総統の指示に従い、隊員たちの緊急招集を行う。突如訪れた慌ただしさと緊張感。そんな中でも側近のプルデスは手早く隊員の選出を行い、各員への通達を的確にこなしている。部隊内では最年長であり経験豊富な人物とはいえ、彼もこんな事態を経験するのは初めてのはずだ。にもかかわらず落ち着き払った彼の態度は、幾ばくか部隊内の混乱を収めてくれる。
「ほんと、助かりますよ。あんたがいてくれて良かった」
そう声をかけると、プルデスは静かに笑い、短く整えられた顎髭を撫でる。
「いえいえ、これしきのこと。私でお力になれるのであればお安い御用ですよ。ですが―――」
そこまで言うとプルデスは、声のトーンを一つ落とす。皴の深くなってきた目元に、真剣な色が差す。
「私は、連れて行っていただけないのですね」
彼の声と視線に、思わず目を逸らす。彼の作った隊員リストから彼の名を消したのは俺だ。今回の戦いは今までとは違う。死地に赴くことを分かっていて、あえてそれを選んだというのに、その覚悟をふいにされれば憤るのは当然だろう。
「……プルデスさん、あんたは残ってください。今回の戦いに、あんたは連れていけない」
「おや。歳は食っておりますが、そこらの若造よりは使い物になると自負しておりますよ」
「だからですよ。後のこと任せられるのはあんたしかいない。イニティオを支えてやってください」
そこまで言うと、プルデスは一瞬口をつぐむ。イニティオは部隊の中でも最年少の青年で、現在唯一の愚者の適性者だ。プルデスと共に側近として補佐をさせているものの、まだまだ足りない部分ばかり。それでも心根の真っ直ぐな彼を、プルデスも随分と可愛がっている。
「今回ばかりはどうなるか分かりません。勝っても負けても、その先の世界がどんな姿をしているのか……。だから俺は、可能な限り手を打っておきたいんすよ。手駒は多い方がいいじゃないすか」
実際、彼は補佐としてはもちろん、戦闘員としても非常に優秀だ。彼がいてくれれば俺も、そして他の隊員達にとっても心強いのは事実だ。だが、俺は負けたくない。仮に勝てなかったとしても、決して相手に完全勝利を握らせたくはない。だから、可能性を残しておく。もし、俺が戻らなかったとして。もし、世界が再び崩壊したとして。それでも、俺の残した彼らが生き残り、やつらの寝首を掻く可能性が一パーセントでもあるのなら。
「あんたらなら、やってくれるでしょう?」
俺の言葉に、プルデスは深く息を吐く。呆れとあきらめと、寂寥の表情。
「……本当に、貴方は先代そっくりだ」
「あの人に全部教えてもらったんでね」
「今目の前にいる彼らを―――貴方を、守らせてはいただけないのですね」
「…………」
その言葉には答えられなかった。残される痛みを、何もできない悔しさを、彼に強いているのは俺自身なのだから。
それでも彼はこちらへ向き直り、背筋の伸ばし、綺麗にそろった指を額に当てて敬礼をする。
「……無事のご帰還を、心よりお祈り申し上げます」
「……ええ。しばらく留守にしますんで、あと宜しくお願いします」
死ぬ覚悟なんてしない。戻らない覚悟なんてしない。何も奪わせなどしない。次は、こちらが奪い返す番だろう?