物心ついた時から、家には自分の他に男と女が居る。
但し女はころころ変わる。毎回かもしれない。あんまり違いが分からない。でも複数居ることもある。
男は一人だ。
それは変わらない、ずっと。
その男が父親らしいから。
学校から帰ると、大抵男は家に居る。ということは、誰か女も居るということだ。
居ない時も有る。けれど鍵を持っている。
食事は有ったり無かったり。料理が有る時は食べ慣れた手作りか、知らない味。コンビニ弁当の時も有るし、箱に入った菓子の時も有る。有る時は有る時で、その内容はばらばらという訳だ。無い時も無い時で、金の有る場所は知っているし、備蓄が有ればそれを食べたりもする。備蓄は自分で用意することもあるが、家に食べる物や金をちっとも見つけられなかったことは無い。
不思議な家である。
不思議な男である。
いつも変な仮面を被っている。
男はこちらが別室で食事を摂って居ると、ふらりと現れては、その場で手掴みし、適当に口に放り込むことも有るが、きちんと食事を摂っているところは見たことがない。いつ食べているんだ?と聞いたことがある。男はにやりと笑って、こちらの頭を大きな手でわしわしと掻き撫ぜただけだった。いつも男、というか女の目を忍ぶように風呂に入っているから、まだ洗っていなかった。男がこちらの髪に触れ、何故かそれが妙に気になった。
ある日、家の扉が開かなかった。今男は家に居ないのだ。それはつまり女も居ないということなので、もう風呂に入って仕舞っても良いかもしれない。そう思いながら閉めようとした扉が。
外から開いた。
「ジャックいないの?」