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    毎日美味い肉でもいい

    #切星
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     俺を独り占めできるかもしれないと知ったら、どんな顔で喜ぶのかな。
     星宮の腕に下品な色の手錠をかけながら、切澤はそう考える。ショッキングピンクはふわふわの毛に包まれていて、目には痛くとも腕にはやさしいのだそうだ。星宮に選ばせたものだから、実際のところは分からない。単純にこの色が好みなのかもしれない。
     ママ活で体を求められることは、実のところ少なくなかった。一昔前は援助交際と言っていたもので、それなりの交際を求められることが多いのだ。切澤はママの一人に言われて交際という言葉の意味を調べたことがあるが、「まじわり」と書いてあるのを確かに見た。そんなんセックスじゃん、と安直に思う。
     それでも、ホテルに連れ込もうとする人間は、友人から聞くパパ活に比べれば少ないような気もする。大切にしているから。純愛だから。そんなことを言わなくても「本当の母親のように思ってるから」なんて言葉で黙るママをたくさん見た。母性とは不可解なものだ。
     そんなカンタンな仕事でも、気をつけていることが一つだけある。
    「あのさ、俺がママ活やめたら嬉しい?」
     手錠を繋ぐ短い鎖を、ぐ、と頭上に押さえつける。両腕を上げた状態で、星宮は「へ?」とバカみたいな声を出していた。
    「それ……今、言う?」
     口の端が引きつっていて、可愛くないやつだとため息を吐いた。
    「焦らされんの好きでしょ」
     そう言ってさりげなく星宮の頭に合わせ枕の位置を調整してやる。こういう細やかな気遣いが年上の女性に受けるというのに、星宮は気付かないので、切澤は面白くない。
    「焦ら……ていうか、何それ。やめるの?」
    「いや? ただ聞いただけ。けど……」
     切澤は星宮のTシャツの裾から手を差し込んだ。へその周りを人差し指でくるくるとなぞり、くぼみの中へと沈ませる。ふ、と漏れた息はまだ情欲を孕んでおらず、徐々に笑い声へと変わっていった。
     両手で腹をくすぐっても、手錠に拘束された男は従順だ。その気になれば壊すことのできるオモチャではあるが、じゃらじゃらと鳴って指切りほどの効力になる。
    「……星宮がやめてって言ったらやめてあげよっかなあ」
     はー、はー、星宮から発せられる吐息はいつの間にか獣のように熱く曇っていて、無遠慮に股間を掴む。制止するような声もきっと、様式美というものなのだろう。変態だ、と切澤は思う。それを口に出したところで星宮は否定しないので、そういうことなのだ。
     何もケアしていないのに肌が綺麗なのは宅食サービスのおかげなのか、聞いてみたことがある。引きこもっているからだと説明されたが、あまり理解できなかった。引きこもっていたらカビでも生えそうなものなのに、星宮からは清潔な匂いがする。太陽の匂いがする。
     首の付け根に顔を埋めて、鼻から息を吸い込んだ。
     俺も変態だろうか。

    「俺は今のままでいいかな」
    「あ?」
    「ママ活。やめなくていいよ、別に」
     仲良く二人でシャワーを浴びたあと、ゲーミングチェアに座った星宮がそう言った。少し考えるような素振りをしたあとで、うんうんと頷く。もう一度納得したようだった。
     ベッドを占領して寝そべりながら、切澤は口を尖らせる。
    「なんで」
    「なんでって……うーん。俺、けっこう幸せなんだよな。こうしてる今が」
     照れくさそうに言って、頬をかく。その姿は見当違いなもので腹が立った。
     ママ活では、他のママを匂わせないことが最も重要である。恋人はもちろん、母親も子供一人に対して一人きりなことが多く、ママも嫉妬すればただの女だ。どんな状況であれ、他にもママがいると察された時点で援助を受けながらの交際は難しくなる。
     ママから金をもらい、星宮からも金をもらい、それでも星宮といるのが心地よいのは、セックスをしているからだろうと切澤は思っていた。
     ママとセックスをするのはなんだか気持ちわるいし、同年代の女と付き合うのは面倒臭いから、女とセックスをすること自体に興味がない。かといって他の男とセックスをしようとは思わず、今のところ関係を持ったのは星宮だけだった。特別なのだ。特別というのは、他と違うことを指す。
     切澤は、星宮一羽をもっと特別にしたかった。
     星宮はどう思っているんだろう?
    「……あ、いや……切澤」
     星宮は切澤の顔を見るなり慌てた様子で立ち上がる。そのままベッドへと近づいて来るので、切澤はごろんと反対側に顔を向けた。
     星宮は言葉を選んでいるように思えた。ゲームを作っているような変な男だから、もしかすると現実にも選択肢が見えているのかもしれない。もしくは、セーブしたところからやり直そうとしているのかもしれない。ゲームばかりやっているとバカになると言うし、エロゲばかりやっているからこいつは変態なんだろうと切澤はふと思う。
    「君さ、もしかして……」
     星宮の緊張したような声色に、がばっと思い切りよく起き上がる。その先を聞いても良かったけど、ただ頷くだけなんて面白くなかった。
     驚いた様子の星宮に、切澤はひとこと呟く。この言葉で星宮がとろとろに溶けてしまうことを知っていた。唇がきゅっと結ばれて、眉が下がり、目が細められる。まるで、食べるのが勿体ないような美味い肉の、最後の一口を咀嚼するみたいに。
     そうして生じた隙をついて、今度は脇腹をくすぐる。
    「ちょっ……おい! やめろってば、ふ、はっ……こら!」
     星宮が自分にいいようにされているところを見ると気分が良かった。いつもそうだ。金をせびっても物を盗っても、なんだかんだ許して寝顔を見せてもらえる。それに快感を覚えるし、同時にむず痒くもあった。その感情の名前はまだ知らない。
     そこでふと気付く。――手錠なんかなくても、星宮はいつだって従順だ。
     それが俺にだけだったらいい、と切澤は思う。
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