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    夏野(なっちゃん)

    @natsuno_nyan
    「ユーリ!!! on ICE」ヴィク勇と「CQL」忘羨の二次創作小説を書いています。

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    ヴィク勇:『氷上 舞踏会 〜月下の宴〜』参加作品です。
    二人とも引退しています。ヴィクトルの家族について言及があったりしますので何でも大丈夫な方向けです!!ピチットくんはピチットくんです。笑
    全年齢になりました!
    お楽しみ頂けたら幸いです。

    よくいるコーチとただの弟子9月に入ったとはいえまだまだ暑いタイ王国の空港に着いたヴィクトルと勇利は、VIP待遇で最初に飛行機から降ろされ一般人とは違う特別なルートで入国審査を通過した。
    「ようこそ、タイ王国へ!」
    ドアを抜けるとピチットくんが2人を出迎えてくれた。
    「ピチットくん!!」
    「勇利!待ってたよ~~~!」
    お互いに飛びつくようにしてハグをする。
    「勇利ったら、オフシーズンなのに少し痩せたんたじゃないの?」
    「あー、うん、ちょっと国内のアイスショーが続いてけっこうハードスケジュールだったんだ。一昨日一段落ついて昨日準備して今日はもうピチットくんに会ってるよ!」
    「うわー、人気者は違うなぁ!」
    「ピチットくんだってアイスショーひっぱりだこじゃん!日本のアイスショーにも参加してくれたし」
    「今年はけっこうあっちこっち出させてもらえたと思う。勇利はその合間にCM撮影とか色々あったんでしょ?それなのにこっちまで来てくれて。ヴィクトルにも感謝してるよ!」
    「俺はついでって感じだね!」
    「うん、僕にとってはね!」
    「アハハ!」
    ピチットくんの返しにヴィクトルが楽しそうに笑った。
    「でもホント、2人には感謝してる。タイにまで来てスケートをしてる子供たちと交流してもらうのってハードル高いからさ。それも勇利とヴィクトルだよ!子供たちはビックリするだろうなぁ~!」
    「ピチットくんが楽しそう!」
    「うん!ビックリして喜んでもらえるかなって思うとワクワクして楽しくなっちゃうよ!」
    「でも僕は中々来られないタイのリゾート地で夏休みが過ごせるのが嬉しいよ!いつでも呼んでよ!!」
    と勇利とピチットくんはキャッキャ、キャッキャと騒いでいた。
    ヴィクトルと勇利はタイの未来のメダリストたちとの交流会に参加することが決まった時に、ピチットくんの勧めもあって交流会後タイのリゾートアイランドで夏休みを過ごすことにしていた。

