数年前。
まだ銃火器が主流でなかった時代だ。
戦場での戦いは白兵戦が物を言った。
中でも刀と鉈の使い手が強かった。
それがつい数年前のこと。されど数年前のこと。
今は火薬の時代である。
数年前、白兵の部隊に居た男は、これで自分もお役御免かと思ったが、隠密系の部隊に回された。
男は姿を隠すことが得意であった。
それなら確かに、武器が冷兵器から重兵器に変わろうと、幸か不幸か、男の居場所はまだ戦場にあると言うことだ。
それどころか、男はその隠密技術により、白兵の頃より昇進してしまった。
身の回りが便利な上等なものに成ったのは喜ぶべきことだが、戦場から離れた場所が、男にとっては不満だった。
男は純粋に戦いを好むだけで無く、戦場にこだわる理由が有った。
戦場は彼が姿を消した場所。
男が見失ってしまった人物は、軍事任務中に、行方知れずとなったのだ。
ステルスは自分の得意分野だと自他共に認識して居る男が、数年かけても、その人物は見つからなかった。
そう、兵器が刃から銃に代わっても。
男は、探し人が居る筈の戦場から離れることに成り、内心苛立って居た。昇進の話など、本当には蹴ってしまいたかった。しかしそれは、戦場どころか軍から追い出されることを意味する。正にお役御免だ。そんな本末転倒なこと、それこそ御免だった。