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    sccdelta

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    sccdelta

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    宇宙戦争パロ、🦆に酷いことされた🐖が⚫️(司令官)に誘われて仕返しする話
    CP要素はありませんが、🐖相手とはいえ⚫️が優しすぎるかもしれない…?

    Bonfire of Salvation とある惑星の狭い国、昼間の空は雲こそ少しあるものの晴れており、一国に爽やかな空気を齎している。賑わいのある町並みから外れた道なき荒れ地を、項垂れながら歩く者が一人。
    「はぁ……」
     宇宙防衛軍のキャプテン、ダック・ドジャースに仕えている助手のカデット。晴れ空に似合わず、何やら憂鬱な顔色と様子だ。当てもなく俯いたまま歩いていると、前方で何かにぶつかる。小さくも驚きの声が聞こえたことから、物ではないことは確定だ。
    「すすす、すみませ……あぁわわわっ」
    「キミは……」
     彼が驚くのも無理はない。自分がぶつかった相手は、自陣の宇宙防衛軍が何度も敵対している火星軍の司令官、X-2なのだ。
    「あ、あのあのあのちち違うんです。こここ、此処は穏便に……」
     宣戦布告と勘違いされる前にただの不注意であると、カデットは落ち着きないままにX-2へ説明しようとする。だが、衝突された相手から返ってきた言葉は意外なものであった。
    「何も怖がらなくていい、私はキミ単体と争うつもりはない」
    「えっ」
     怒れる様子もなく、冷静且つ穏やかにX-2が発した言葉にカデットは目を丸くした。何故怒っていないのかと、カデットが些細な質問を投じる前にX-2は発言を続ける。
    「キミとの敵対関係は、表面上だけで十分だからな」
     柔らかな声色と、自分が発した穏便でありたいという意味合いを含む言葉。それを耳にしたカデットは、これが本当にあの司令官なのかと自分の耳を疑う。だがすぐに、穏便に済ませたいと願っている身なのに疑うなど恥であると己を心の中で自戒し、早々と頭を下げた。
    「ありありあり、ありがとうございます……」
     攻撃と見做されなくて済んだことに、カデットは安堵の息を吐く。軍として対立している時こそあまり意識していなかったが、個人として関わってみればとても誠実なのだとカデットは改めてX-2という存在を知る。安心感を覚えたこの時、彼の思考が発言と直結し始めた。
    「ここ、こういう人がきききキャプテンだったら……」
     自分が口にした内容に気付き、カデットは思わず己の口を手で覆う。彼が零した一言で、混み合ったり狭い場所でないのに衝突してしまった訳を、X-2は察した。
    「……何かあったんだな」
     敵軍の司令塔でありながら、偽りのない優しさを見せるX-2の前でカデットは迷うことなく頷く。ふと、X-2は腰をかけることが出来そうな不定形な岩を見つける。そこで休憩も兼ねて、カデットから事情を訊くことにした。
    「き、ききき聞いてください司令官殿……キャプテンが商店の取り取り取り扱い商品をうっかり破損してそれを――」
    「押し付けてきたのか」
     理解が早く、自分の言いかけた言葉をそのまま口にしてきたX-2に対し、カデットは激しく何度も頷いて交錯する感情を露にした。やはりそうかと、X-2はドジャースに呆れて溜め息を吐く。
    「こここ壊した、ほほほ本人は逃げ出して……わわ、私は店主に詰められて弁償代をはは、はは払わされました……」
     よりによって上司に罪を着せられるなど、たまったものではない。負の感情に押し潰され、前を向いて歩けないのも無理はないだろう。カデットの心情を全て知ったX-2は、肩に優しく触れて慰める。話を聞くだけで清々しい気持ちになれるだろうか、X-2がそう思ったその時、彼の中で何かが閃く。
