全て妄想120%です*学園時空
「和哉、どうした」
小学生が帰る時間にしては少し遅い頃。近所の知り合いの子が道端で突っ立っているのが見えた。もしかして足の具合が悪いのだろうか?
「足が痛むのか」
和哉に合わせてしゃがんで様子を伺う。俯いたままの和哉はきゅっと唇を噛み締めて泣くのを堪えているような表情をしていた。
「守理……大丈夫です!ちょっとその、遊んでたら遅くなって、」
この子はあまり道草を食わない子だということは知っているし、なんなら辛いことがあっても隠そうとする子だということも理解している。そしてそれをあまり素直に口に出してくれない頑固者なことも。
「…そうか。なら送っていく。ほら乗れ」
「え、や、だ、大丈夫です歩けます」
「……俺がおぶりたいんだ」
「え…守理が……???」
「ああ」
なんとか和哉を言いくるめておんぶをする。初めは遠慮がちだったが、徐々に体重を預けていくようになった。肩にあった小さな手が俺の首の前に回る。
「本当は何があったんだ」
「…………みんなが、ううん、俺の足がみんなと同じじゃないからおかしいって…。みんなと遊びたくても一緒に帰りたくてもみんなより遅くて、みんなと同じように歩けなくて、置いていかれるのが、さびしいんです」
もっと心のない言葉を言われているのだろうにそれを濁しているのかつっかえながら話す子どもはどこまでも他人に優しい。だがその優しさが自分自身に向かうことがない。いっそ誰かのせいにして喚いて泣いてしまえばいいのに。
「そうか。だが和哉、一つ覚えておけ。誰もがみんな同じ速さで歩けるわけではない。例えば老人と若者が同じ速度でずっと歩けるわけないだろう。それと同じだ。歩く速度は人それぞれだ。それに、お前にはちゃんとお前に合わせて隣を歩いてくれる人達がいるだろう」
例えばお前の家族。ご両親も、上の兄弟も、下の兄弟もみんな必ずお前の隣にいる。そしていつか家族と離れてもお前と同じ歩幅で話をしてくれる人がきっと。
「守理が長く喋ってる…」
「お前」
「えへへ、珍しくってつい!あの、守理…も、一緒にいてくれる?」
驚いた。この子がこんな願いを口に出すだなんて。俺は思ったよりもこの子に信頼されているのか。
「…ふっ。…そうだな」
いつかこの子のような苦しむ子を支えられたら。そんな夢が小さく芽生えた瞬間だった。
「守理〜!!今暇ですか?目隠しチェスしません??」
「ああ構わないが。いいのかあの3人と帰らなくて」
和哉の足は治った。いつの間にか魔法のように。そして隣を一緒に歩いてくれる仲間もできた。表情も前より明るくなったように思う。
「なんだか用事があるみたいで、用事終わったら一緒に帰ろうかなって」
「そうか。……和哉、良かったな」
本当に良かった。どうか可愛い弟のような和哉がいつまでも幸せでありますように。