ミッテルフランク歌劇団と戦争アドラステア帝国の新しい皇帝が繰り広げる新しい時代の章は、長い間フォドラを治めた教会との戦争を知らせるラッパの音とともに始まった。

帝国の善戦のおかげで、帝都アンヴァルは他のどの地域よりも安定していた。しかし、フォドラ全体を舞台に勃発した戦争で多くの若者が戦場に出て街は活気を失った。ミッテルフランク歌劇団の舞台に灯りがともって久しい。帰る故郷はなく、劇団が家だった劇団員たちを中心に群れを成してあちこちを流浪しながら街頭公演をする生活が続いた。
そうするうちにある村で会った傭兵たちに歌劇団で一番有名だった歌姫が、今は帝国軍の将軍だという噂を聞くことになった。歌劇団の人々はそれがマヌエラであることを知った。そして帝国軍には戦争後、消息が途絶えたドロテアもいるようだった。
歌劇団に戦う才能はなかった。剣舞が少しできるのと人を斬るのは全く違っていた。まさに戦争を通じて知った重くて当然の事実だった。しかし、軍隊とは兵士だけを必要とするわけではなかった。雑用を引き受けてもいいと思った。マヌエラとドロテアなら、昔の仲間たちを歓迎してくれると信じていた。
歌劇団員たちはマヌエラが指揮する部隊に訪れ、そのまま皇帝最精鋭軍である遊撃隊にまで流れ込むことになった。 そこでドロテアと再会できた。 ドロテアは涙を流して喜んだが、同時に複雑な表情を浮かべた。
「すべてが終わったら一緒に帰ろう」
そのような言葉で心を引き締めたが、ドロテアが戦線に出て帰ってくる度に見える疲れた顔に慰労を伝わることさえ難しかった。

ガルグマクで一緒に修学した人々が再び集まり、ベレスが参戦した後、勝利の知らせが相次ぐ日々が続いた。心に余裕ができた歌劇団の人たちは、本部のガルグマク庭園で帝国軍の活躍を歌ったりもした。
歌劇団は一時、最も人気が高かった作品や即興劇を披露した。その中でも戦争劇が最も人気が高かった。公演を見に来る観客は主に一般兵士たちや、戦線に出ずに部隊で雑用をする人、そしてガルグマクに住んでいる避難民たちだった。
公演があった日にはドロテアも見に来て、その日の感想を団員たちに聞かせてくれた。見なかった間に、大人になったドロテアだったが、歌劇について語る時、きらめく両目は以前の姿そのままだった。

そして一時、いやこれからも、熱烈なマヌエラのファンであり、歌劇を愛するフェルディナントは歌劇団の庭園公演にじっとしていられなかった。
偶然通りすがりに聞こえてきた歌声に急いで走ってみたが、休息中の一般兵士や負傷者、子どもたち、働き手、商人たちが劇を見るためにわいわい集まっていた。その隙間に入り込む自信がなかった彼は、庭園をぐるりと回って歌だけでも聞けるように、草むらの反対側に行って耳を傾けた。幼い頃から大好きだった曲も聞こえてきて、訳もなく昔のことが思い浮かんだせいで涙まで少し流れた。その次の曲を聞いてフェルディナントは喜びに驚いてしまった。それは即興曲で、前回の戦闘で彼の功績が歌詞一行になってその名前が呼ばれたからだった。彼は早く戦争を終えて素敵な舞台で広がる歌劇団の公演を思う存分見たいと思いながら泣いて、また笑った。
通りかかったヒューベルトは、この光景を目撃して気を使わなければならないのか、それとも無視しなければならないのか迷った。一人だけの雰囲気に酔っているフェルディナントを邪魔したくなくてフェルディナントの豊かな反応をしばらく見て席を離れた。

歌劇団員の歌をよく聞くようになった兵士たちは、行軍の時に退屈を紛らすためにみんなで歌を口ずさんだり騒々しく歌うようになった。特にフェルディナント率いる部隊が歌をよく歌った。フェルディナントは誰よりも先に歌い始め、その声が他の部隊にまで聞こえてきたりした。
その声を聞いた兵士たちは「私たちの部隊にはマヌエラ様がいらっしゃるのに」「私たちはドロテア様がいらっしゃるのに」と歌で負けることを悔しく思った。特にドロテアがいる部隊では、その声で歌をぜひ一度でも聞かせてほしいという懇請が続いた。
「先輩と一緒に歌うのなら、私も歌うよ」
ドロテアはにっこりと笑いながら、先に釘を刺した。婉曲な拒絶の返事だったが、ドロテアがいる部隊の兵士たちはあきらめなかった。夜中に密かにマヌエラに賄賂として酒を持って行くなど、かわいいハプニングまで起きた。
マヌエラはドロテアが自分と同じ舞台に立ちたがっていたことを知っていた。実はかわいい後輩と一緒に歌うことは、マヌエラにとってそれほど難しいことではなかった。ただ、すでに舞台から退いて長い時間が経って、歌劇団員と兵士たちが見るに恥ずかしい姿でも見えるのではないかと内心不安だった。
代わりにマヌエラはわざとドロテアに歌いたい曲を決めるように選択権を渡した。マヌエラの意図通り、ドロテアは曲を決めるのに数週間かかった。曲の選定にフェルディナントが密かに参加したという事実だけはマヌエラに秘密だった。