とある侯爵令息の受難 拝啓、遠い祖国の父様母様お元気でしょうか。あのトラブルからの婚約破棄やら何やらで他国に飛び出して幾星霜。何故か私は顔見知りの家で正体を隠しながら家庭教師をする羽目になっています。頼むから誰かに尋ねられても居場所を教えないでください。息子、いや娘の貞操の危機です。
朝、目が覚めて一番に確認するのは己の胸元だ。
生まれてから19年。ほんの一年前まで存在しなかったものの有無を確認する為である。
両手で胸元を触れば、すっかり触り慣れてしまった柔らかな感触。最初のうちはこの感触に絶望していたが、今ではすっかり慣れてしまった。むに、と指が沈む感触に深い溜め息をついてから私の一日は始まる。
事の始まりは一年程前の事。
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