    「はーい、皆さーん、今日もレッスンよく頑張りました!ご挨拶しましょう。ありがとうございました!!」
    村元コーチが子供たちにレッスン最後の恒例の挨拶をすると、
    「ありがとうございました!」
    と大きな声で子供たちがコーチに挨拶をした。ワラワラといつものようにガードへ滑って行って氷上から上がる子供たち。
    ほとんどの子たちが地上に上がってエッジカバーをつけているとよく知っている管楽器の音が流れすぐにテノールの歌声が聴こえた。
    「ヴィクトルの!」
    そう誰かが言うか言わないかのうちにザッという鋭い音と共に風が吹いていく。
    「ユーリだっ!!」
    「キャーッ!」
    「ユーリ・カツキだ!!」
    「え、え、え?なんで!?」
    すると勇利が入って来たと思われる反対側のガードからもう一つの人影がリンクに降りた。
    「ヒャアーーーっ!ヴィクトル!!」
    「ヴィクトル・ニキフォロフ!!」
    「なに、なに、なに!?」
    ピチットくんからゲストが来るとは聞いていたが、詳細は聞いていなかった村元コーチも完全に固まっていた。
    デュエット版の「離れずにそばにいて」がノービスとジュニアのクラスの子供たちの前で披露される。
    勝生勇利は今期が始まる前に引退を表明して競技生活を終え、アイスショーに積極的に参加しているために現役時代のままのレベルをキープしている。コーチのヴィクトル・ニキフォロフは2年前に引退し勝生勇利の専属コーチとなったが現役時代とほぼ同じメニューをこなしており30歳を過ぎても現役選手として戻るつもりがあるのでは?と言われ続けている。
    その2人が見せるエキシビション用のデュエット版「離れずにそばにいて」は、引退した選手とはとても思えないレベルのものだった。
    黄色い声を出していた子供たちは静かになって皆ガードにへばりついて2人の演技を食い入るように見つめている。
    スピード、ジャンプの高さと距離、曲を表現する2人の演技‥‥‥。
    目の前で見るグランプリ・ファイナルや世界選手権、オリンピックで金メダルを取ってきた2人のレベルはあまりにも高く衝撃的であった。
    音楽が止まりポーズを決めていた2人がガードのほうに向いて手を振ると、子供たちはエッジカバーを取ってリンクへなだれ込んで行った。
    「本物?本物!?」
    「ハーイ!ヴィクトルだよ!!」
    「コップンカップ、勝生勇利です」
    「ユーリ!!」
    「ヴィクトル!!」
    みんな口々に名前を呼んではいるけれど、ある一定の距離を保ったまま2人の周りに輪を作りそれ以上近づこうとしない。手を合わせて拝んでいる子もいる。
    「あー、日本でもよくこうやって手を合わせられた覚えがあるよ、勇利」
    「日本でも尊いものは拝むからね。僕もよくヴィクトルの姿が見られるとテレビの前で手を合わせてた」
    「ええっ!?そうなの?」
    「うん」
    「あの!!」
    日本語が飛んで来た。
    「あ、ご無沙汰してます、村元さん!」
    「お2人が来るなんて聞いてなくて!ピチットくんったら、今日はレッスン終わりにゲストを連れて来るからすぐ帰らないでね、なんて言ってただけだったんです!」
    「すみません、僕らもさっきサプライズ・ゲストだからね!って聞いたばかりで」
    「村元コーチ!ビックリした?」
    ピチットくんがガードの向こうから声をかけて来た。
    「ちょっとピチットくん!聞いてないよ~!もうっ!!」
    「少し滑ってもらったら?勇利のコンパルソリー、すごく綺麗だよ」
    ピチットくんの言葉から勇利がコンパルソリーを滑ってみせた。美しく描かれて行く綺麗な円が何周してもコンパスで描いた円そのものだ。その大きな円の周りに小さな円をいくつも描いていく。沢山描いても円が重なっていた。綺麗な曲線をいくつも描いて、氷の上には曲線が重なった美しいデザインが描かれていた。製氷したあとならもっと美しかったに違いない。そのあとヴィクトルのパワージャンプと勇利の繊細なジャンプの違いを見せたり、みんなで一緒に滑ったりしているうちにあっという間に時間が経っていった。
    「じゃあ、そろそろヴィクトルと勇利とはお別れの時間です。お礼を言ってバイバイしようね!」
    「ありがとうございました!!」
    それから氷から上がってもサイン攻めにあった2人が十数人の子供たちに対応していると、ノービスのクラスの女の子が勇利からサインをもらったあとにこう告げたのである。
    「勝生勇利さん、私と結婚してください!!」
    「ええっ!」
    突然のプロポーズに勇利は声をあげた。相手はまだ5歳か6歳くらいの女の子である。
    「あのっ!パパがリンク作ってくれるって言ってたの!おうちも大きいのよ!」
    タイでの有数の企業のお嬢さんらしく、本気でオリンピックを目指すつもりならリンクを作ってあげると父親が言ってしまったらしい。英才教育を受けているのだろう、綺麗な英語を話している。
    「お買い得だと思うの!」
    その表現は間違っているよと思いつつ、強い視線を感じて女の子の後方を見るとじっと勇利を見つめているヴィクトルが立っていた。
    「あ~、あのね、僕はもう相手がいるんだ。だから‥‥‥ごめんね」
    「だ、誰!?綺麗な人?」
    「あーうん、すごく綺麗な人だよ」
    「スケートは?スケートは上手いのかしら?」
    「うん、すごく上手い」
    その言葉に女の子は言葉が出なくなった。歳の割にはスケートの筋が良く自分でも上手いと自負している子だったが、勇利が上手いというからには今の自分では太刀打ち出来ないと思ったのだろう。
    「ごめんね。でも今は結婚よりスケートを頑張って欲しいな!」
    少し涙目になっていたが勇利がそう言うとコクンと頷いた。納得してくれたかとホッとした勇利だったがそのあとの言葉に驚かされた。
    「わかったわ。あと10年したら私は世界一になる!その時は私を選んでもらえるようになってるから!!」
    そう宣言した女の子は迎えに来た執事のもとへと走って帰っていった。


