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    bakugatou

    @bakuga_10

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    bakugatou

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    外伝ネタです。
    叔父上と子犬(と小鳥と子猫)
    ⚠叔父上は捏造オブ捏造です。

    one afternoon「おやぁ?こんな屋上トコで奇遇だねぇ。カルエゴちゃんもしかしてサボリ?」
     背後から降ってきた声に、ナベリウス・カルエゴは束の間の休息が破られたことを悟った。形の良い眉をきゅっと寄せて声の方向に目をやれば、案の定、校内で最も会いたくない人物がニヤついた顔でそこに立っていた。
     着古した皺だらけの教師服に無精髭は伸びっぱなし、手入れしていない髪はあちこち寝癖がついたまま目元を覆い隠すまでに伸び切っていて、およそ緊張感の欠片も感じられない。古くから魔界の番人の役目を担ってきた名門ナベリウス家の血がこの男にも流れていることがカルエゴには未だに信じ難かった。
    「今日は午後から休講です。叔父上こそ勤務中に屋上で一服とはいいご身分ですね。確か喫煙所以外は禁煙のはずですが」
    「もーカタイ事言うなって。そんな嫌そうな顔しちゃって、昔はあんなに『おじうえおじうえ』って慕ってくれたのになァ…オジさん悲しい」
    「そんな小さい頃のことは覚えてません。失礼します」
     もはや同じ空気を吸うことすら不快だ。一刻も早くこの場を立ち去りたい。そんな感情を隠そうともせず、カルエゴはさっと立ち上がり歩き出そうとする。
    「まぁまぁせっかくなんだし、ちょっとオジさんとお話ししようよ」
    「生憎ですが貴方と話すことなど何もない。そこをどいてください」
    「ツレないねぇ。よし、じゃあこうしよう。ここを通りたくばこの俺を倒してからにし……って、ちょっと待って、待ってカルエゴちゃん!!いきなりケルベロスはないだろ。もう、ジョークだよジョーク!」
     へらへらと笑う男にカルエゴは険しい顔のまま、はぁと大きなため息をついて
    「貴方のくだらない冗談に付き合っている暇はないんですが」
    「ははっ、そうツンケンすんなって」
     そう言って男は腕を伸ばすと、カルエゴの頭を遠慮なしにわしゃわしゃと撫で回す。
    「ちょっと!やめてください!」
    「カルエゴちゃん俺の若い頃そっくりだからさー、なんか放っとけないっていうか、叔父ゴゴロ?っていうか…」
    「ハァ?!貴方と一緒にしないでいただきたい」
     カルエゴは男の腕を振りほどくと心底嫌そうな顔で男を睨みつけた。叔父上はナベリウスの恥晒しだ、思わず出かかった言葉はかろうじて飲み込んだ。番犬の役目を担う者はもっと粛然とあるべきだ。こんなだらしない屑みたいなふざけた男で良いはずがない。この男がバビルスの番犬であることが嫌で嫌で堪らなかった。だが、そんなカルエゴの思いなど気にも留めない様子で男は続ける。
    「こんな屋上でひとり膝抱えちゃって何か悩みごと?学校生活とか家のこととか、あ!もしかして恋の悩み?あとは…将来のこととか?」
    「別にそんなんじゃありません。それに俺の進むべき道なら決まっている。ナベリウスの名に恥じぬ立派な・・・バビルスの番犬になることです。では失礼します」
     荒々しく靴音をたてながらカルエゴは階段に向かって歩き始める。
    「それは将来の話じゃない。ただの義務の話だろ」
     背後から聞こえたその声から、それまでの軽薄さが一切消えたように感じてカルエゴは思わず振り返った。が、男は相変わらず、にへらと笑いなから佇んでいて
    「そうやって他者を寄せつけずにゲンシュクな番犬を目指すのもいいけどさぁ、もっとお前自身を大切にしないといつか大事なことを見失っちゃうかもよ?」
     そして男は、両手を重ねて影絵のように犬の形を作ると、わん!と一声鳴いてみせた。
    「…ッ!だとしても貴方には関係ない話でしょう?」
     言いかけたその時だった。
    「カルエゴくん!ここにいたんだ!」
     カツカツと階段を駆け上がってくる爪音とともに少年の無邪気な声が響き渡った。
    「シチロウ!とオペラ、、先輩…」
     校内で二番目に会いたくない悪魔の登場にカルエゴの表情が露骨に曇る。
    「カルエゴくんずいぶん探したんですよ、体育館の裏とかバトラの物置とか旧校舎の地下のトイレとか」
    「アンタそれ探す場所がおかしいでしょう」
    「あ!ナベリウス先生こんにちは」
     ようやく男に気づいたシチロウが挨拶をすれば、
    「はいどーも。確かカルエゴの同級生のバラムくんと転入生の…」
    「オペラです。いつもカルエゴくんにはお世話をしてあげています」
    「おいデタラメなこと言うな!それより何の用だ?」
     カルエゴの言葉にシチロウはにこにこしながら、
    「あのね、オペラ先輩が魔クドナルドの割引券持ってるんだって。これから三人で行かない?僕、新作のシェイクが飲みたいな」
    「魔ク…?俺は甘いものはあまり好かんが、まあシチロウが行きたいなら…」
    「仕方ありませんね、カルエゴくんには特別にホイップとキャラメルソース増量で、チョコチップとマシュマロトッピングの激甘シェイクを奢って差し上げます」
    「飲めるかアホ!」
    「もうカルエゴくんったら。大丈夫ですよ、そんなメニュー魔ックにはありませんから」
    「アンタ…いい加減にしてください!」
    「まあまあ二人とも、早く行こうよ。それじゃあ先生さようなら」
    「そうですね、ではナベリウス先生失礼します」
    「…失礼します叔、、ナベリウス先生」
    「ほーい、あまり遅くならないうちにお家に帰るんだぞ」
     ぺこりと一礼をして、三人はその場を去っていった。

     一人屋上に残った男は、教師服のポケットから吸いかけの煙草を取り出すと注意深く形を整えて火を着ける。ゆっくりと煙を吐き出しながら見つめる先にあるのは、はしゃぎながら校庭を歩く三人の姿だ。
    カルエゴあいつも優秀なだけに積極的に他者と関わろうとしないところがあるからな…心配してたがあの様子じゃ大丈夫そうだ。んー余計なおせっかいだったかなァ」
     ぽりぽりと頭を掻きながら独りごちる。銀のバングルが太陽を反射して一瞬キラリと光を放った。バビルスの番犬の座を譲り渡す日もそう遠い未来ではないだろう。せめてその日までは、己の使命を全うするとしよう。
    「さて、一服したらもうひと眠りすっかな。本日も平和平和っと」
     うんとひとつ伸びをして男はやがて屋上を後にする。青く澄んだ空は高く、いつしか秋の気配が近づいていた。

    (了)
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