Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    madayorudayou

    @madayorudayou

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 129

    madayorudayou

    ☆quiet follow

    キリのいいところまで そのうち完成したらツイッターかぴくしぶに載せます

    交際まで秒読みと思ってたら面会謝絶を突きつけられた社長が頑張る話 絶対に負けたくないと思う恋はこれが初めてだった。明確なライバルがいるわけではない。けれど、どうしたって恋人になりたくて、誰にも譲りたくなかった。
     だから、僕のありったけの慎重さでモモとの仲を進展させた。オフで会うときはモモのペースに合わせて、少しずつ距離を縮めて。ゲームではいつも通りに接して、モモがリラックスして話せるように。オンとオフでの差をなくしていけるように、バランスを見極めて逢瀬を重ねた。
     顔を合わせたばかりのうちは委縮していたモモも、だんだんと肩の力が抜けて、ちゃんと隣を歩いてくれるようになった。僕を見る視線に甘さが混じりだして、見つめ返せばはにかんでくれた。
     いける。次のデートは夜にして、雰囲気の良い場所に連れて行って想いを伝えよう。そう勝利の確信を抱いた矢先だった。

    『ごめんなさい、しばらくゲームでもオフでも会えません。会えるようになったら連絡します!』

     そんなダイレクトメールが届いたのは。



    「ねえ君、絶対落ちたと思ってた相手から告白する前にフラれたことはある?」
    「どこから嫌味ですか?」

     秘書が取引先の資料を僕の前に積みながら冷たく言い放つ。プライベートの弱音を吐ける唯一の相手なのに。
     昼までに目を通しておいてくださいね、と言われたそれには逐一付箋が付けられている。仕事人間め。僕の秘書は人の心を解さないロボットか。

    「上司のご機嫌取りも仕事のうちじゃない? 快くパフォーマンスを上げるためにさ」
    「自分は社長を甘やかすために雇われたわけではありませんので。そういうのは春原さんにしてもらったらどうですか」
    「誰の話してたのか分かってるんじゃないか。そのモモと会えてないって言ってるんだ」
    「はは。ウケますね」

     使えない秘書め。
     笑い事じゃない。ゲーム中のチャットじゃないから、どうして、と聞き返せなかった。声も聞いていないから、どんな調子だったのかも分からない。都合が悪いのか僕に会いたくないだけなのかも分からないままではどんな言葉をかけるのもはばかられて、結局「連絡待ってるから」という簡素なメッセージしか送れなかった。それ以来、モモとの連絡は途絶えている。

    「せめて元気かどうかだけでも知れたらいいんだけど……」
    「珍しいですね、折笠さんがそんなに一人に入れ込むなんて。フってもフラれても意に介さない人じゃありませんでした?」
    「それは……」

     当然だ。モモは他の誰とも違う。こんなに僕を夢中にさせるほど魅力的な人は他にいない。だけど、そうだ。ただ好きで、恋人になりたいからってだけじゃない。

    「心配なんだ」

     僕はモモ自身のことをたくさん教えてもらったようでいて、それほど多くを知らない。ゲームが上手で、優しくて、コンビニで働いていて、一人で暮らしている。それくらいだ。顔を合わせなくても元気な姿を想像できるほど、モモの生活を深くは知らない。住まいも、頼れる人がいるのかも。むしろ、食生活の偏りが伺えてしまっているせいで、余計に心配ばかりが募る。
     けれど、僕はまだ恋人じゃないから、強引に踏み込むことができない。友人としてなら口出しできるほどの仲かというと、それも難しい。バーチャル世界の仲間から、偶然リアルでも縁ができただけの始まりが痛い。モモへ抱く気持ちに今の関係が伴わなくて、歯がゆい。

    「堂々と干渉できるように、さっさと恋人になっておけばよかった……」
    「……はあ」

     秘書はちゃんと聞いていたのかいないのかあいまいな相槌を打った。そんなことより仕事をしろとでも言いたいんだろう。仕方ないじゃないか。恋の悩みならいくらでも横に置いておけるだろうけど、心配する気持ちは本人の無事を確認できない限り、僕一人では解消できない。

    「お気持ちは分かりましたけど、午後の会合までにはちゃんとしててくださいね。リスケはできませんよ」
    「分かってるよ……」
    「コーヒーでも買ってきます。他に必要なものがあれば連絡してください」