    「あ~らら、失恋させちゃった!」
    勇利をピチットくんがからかった。
    「もう、なに言ってるんだよ、ピチットくんは!」
    「ヴィクトルの目つきが一瞬怖くなってたから気をつけてね」
    「なにそれ!だって小学校に上がるか上がらないかくらいの子でしょ?」
    「子供だからって油断しちゃダメだよ勇利。あの子はねぇけっこう執念深いタイプだから。それにヴィクトルの嫉妬を買っちゃったよ、あれは!」
    「あの子に関してはないない!小さすぎるでしょ!!」
    「勇利は甘いなぁ~」
    そんなことを話しながらピチットくんの案内で早めの夕食を予約しているレストランへと向うことになった。ヴィクトルが村元コーチも時間があるなら一緒にどう?と誘い、そのつもりで予約入れてあるから行こう!とピチットくんが誘うと村元コーチは「ピチットくん、ありがとう~!」とピチットくんに抱きついて喜んだ。4人でわいわい食事をし村元コーチと別れた頃にはかなり遅い時間になっていた。
    「はー、お腹いっぱいだったけれどおしゃべりしてお茶してたらこなれてきた!ピチットくん、すごく美味しかった!」
    「喜んでもらえて良かった!そうだ勇利、村元コーチと日本語で何を話してたの?」
    「うん、この間のアイスショーどうだったとか、これからどうするの?とか」
    「ははは、コーチもミーハーだなぁ!普通のファンみたいだね!でも今後のことはヴィクトルが色々計画してスケジュール詰まってるんじゃないの?」
    「うん。でもあんまり詰め込みすぎないようにしてるよ。怪我をしてもいけないし」
    「ピチット、明日俺たちはサムイ島へ行くけれど、ピチットも一緒に行ってくれるんだよね?」
    ヴィクトルがピチットくんそう声をかけた。
    「あーうん、お邪魔だろうからホテルに案内したあとすぐに戻ろうかと思ってる」
    「もしスケジュールが空いてるなら、2~3日俺たちに同行してSNSにアップしてくれないかな?」



    「あなた、私がお休みの日にユーリ・カツキにプロポーズしたって聞いたけどほんとう?」
    「ほんとうよ!」
    「ヴィクトルは近くにいなかったの?」
    「いたわ」
    「ワーオ!なにも言われなかたの?」
    「見てただけだった」
    「相手にもされてないのね」
    「そんなことないわ。あのあとこっちの島でヴァケーションを楽しんだユーリとヴィクトル、帰国したあとにピチットがSNSに写真をアップしたでしょ?」
    「あー結婚式の?」
    「そう」
    「結婚式までしちゃったら望みないじゃない?」
    「そんなことないわ。ヴィクトルが私をライバルだと思ったのよ!」
    「そお?」
    「そうよ!日本でもロシアでも結婚式なんてしなかったのに、ここに来て急に結婚式なんて、私に焦ったんだわ!」
    「はじめからリゾート地で結婚式しようと思ってたんじゃないの?」
    「違うわ。だったらピチット以外の人も絶対招待するはずよ。ユーリなら絶対家族を呼ぶし、ヴィクトルがマッカチンを参加させないなんてないわ」
    「一理あるわね!」
    「でしょ?10年たったら私は世界一よ。15年たったら成人するわ。その頃にはヴィクトルなんて太ってはげたおじさんになってるもの。若い私には勝てないはずよ!」
    「わたし、あなたに負けるつもりないけど?」
    「そうね、あなただって強いからグランプリ・シリーズではどこかで金メダルとるかも。でもファイナルと世界選手権は私が勝つわ」
    「すごい自信ね!」
    「あなたに負けたくないもの」
    「あら!じゃあ私も世界一を目指してがんばるわ」
    「そう、私の計画のためにあなたにも頑張ってもらわないといけないのよ」
    「OK、乗ったわ!でも気になってることがひとつあるんだけど」
    「なに?」
    「ヴィクトルは太ったりしないと思うわよ」
    「そんなことないわ。細身でカッコ良かったパパも結婚して10年もたたないうちに太って今のサイズになったちゃったってママがいつも文句言ってるもの!」
    「あなたのパパは太ってるうちに入らないと思うけど?まあ、あなたのおめがねにかなうのは難しいってことよね。ねえ、それより、このままだとずっと勝生勇利とあなたの接点がないと思うんだけれど?」
    「そんなことは心配無用よ。ユーリは現役を引退したんだもの、パパに頼んで私のコーチになってもらえばいいのよ!」