    「そうだ、丁度いい。私について来てくれ」
     X-2は、突然離れてはカデットに導きの言葉をかけて歩き出す。何処へ向かうのかと不思議に思いつつ、カデットは気が付けば岩場から離れ彼の後ろを歩き始めていた。今のカデットにとって、X-2は自分の上司よりも信用に足る存在なのである。前方が止まるまで、足を止めることはしなかった。
     約十分経過して、ようやくX-2が立ち止まる。それに釣られるように、カデットも足の動きを止めた。すると、二人の目に巨大な装置のような物体が映る。
    「これは……」
    「ドジャースに奇襲を仕掛ける為の武器だ」
     装置の形状は光線銃とそっくりだが半透明で中が若干透けており、タンクの部分には液体と思わしきものが溜まっている。中身の正体が気になったカデットが覗き見ていると、タンクの後ろ部分と繋がっている太いチューブに気付く。チューブが伸びている先に視線を向けると、泥沼が見えた。
    「もも、もしかして昨日おおお大雨でも降ったんでしょうか?」
     カデットの予想に、違いないとX-2は返す。獣道というだけあって整備がされない場所であり、結果天候と時間の流れによって出来た大穴に水と泥が多く加わって泥沼になったのだろう。折角ならこの泥沼を新作の武器の材料にしようと、X-2はカデットと出くわす前から思いつきタンクに溜めていたようだ。
    「どうだ、子ども染みていて面白くはないだろうが……協力してあの男に一発喰らわせようではないか」
     復讐を手伝わんと、X-2は不敵な笑みを浮かべてカデットに誘いの言葉をかける。よく言われるような凶器ではなく、目立った殺傷能力もない。仕返し程度には丁度良いが、それでも上司となれば躊躇うだろうか――そう思った瞬間のことだ。
    「や、やややりますやります!」
     カデットは突然、X-2の手を握ったかと思えば勢い良く上下に振る。反応が想像以上だったのか、X-2は誘った側でありながら驚きで一瞬だけ目が点になる。しかしすぐに、そう言ってくれると思ったと頷く。彼の目つきはやる気で満ちており、それだけ鬱憤が溜まっているとも言えるだろう。
    「では、作戦の流れだが……」

     ***

    「こんな不便な所に希シょうセいも値も高いムシが本当にいるのか?」
    「や、やや野生の希少な虫は不便な所でくくく暮らしているものですよ」
     面倒臭そうに前を歩くダック・ドジャースの後ろで、カデットは慎重に歩行している。現在、カデットとX-2による共同作戦を実行している最中だ。希少性の高い虫がこの地にいると、カデットが思いついた偽の情報でドジャースを特定の場所に誘導している。
    「ソもソも何でオレに押シ付けるんでスか、オマエが捕獲シなサい」
     言うと思った、と内心で溜め息を吐くカデットだが彼は動じていない。
    「ととと、とても素早く狭い所に住んでいるのでスマートなキキキャプテンが捕獲に向いています……」
     話を持ち掛けられた段階から渋々といった様子であった為、自分にやらせるなという発言をすることは予測済みだった。確かにその通りだと、スマートと言われたドジャースは少し機嫌が良くなる。
    「ききき、キャプテン……アレ……」
     不自然にへこんでいる地面が見えた所で、カデットは信じられないものを見たというリアクションを取ると同時に指を刺す。一本の枯れ木の穴の中から、金色の尻尾のような物体が姿を見せている。昼下がりの日差しに照らされた物体は、こっちを見ろと主張するかの如く黄金の輝きを放っていた。
    「黄金のシっぽ……間違いない!」
     金に目を光らせ、尻尾目掛けて全力疾走するドジャースの姿は、飢えている中で獲物を見つけた獣とそっくりである。彼が全速力になって狙っている尻尾のような物、その正体は希少性の高い虫などではない。
