唇が重なる瞬間に、こっそり目を開けてみる。
デザインされたように美しい流線を描く瞼には、寸分の手違いもなく長い睫毛が並んでいる。その完璧な放射線の先には人を惑わせる泣き黒子がひとつ。それを乗せる肌は何も上塗りしていなくたってくすむことなく透きとおっていて、ユキ自身の香りがオレの胸をくすぐった。
瞳を閉じていたって、この人は奇跡のように綺麗だ。こんな人とキスをしてること、嘘なんじゃないかと思う。かすかに感じる吐息にぽーっとさせられて、わからなくなってしまいそうになるけど。
ふいに、唇の先を濡れた感触がなぞった。驚いて離れようとするよりも先に両耳の後ろを捕まえられる。ユキは目をゆっくりと開くと、唇を触れあわせたままくすくすと笑った。
「見過ぎじゃない?」
……バレてた。唇に直接伝えられる音の振動も相まって、かっと熱をかき立てられる。どくどくと速度を上げ始めた鼓動もきっと伝わってしまっているだろう。
「だって綺麗なんだもん……」
「毎日見てるでしょう」
「見逃していい瞬間なんてないよ、ユキのこと」
本当はね。気持ちよくて、ぼんやりしちゃって、目を開けていられなくなっちゃうだけで。本当はずっと見ていたい。
「じゃあ、このままキスしていようか」
そう言うと、ユキは見つめあったままオレの口の中へと侵入してきた。反射的に目をつむりそうになってしまったオレを咎めるように内側を掬われて、舌先同士を押しつけられる。オレの方から絡めるように応えれば、ユキはもっと深いところを撫でてきた。
開かれたままのユキの瞳は、吸い込まれそうにきらきらと煌めいている。追い込まれた舌を吸い上げ返すと、ちらりとゆらめくのがたまらない。瞳の色が濃くなると、オレの舌はユキの口へと拐われていった。
視線も吐息も何もかも、ユキに奪われていく。離さないでいてくれるなら、オレは世界で一番幸せだ。