぁ……」
     オレ、スイートは頭を抱えながら街中を歩いている。今は時間に追われているのだが、他者がそのことを知れば追われている割には急いでいる様子もないと突っ込まれることだろう。決して呑気になってはいない、焦燥感に駆られるあまり頭の中の信号が体へ送れていないと言ってもいい状態だ。
    「(ダメだ、今思い浮かんだフレーズもイマイチだ……)」
     オレとキャップ、そしてK_Kの三人の音楽グループであるSCCで一昨日から新曲作りが始まっている。だが、タイミングが悪いことにその日からオレはスランプに陥ってしまった。スランプは何らかの活動を続けている者ならば嫌でも必ず通る道、なってしまったという事実だけならば深刻ではない。
    「(キャップとK_Kはもう作り終えたというのに、オレは何をしているんだッ……!)」
     問題は、今日が締切日であるにもかかわらずスランプから脱却できていないことだ。テーマを変えたり楽器を変えて思い浮かべてはみたものの、自分が納得する出来にならない。キャップとK_Kは新曲のアイデアが思い浮かんで完成させ、自分だけが全く構築できていないという事実が重く圧し掛かった。圧に耐えられず、曲作りの休憩をすると誤魔化してショップから飛び出し今に至る。それからずっと歩き続け、流石に疲れたオレは通行の妨げにならない所で腰掛ける。
    「…………」
     いくら思考回路を巡らせてチョイスを変えようとしても、出だしすら定まらない。これではただ時間を無駄にするだけで、二人に迷惑をかけてしまう。浮かばない曲の代わりに新曲が作れなかったことを素直に謝るか、いっそのこと妥協してしまうかの選択肢が過る。誤魔化し続けて沈黙を貫いたり無理に引き摺って延長させてしまうよりは余程いいかもしれないと、頭の中のオレが二択に手を伸ばそうとした時だった。
    <!ーーアラ:[音楽グループ]ノ [坊や]ジャナイノーー>
     恐らくオレのことを呼んだであろう声が聞こえた方へ振り返る。自分どころかK_Kすらも凌ぐ程背が高く、不意に映ればその容姿に圧倒されて言葉を失ってしまう。このサイバーワールドを支配するコンピュータ、クイーンに声をかけられたオレは驚きを隠せなかった。
    「クイーン……」
     驚いた理由は身長だけではない、そもそもクイーンは逆ディスりソングとノイズミュージックを除いた音楽を違法化した存在。オレ達、SCCはクイーンと敵対する反乱分子でもあるのだ。自分達の存在意義である音楽をほぼ禁じた彼女から気軽に声をかけてきたことも、驚いた理由に含まれる。何やら袋をぶら下げている、街へ買い出しに来たのだろう。
    <!ーーアノ [ガキンチョ]ト[お兄さん]ガ イナイーー>
     遭遇する時はキャップとK_Kも一緒にいるからだろう、単独で出歩いているオレを見て珍しそうにクイーンはそう言った。
    <!ーートコロデ[クイーンさま]ヲ称エル[歌]ハ マダカシラ?ーー>
    「……さぁ、いつだろうか。もっと自由に音楽作りできれば完成するかもしれないなッ」
     意思や好みまでは支配されまいと、オレは皮肉を口にする。長話を避けるべく、普段なら最初の一言で終わらせていた。自分でも分かっているのだ、新曲が思い浮かばない焦りから生まれた苛立ちをクイーンに半ばぶつけていることを。
    <!ーー今 作ルノハ ドウカシラ?ーー>
    「何故今強要するんだ!!」
     お構いなしに催促する発言に奥底のスピーカーつっかえ、無理矢理詰まったものを取り除くかの如くオレは声を若干荒げながら言い放つ。スランプばかりは、自分の不調のみが原因であるというのに。いくら反乱分子だからとはいえ、焦燥感に振り回されながらクイーンに当たるのはみっともない。分かっているのに、無慈悲にも経過する時間は不安を加速させる一方だ。そんなオレに対し、クイーンはこう言った。
    <!ーー[坊や]:全然楽シクナサソウダシ 何カ[[悩んでいる]]デショーー>
    「……!」
     妙に鋭い一言に、オレの目はさぞかし丸くなったことだろう。反乱分子でありながら、音楽を規制した者に見抜かれるなどこの上ない皮肉だ。クイーンを照らす街の灯りが異常に眩しく見える。正解であると、彼女に拍手喝采を送っているのだろうか。
    「…………」
     直接的な皮肉にその気を全く感じさせない皮肉で返されて今の自身の情けなさを改めて思い知る、返す言葉がない。沈黙するオレを照らす光が、クイーンとは対照的に惨めさを浮き彫りにさせる。
    <!ーー[ワタシ]ヲ褒メマクル歌ヲ作レバ 元気ニナルカモシレナイワーー>
     クイーンに勧められるがままに逆ディスりソングを作ることすら正しいのかもしれないと一瞬揺らいだが、どちらにせよスランプで今は作れない。流される前に、その事実を告げよう。
    「……さっきは怒鳴ってすまなかった、だが今は本当に無理なんだッ。スランプが生じている、そんな時に完成品を作っても良い出来にならない」
     先程思い浮かべた、妥協という選択肢も間違っていたと今になって痛感する。キャップとK_Kは試行錯誤は繰り返すことはあれど、妥協を見せることはしなかった。悪手に手を伸ばしかけた今日のオレは、転んでいたことにすら気付いていなかったらしい。
    <!ーー確カニ[ワタシ]ヲ褒メル歌ハ 完璧デアルベキ:デモ[アナタ]ハ 過程ニスラ[[完璧]]ヲ求メスギテイルーー>