    (あんな明らかな工作物に引っ掛かるとは、欲深い男だ……今はありがたいが)
     金紙で尻尾のような形に整え、小型メカに取り付けただけである。メカを動かしているのは、岩陰に隠れているX-2だ。コントローラーでメカを操作し、奥へと移動させる。無我夢中のドジャースは木の根元に到着すると、片腕を突っ込み虫を捕らえんと闇雲に動かす。
    (お願いします、司令官殿)
     好機を逃すことなく、カデットは追いかけるフリをして小走りしつつ左腕をひっそりと上げる。装置を起動させて問題ないという、X-2への合図だ。サインを確認したXー2は、片手でコントローラーのスティックを動かし装置の照準を定める。
    「大人シく、出てきなサい……こんなセま苦シい所じゃなくてリッチな場シょでかわれた方が――」
     今だ、X-2は小声で呟くと同時に装置のスイッチを押した。すると、噴出口からドジャース目掛けて泥が勢い良く噴出される。金に喰いついたままのドジャースは、自分に泥が降り注ぐと気付くこともないまま大量の泥を被った。同時に、重量がかかったことで、ドジャースがいる位置に仕掛けられていた落とし穴が作動する。
    「き、キャプテーン!」
     ドジャースが泥と共に穴の底へ落下したのを確認すると、カデットは心配するフリをして叫びながら近づく。その声色には、ざまあみろという本音が含まれている。
    「やったぞ、ドジャースの顔に泥を塗ることが出来た!」
     復讐相手がまだ泥に埋もれているのを良いことに、カデットはグッドサインを共謀相手のXー2に向ける。X-2も成功に喜びの笑みを浮かべながら、グッドサインを返した。すると、泥の中から腕が一本出現する。腕がドジャースのものと分かった二人が本心を隠した直後、泥塗れの鴨が顔を出した。
    「泥の雨なんて予報は聞いてないでス……」
    「だだ、大丈夫ですか?」
     体を素早くブルブルと振って泥を払い、口の中に入ったであろう泥を飛ばす。仕返し自体は成功して満足したカデットは、表面上でドジャースを気遣った。ドジャースは泥をほぼほぼ飛ばしたところで、彼の視界にX-2の装置が映る。
    「おい、何だあの変な大砲!」
     すぐに装置に気付くとは思わなかったカデットは冷や汗を流すが、X-2は気付く可能性も考えていたのだろう。一芝居打つか――誰にも聞こえないようにX-2がそう呟くと、焦ることもなく装置の背後から堂々と姿を現す。
    「すぐに抜け出すとは……体力だけはなかなか優れているな」
     装置に片手を添えて仁王立ちして見下ろすX-2の映り方は、ドジャースとカデットでは全く異なっている。前者目線では誇り高き自身の見た目を汚してきた悪人、後者目線では自分のストレスを解消を手伝ってくれた良き理解者だ。
    「どどど、泥が降ってきたのはあの装置によよよよるものだったんですね……」
     計画がバレないよう、カデットは状況把握が追いついたフリをする。彼の発言に決して不注意や間違いはないのだが、その言葉を耳にしたドジャースは何かに気付いたと言わんばかりに表情を変える。
    「ちょっと待てよ……この流れ、絵本のように出来スぎていまセん?」
     勘が冴えている発言に、カデットだけでなく流石のX-2も心臓が縮み上がりそうになった。自分のことだからか偶然かまでは不明だが、この状況で勘が鋭いドジャースに二人は頭を悩ませる。それとほぼ同じタイミングで、ドジャースの疑いの矛先がカデットに向いた。
    「カデット、サてはオレに何か隠シ事シているな」
    「わわ、わわ私ですかぁ」
     ドジャースに文字通り詰められるカデットに、自分を倒す流れにしろとアイコンタクトを送る。怪しいと思い始めたら敵軍である自分に反撃する流れに持ち込む、それも今回の作戦の内の一つだ。だが、時々一瞬だけ見つめるカデットの目からは躊躇いが窺える。
    (そうだ、彼は人が良すぎるのだった……ならば――)
