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    かんな

    考察や共作のプロット、pixivにはおけないようなものを置いています。
    健全からR18までごった煮です。
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    かんな

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    お題 露台に舞う花びら

    習作「初桜」 春の陽気というのは、人の心を浮かれさせる。
     人気のない露台には時折風が吹き、その度に桜の花弁が無数に舞い降りて、私にまとわりついた。
    「まるで春の雪だな……」
     私は手すりに手をつき、この国の春の風景を眺める。
     遠くに聞こえる鳥の声、わずかに香る花々の麗しさ。
     頬を撫でる緑の風は、見える景色の先へ、未来へと私を誘う。
     こんな穏やかな日が、ずっと続いてほしい。
     それを噛み締めるように、瞼を閉じた。

     ことり、と何かが落ちる音がして。
     私は慌てて振り向く。ここには誰もいないと思っていたのだが、露台の隅に長椅子があるのが見えた。
     露台へ伸びる桜の木の枝が、椅子へも花弁を降らせている。その下には幾つもの木簡が転がっており、朱の服の裾がゆらゆらと風に遊んでいる。
     なるほどと私は歩み寄り、読みかけていたであろう開いたままのそれも手に取り、くるくると丸めた。
     長椅子で眠っている彼の寝顔にかかる枝の影。短い黒髪には花弁が散っていて、その数が彼のいた時間を教えてくれる。
     風が吹き、またひらりと花弁が私と彼に降り。
     その頬に、唇に落ちた時私は思わず彼に手を伸ばしていた。
     手を伸ばそうとしたのは花弁か、あるいは――

    「……おとうさん」
     突然現れた声と姿にひっと声を上げると、そこには私の娘がいた。椅子の陰に隠れて座っていたので気がつかなかった。
    「ア、アルルゥ、いつからそこに」
    「ずっといた」
    「そ、そうか」
    「おとうさん、……なにしてたの?」
    「いや、なにって、花びらが」
     むうっと頬を膨らませたアルルゥが私に問うてくるから、声がうわずってしまう。
    「ダメ」
    「な、何がだ?」
    「寝てる」
    「あ、ああ、今日は休みだからな。起こしたりはしないよ」
    「ん」
     私は丸めた木簡をアルルゥに渡し、露台を去る。あの二人が仲良くしているのは微笑ましいが、少し寂しく複雑な気持ちにもなった。

     まったく、春の陽気というのは、人の心を浮かれさせていけない。
     穏やかで美しい風景の中に、普段見ることのない彼の安寧のひとときを見つけてしまって。
     だから、私は。


    ***


    「……アルルゥ様」
    「おこした?」
    「いいえ、起きていましたよ」
     彼はゆっくりと起き上がり、ついた花弁を手で払った。
    「おとうさん、ベナに変なことしようとした」
    「変なこと、ですか?」
    「ん」
    「……そうですか」
     彼は淡く微笑み、アルルゥの髪についている花弁も払う。淡い紅色のそれがひらひらと落ちる。
    「アルルゥ様、もし聖上が……その『変なこと』を私にしていたら、どうしていましたか?」
    「ダメ」
    「おや、聖上でもですか」
    「ん。だっておとうさん、……ベナのこと好きだもん」
     アルルゥが拗ねるように、小さく呟く。彼は少し目を丸くして、そしてまた彼女に微笑む。
    「……それはダメなことなのですか?」
    「だって、……おとうさんだけ、ずるい」
     口を尖らせるアルルゥの頬に重なる枝の影。
     彼女の髪に、ベナウィの朱の服にもまた、咲き続ける花弁が静かに降り注いでいる。
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