     オレの発言に対し、クイーンは冷静に意見を突き付ける。自分のやり方に自分で満足できなくなっていると捉えるなら、違うと否定する──ことができなかった。違うという言葉は湧いても直接言葉にできない、即ち正論だ。彼女の言葉のおかげで靄こそ晴れたが、スランプという迷路で迷い続けていることに変わりはない。
    「楽器を変えることも、テーマを変えることも不正解だった……何を変えればいいんだッ……?」
     霧払いをしたところで脱出口が見つからなければ解決には至らない、泣いても笑っても時間が止まることはない。ショップへ帰る時間も考慮すると、尚のことのんびりする訳にはいかないのだ。悩んでいるオレを余所に、クイーンは何処から取り出したのかバッテリー液の入ったグラスを手にして口に注ぐ。
    <!ーー[ワタシ]ナラ [終ワリ]カラ考エタリ 適当ニ音鳴ラシテミルワ:[結果」ハ[終ワリ]良ケレバ 全テ良シーー>
     口振りからして、クイーンとしては何気なく言ったに過ぎない一言なのだろう。だが、オレにとってはその何気ない一言がとんでもない火力であった。
    「終わりから……適当に……?」
     思考回路でクイーンの発言がエコーを二度三度と繰り返し、オレの中の天地が360度ひっくり返る。彼女が口にした作法は、オレ自身ではまるで思いつきもしなかったものだ。
    「そうか……こういうことだったのかッ!」
     己の奥底で、不協和音を不定期に鳴らすだけ鳴らし静まっていたサウンドが突如奏で始める。たった今思いついたメロディは明らかに出だしには向かないが、音の調和やリズムが完璧で、独り楽しくなったオレは思考回路内部で何度も繰り返し再生する。
    <!ーーヨク 分カラナイケド[[解決]]シタミタイネーー>
     バッテリー液を飲み干したクイーンは、よく分からないと言いながらも高笑いする。何事にも、ある程度の順序に従うことは大事だ。しかし、自由であるべき音楽でオレは自らを順序で縛って自由を制限していたことに気が付いた。
    「あぁ、たまには無茶苦茶なやり方を試すのも悪くないなッ」
     自分を照らし負を積み重ねていた灯りが、今のオレの目には爽やかに映っている。早くメモしたくて仕方ない、クイーン自身は助言もしようと思ってした訳ではない以上本人の目につかないところで纏める必要がある。時間が惜しいこともあり、オレは即座に起立した。
    「クイーン、今回ばかりは助かった!感謝しているぞッ!それじゃあ──」
    <!ーーオ待チナサイ[坊や]:コレ 受ケ取ッテーー>
     急ぐオレの手をクイーンが掴み、何かと思えば小箱を手の平に乗せてきた。高級さが一目で分かる黒と金の配色で、箱は少しだけ透けている。中には所々が盛り上がっている小さな山のような形が見え、その正体がスイーツであることにオレは箱を空けずとも気が付いた。
    <!ーーアナタ[スイートな坊や]ダカラ [ワタシ]カラステキナ[プレゼント]:[ワタシ]ヲ褒メ称エ自ラヲ下ゲル歌 楽シミニシテイルワーー>
     クイーンは、オレの頭の角に二回程手を軽く置く。彼女の言葉に、オレは何も言わなかった。クイーンの自分を持ち上げる行為がただの口先だけではないこと、彼女のやり方を受け入れる者がいるのも分かるとこの場で納得した。それでも、クイーンの規制には抗い続けるしオレ達の音楽は永遠に不滅だ。
    <!ーーデワデワ~(ノシ)ーー>
     クイーンは茶目っ気に挨拶をしてから、オレとは反対の方向へ立ち去った。このスイーツを受け取った以上、ダッシュしてうっかり転んでしまっては台無しだと走りたくて堪らなかったオレの脚は落ち着きを取り戻した。急ぐ必要自体はあるのだが、早足程度に留めるとしよう。
    「……さて、新曲のメモをしないとなッ」
     小声で呟き、オレもその場を後にする。もしかしたら、キャップとK_Kに心配かけてしまっているかもしれない。心配かけた分、クイーンの助言に救われたことを伏せて閃いた新曲で楽しませよう。

     ***

    「…………」
     キャップとK_Kが寝ている中、オレは密かに寝室から抜け出し、薄暗い制作室に一人籠って作業している。作業しながらオレが食しているのは、スランプに悩まされていたあの時にクイーンから貰ったスイーツだ。ココア生地の上に山のように絞られたチョコクリーム、滑らかなクリームに刺さっているドリル状の板チョコ、偏りなく丁寧に散りばめられたナッツの盛り付けが味と香り共に相性抜群だ。次の日に闇の泉が湧かなければ、あの翌日にすぐに食べていたことだろう。
    「(危うく消費期限を切らすところだった……)」
     暗闇に溶け込んでいる小さな箱は、闇の泉が誕生したことで“ハンパない”ことになってしまったクイーンの有り様にも見える。それでも、助言を与えてくれたあの頃に戻る日は必ず訪れる筈だ。箱は闇に溶け込んでも、オレが今食べているスイーツは美味なのだから。
    「……これはまだ、届けられそうにないな」
     二人に内緒で作っておいた“予約特典”、これを知られようものならキャップは間違いなく激怒するだろう。作詞作曲はしたものの内容は他の誰かを踏み台にはしていないし、悪事は出来る範囲で皆で阻止すると決めた。これを届けられる日がそう遠くないこと、闇の泉が消滅した時には自由に音楽作りができることを信じて、オレは箱に“予約特典”をしまって鍵をかけた。
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