     本当の目的が発覚してしまえば、罪を着せられたことを報復しただけの彼が救われない。知られないまま終わらせる為にもやるしかないと、X-2は咄嗟の対応に出ることにした。
    「フフ……そうだともドジャース、オマエの助手はとても優秀だな」
    「へぇっ」
     この会話は恐らく作戦に含まれていないのか、秘密の復讐に付き合っていた筈のXー2の言葉にカデットは酷く動揺する。
    「おい、どういうことだ」
     X-2の言葉に反応したドジャースは、最初に敵軍の司令塔、次に自分の助手を訝しげに鋭く睨み付けた。上司からの圧もありカデットは更に動揺してしまうが、誤魔化すようにX-2は意気揚々と話しを続ける。
    「私が考えた出鱈目な話にまんまと騙されてくれたおかげで、この武器を使う機会がやっと出来た……実に助かったぞ、カデット」
     言動と実際の行動の不一致を耳にしてカデットは動揺こそしなくなったものの、首を傾げる。だが、その直後にX-2が何をしているのか知った――否、知ってしまった。自分の上司に仕返ししてやろうという気持ちこそ、真ではある。しかし、元々敵軍であることを理由にたった一人で悪者を演じ続ける必要はない。カデットは、そう叫びそうな己を必死に抑え込む。
    「あのムシはオマエの作りばなシかよ! 卑怯な火セい人め、疲れだけを儲けサセやがって!」
     ドジャースは、騙したと偽るX-2の言葉に騙されて怒り心頭になる。X-2は何故あのタイミングで突き放すようなことを言い出したのかを、対面時の言葉と照らし合わせて悟ったカデットは何も言葉が出なかった。
    『キミとの敵対関係は、表面上だけで十分だからな』
     最後まで自分の心に寄り添う者を悪と言い、その存在が倒されるまでに至らせる。そのような非道な行為を誰が出来ようものかと、彼の良心が許していないのだ。その反面で、彼の咄嗟の判断と苦労を無駄に出来ない為、カデットは庇い返すことも出来ずにいる。
    「そうか、言葉を失う程ショックだったか」
     一言も話さないカデットをフォローすべく、首を横に振ってせせら笑う素振りをする。これでいいと、X-2はカデットに目で伝えてから光線銃を取り出して戦闘準備に入った。
    「実直な姿を見て私でさえ思った、良いように使われて何て可哀想なのだろうとな」
     Xー2は嘲笑を隠せない邪知暴虐を装っている、彼が口にしていることはドジャースには伝わらないであろう皮肉だ。こちらにヘイトが向かないよう芝居を続け、その上で例え縁起でも自分を罵倒する発言はしない誠実なX-2の勇姿にカデットの瞳が潤む。
    (司令官殿、私の立場を守る為に……)
    「この悪党め、その憎たらシい顔がなサけなくなるまでに懲らシめてやらないといけまセんね!」
     同じく光線銃を構えるドジャースの言葉は、端から見れば普通に聞こえる。しかし、事の流れの被害者であるカデットとその被害者から全て聞いたX-2にとっては、説得力皆無だ。背後のカデットは困惑で眉を寄せ、X-2は鼻で笑う。
    「どっちが、……憎たらしい顔だか」
     X-2は一瞬言葉に詰まったが、すぐに悪態を突き返す。悪党だか、と言ってしまえばドジャースの助手であるカデットを悪党と言ってるも同然になってしまう。故に、彼は言葉を選び直したのだ。
    「いつまで落ち込んでいるんでスか、サっサとアイツをボコボコにシますよ!」
    「は、はいきききキャプテン……!」
     鬱憤を晴らす機会を与え、自分を庇いヘイトを買ってくれた敵軍の司令塔。後に彼へ礼をしたいという気持ちが、カデットの心の中で急激に膨らみ始める。上司が場にいない間に通信して約束を交わし、そして直接謝礼する機会が楽しみになってきたのだ。爽やかな晴れ空に照らされ、清々しい気持ちのまま敵対関係を演じる戦闘に突入するのだった。
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