     そう言うと、秘書はさっさと社長室を出てしまった。冷たい奴だ。仕事ができて信頼が置けると言えば、そうなのだけど。
     恨み節を紡いでいても何にもならないので、資料に目を通す。モモのことはいつまでかかるか分からないけれど、目の前の仕事は今こなさなければならない。この席にいる役割を全うしなければ。
     十数分ほど経って、スマートフォンから通知音が上がった。秘書からだ。集中しかけたところに水を差すなんて使えない秘書め、と思いながらおざなりに手に取る。けれど通知欄に踊る文字を見て、急いでメッセージアプリを開いた。

    『勤務中の春原さんにお会いできたので、予定をつけてきました。日曜の十五時、渋谷で構いませんか』

     訂正。僕の秘書ってとっても有能。



     そんなわけで、日曜の渋谷、十四時四〇分。駅前の待ち合わせ場所には、すでにモモの姿があった。人混みのさなかにも関わらず、モモは改札を出たばかりの僕を見つけると、ぱっと目を輝かせて駆け寄ってきた。

    「ユキさん! 久しぶり!」

     かわいい。

    「久しぶり。待たせちゃったね」
    「ううん。オレのバイトの上がりがちょっと早かっただけ」
    「そう。お仕事お疲れさま」
    「ユキさんもお疲れさま! 最近また忙しくしてるって聞いたよ」

     人いきれを避けて路地へ出る。軽く触れた肩の肉付きは変わらないようだった。横断歩道を渡る足取りからも目立った疲労は感じられない。

    「よかった。モモが元気そうで」
    「へ?」
    「どうしているか分からないから、心配してた」
    「……心配、してくれてたの?」

     モモが意外そうに僕を見上げる。分からないものかな。君のことを気にしてるって、態度で示しているつもりなのに。

    「何も教えてくれずにいきなり会えないって言われたら、それは気になるだろ」
    「う、ごめん……。でもオレなら平気だって! ユキさんみたいに激務じゃないし、ユキさんよりちょっと若いし!」
    「でもエナドリ」
    「う」
    「分かってくれた?」
    「すみません……。最近はちゃんと気を付けてるよ」

     以前、プレイ中のボイスチャットでエナジードリンクの消費量を耳にしたときは、そのあまりの多さに初めてモモに怒ったものだったと思い出す。思えば、あの頃からだった。一緒にゲームをしている間だけじゃなくて、それ以外のモモのことまで放っておけなくなったのは。
     僕を助けてくれたヒーローみたいなモモにも、抜けている一面があると知ったから。ただの相棒よりもぐっと身近になって、もっと知りたくなって、止まれないほど好きになっていた。
     俯いてしまった丸い頭に、顔を上げてよ、と声をかけて撫でる。こちらを振りむいた顔はしょげていて、ころころ変わる表情がまたかわいい。安心させるように微笑んでやれば、モモは赤く染まる顔をぱっと逸らした。

    「っあ、えっと、どこ行くの?」
    「え?」
    「あれ、どっか向かってるんじゃなかったの?」

     歩道の端で、はたと立ち止まる。そういえば、何も考えていなかった。店の予約もしていなければ、目的地の一つも決めていない。さすがの秘書もそこまではしてくれなかった。当然だ。これは僕自身を見せるべきところなんだから。

    「…………ごめん、あてもなく歩いてた……」
    「え!? ユキさんが珍しい!」
    「モモに会うことしか考えてなくて……」

     我ながらみっともない。次に会うときには告白をと意気込んでいたくせに、好きな子をむやみに歩かせるなんて。これではただのデートだとしてもお粗末じゃないか。革靴の照りが余計に目に痛い。格好つけてばかりいないで、中身までスマートになれよ。

    「……じゃあ、じゃあさ。オレの行きたいとこ、行ってもいい?」

     モモが控えめに僕の袖を引く。僕を見上げる目は心なしかきらきらしていた。僕の失態を目の前にして、そんな顔しなくたって。だけど、期待が滲む瞳はやっぱりかわいくて、叶えてあげたくなる。

    「どこ?」
    「ゲーセン!」

     モモは朗らかに笑う。その声色は、ゲームの中で初めて会ったときと同じだった。今でも覚えている。安心させるように優しくて、いきなり信頼を託せるほど力強い、僕のヒーローの声。
     モモはいつだって、僕を引っ張り上げてくれる。

    「回線上だけじゃなくてさ、たまには隣で、ユキとゲームしてみたいな」

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺☺☺☺☺💖❤☺💖💖💖❤❤💖💖💖💖💖💞❄🍑💞☺☺☺👏👏💯💖💖💖💖👏❤❤❤❤🙏☺☺💖❤☺☺👏🙏🙏☺👏👏🙏💯💖💖💖💖💖😍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works