    「だってさ!!ヴィクトルどうするの?ほとんど宣戦布告じゃない!」
    ピチットから送られて来たおませな5歳の女の子たちの会話の動画を見たあとヴィクトルはピチットに電話をかけた。なんとこの動画は彼女たちから撮って欲しいとピチットがお願いされたものだと言う。
    「情報提供ありがとう、ピチット。勇利がお金を積まれてあの子のコーチになるはずはないし、俺はあのおチビちゃんに勇利を取られるつもりはないよ?」
    「15年経ったら禿げて太るって」
    「俺は禿げないし太らないってば!」
    「おでこを心配するファン、けっこういるじゃない?」
    「俺は昔からおでこが広いの!ジュニアの頃から額の広さは変わってないんだからね!」
    「体重は‥‥‥増えてるようには見えないなぁ」
    「当たり前でしょ。現役の時から体重変わってないよ」
    「引退したのにアイスショーでクワド・ジャンプ飛んでるのヴィクトルだけだもんね」
    「今年からは勇利も加わるから、競技じゃ見られないプログラムを2人で作るよ。どう?」
    「なにそれ!オフシーズンになったら2人を追いかけないといけないじゃん!!」
    「ピチットのためならVIP席のチケットキープしておくよ」
    「本当!?」
    「もちろん!」
    「ちょっと、ピチットくんとヴィクトルで何を話してるの?最近2人で連絡取っててあやしいぞ!」
    「勇利、このあいだ勇利にプロポーズしてきた女の子がいたでしょ?」
    「うん」
    「あの子がね、15年後に勇利と結婚するつもりで画策してるって言ったら驚く?」
    「はあ?だってあの子、いまいくつなの?」
    「5歳だって!」
    「話しにならないよ。15年後なんて僕のことなんか覚えてないでしょ。それに僕が禿げて太ってるかもしれないじゃない!子供だから現実的に未来のことを考えてない証拠だよ」
    「えーっ!禿げて太るのって勇利なの!?」
    ピチットくんが声をあげた。
    「アハハっ!!」
    ヴィクトルが爆笑いする。
    「もう~、ヴィクトル、ピチットくんに連絡とりすぎ!ヴィクトルは僕としゃべってればいいでしょ!ピチットくん、またね!!」

    「笑ってる場合じゃないよ、ヴィクトル!」
    「ふふふっ、だってあの女の子がね、15年後には俺は太ってはげたおじさんになってるから勇利が愛想を尽かすって言ってたんだ」
    「ヴィクトルは太らないし、日本には優秀なお医者さんがいっぱいいるから禿げません!」
    「勇利だって俺が太らせたりしないし、勇利の家は禿げる家系じゃないでしょ?俺の父や祖父も禿げてないから大丈夫」
    「ホント!?良かった!ちょっと心配してたんだ」
    「ゆうりぃ~っ!!」
    そう言いながらヴィクトルは勇利を抱きしめた。
    「あの子は僕のヴィクトルオタク度を知らないんだよ。どんな姿になってもヴィクトルはヴィクトルだから、僕はヴィクトルの隣りにいる」
    「勇利、俺も同じだ。もし勇利が龍の姿になったとしても俺は勇利の隣りで勇利を愛し続けるよ。でもねおチビちゃんのプロポーズを見て思ったんだ。勇利はいつも俺たちの関係を『よくいるコーチとただの弟子です』って言い続けてるでしょ?それは俺たちの関係を公表したくないんじゃなくて単に恥ずかしいから気が楽な言い方をしてるっていうのもわかってる。世の中のほとんどの人は俺たちの関係を知ってると思ってるから。それでも俺は勇利が婚礼衣装を着た姿を見たいって思った。すごく綺麗だろうなって思ったしその横に俺が立っている写真も撮りたいって思った。あの島はリゾート地として有名だからきっと結婚式の施設なんかもきっとあるだろうと思ってピチットに聞いたら西洋式の結婚式も泊まるホテルでやってるって言われたんだ。ピチットに同行して写真や動画を撮ってSNSにアップして欲しいって言ったらピチットも張り切ってくれたからね」
    「ヴィクトル‥‥‥。僕、引退したあとのアイスショーの計画とかヴィクトルといっぱい進めていたからずっとヴィクトルの傍に居るのが当たり前だと思ってて何も考えてなかったんだ。でもあの綺麗な島で衣装つけて写真撮ろうって言われてビックリしたけれど、ついでにピチットくんもいい衣装着て写真とか動画撮ってくれて、どの写真も動画も本当に素敵で、ああマッカチンとお父さんとお母さんと真利姉ちゃんとユリオにヤコフコーチにっていっぱいみんな招待して結婚式したいなって思ったんだ!特にマッカチンは絶対一緒に写真撮りたいって思ったし!だからね、今回、一緒に婚礼衣装つけて写真撮ろうって言ってくれて嬉しかった!!ヴィクトルに寄って来る綺麗な人たちも一掃出来ると思ったし!」
    「それは俺のセリフでしょ?」
    「僕が何人の人を追い払ったと思ってるの?」
    「それは俺のセリフだよ、勇利。あんな5歳の女の子のプロポーズなんて数に入らないよ!すごい超有名権力者の息子だっていたんだからね!あれは本当に大変だったんだ‥‥‥」
    「えっ!?なにそれ!」
    「聞きたい?」
    「うん!!聞きたい、聞きたい!」
    「聞いたあとに俺を労ってくれる?」
    「も、もちろんだよ!そんなに大変だったの?」
    「そりゃーなんたって‥‥‥」


    END

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