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    6章後から書いていた話ですが色々経て多分筆が進まないので

    ブラッドは案外顔に出やすい。他のみんなはいつもしかめっ面だとか表情筋の可動範囲が狭いだとか言うけれど、少なくともアカデミーの頃から共に過ごしてきたディノにとっては、ブラッドの表情の変化は分かりやすいくらいだった。
     オールドメイドで一騎討ちになったときだって、ブラッドの顔の前に二枚並べられたカードを吟味するように指を動かせば、右のカードに人差し指が差し掛かった瞬間ぴくりと眉尻を動かした。勝利を宣言したあとに、それをそのまま引き抜いて揃った数字を見せつけるように場にカードを捨てる。おー、またディノが勝ったか、と快調に言った。今回は運良く一番に上がったキースは高みの見物だった。暫く放心した様子のブラッドはクイーンのカードを同じ場に捨てて疑い深い目を向ける。
    「なぜ分かった」
     探るような目を向けられても困る。ブラッドは自分のポーカーフェイスに自信があるのだろう。
    「案外ブラッドって分かりやすいよ」
    「それはお前のほうだろう」
    「俺はどっちも分かんねーわ」
     ちょっと気をつけて見ていればすぐに分かる。ブラッにとってディノも同じようなものだろう。キースは人の表情をあまり気にしていない。ブラッドやディノがポーカーフェイスを気取るなら余計に。
    「戦況は半々くらいだったっけ」
    「次はブラックジャックでもする?」
     乱雑に捨てられたカードを揃えるように集める。負けず嫌いのブラッドが、次も俺が勝つと意地を見せてくれたのがケ微笑ましくて、カードを切りながら笑った。

     もう六年以上も前の記憶だった。

     目が覚めたディノは起き上がる。暗さに目が慣れないが、キースの寝息だけが響いていた。鮮烈な夢の名残をぼうっと見つめた黒い空間にうつしてしまい、再び寝付くことを諦める。手探りでテレビのリモコンを見つけてそれをつければ、液晶の明るさとそれを反射した自分の部屋に現実に引き戻されるようだった。音が鳴ったのに慌てて、イヤホンから流れるように設定して身に付ける。
     ウエストセクターに配属されてから、自分を避けるようにフェイスが動いていたことは分かっていた。共用スペースで歓迎のパーティーを開いたこともあったが、フェイスと会話をするのは、キースやジュニアを通しているような気がして、彼の言葉が直接自分に向いていることは少なかった。勿論、直接話しかければ返事はくれるのだけれど、雲をつかむような手応えだったのを覚えている。ルーキーズキャンプで刺すように憤りを浴びせられたときは、やっと無視ができないところまで踏み込んだのかと、申し訳ない気持ちと同時に嬉しさも感じたほどだ。周りに提示され続けた大きな目標は、根深いところでフェイスと繋がっている。それに隠れてしまった本心とやっと向き合えたフェイスからは、以前ほどの曖昧な嫌悪はなくなったように思う。
     夢で見た記憶のように、勝利を宣言したのと同じように、ブラッドに言った。フェイスくんを一人前のヒーローにするために全力を尽くす、と。
     以前に比べてブラッドの表情は固くなっていた。オールドメイドだったなら、クイーンを持っているという事実が分かっているのだから、表情の変化さえ分かればおのずと手は決まってくる。けれど。AAになる前に、ブラッドに何があったのか。表情を読み取ったところで、無限の選択肢からそんなことがわかるわけがない。
     突然イヤホンが耳から外れた。自然に落ちたのかと思って慌てて受け止めようとすると、それは一向に手元に落ちてくる気配はなく、宙に浮いている。
    「……ごめんキース。起こしちゃった?」
    「まーた何か買うつもりじゃねぇだろうな」
     規則性のないものや沢山の段ボールに囲まれたディノの部屋を見てキースは呆れた。ほらよ、と行き場を失っていた手にイヤホンが乗っかる。
    「考え事してたんだ」
    「へぇ? お前が?」
    「キースは俺をなんだと思ってるんだよ」
     苦笑すると、ラブアンドピース星人に決まってんだろと即答されてしまう。しゅっと摩擦の音が聞こえて一瞬オレンジが散る。暗い部屋では煙は見えないが、その匂いがキースが煙草をつけたことを証明していた。眠らないのかと尋ねるのは野暮だろう。吐き出すキースの息を聞きながら、思考を水に浸すように落ち着かせた。優しい静寂は先を促している。
    「ブラッドって頼るの下手だよな」
     一度大きく息を吐いた。
    「まあ、そうだな」

    「フェイスくんのこと、ブラッドはどうしたいんだろう」

    「これは俺の勘たけど、ブラッドはフェイスくんが隣に立ってくれることを期待してる……気がする。でもそういう風に動けない理由があるはずなんだ」

    「多分俺たちを頼ってくれているんだと思う」

    「メンターとメンティーっていう関係だったら、フェイスくんが一人前のヒーローになるように、俺たちが無理やりフェイスくんをブラッドのところまで連れて行ってやれるだろ?」

    「裏切りたいんじゃないかな。フェイスくんの、何でもできて誰よりも強いブラッド像を」
     アカデミーの記憶を引っ張り出しても、もう今は当時のフェイスがブラッドのことをべた褒めして離れなかったという曖昧なことしか思い出せない。

     アカデミーの頃からブラッドは大人や同級生から過度な期待をされていた。それに添うだけの努力をしていたし、応えるだけの実力も備えていた。きっと周りと同じように最愛の弟からも無垢で大きな期待を背負っていたのだ。アカデミーで主席のまま卒業してから、エリオスに入所してからも同じだった。優秀なブラッドにおける信頼は、その実績からもとにかく厚い。誠実な姿を見れば尚更だった。ただ、募る期待はブラッドを次第に追い詰めてた。
     研修を受けるようになってから焦っていたのを覚えている。メンターのジェイが手探りで始めたキャッチボールに、コミュニケーションをとる目的を見出したのが早かったのは良い。オーバーフロウを起こして力を誇示したのもまあ良い。さすがに様子のおかしいことに気付いたジェイが焦燥しているブラッドをどう沈静させようか思案している間に、イクリプスの襲撃を受けた。いつも柔和なジェイはここぞという時に一人になりたがる。こちらが気を遣うくらいジェイに気にされていることに、なんとなくキースもブラッドも気づいていたんだと思う。今の実力ならこれくらい一人でもなんとかなる程度の相手だった。しかし研修の謳い文句、チームワークを意識しての連携は、わざとらしく行われている。普段冷静なブラッドには焦りからか、苛立ちの色が見え始めていた。一息ついたところで司令部から敵の援軍の知らせが入った。
    「もういい。一人で行く」
    「おい、ブラッド!」
     ジェイの目を盗んで歩き出したブラッドをキースと一緒に引き留めるが、怖い顔をしたブラッドに足が竦んだ。

    「お前たちは足手まといだ」

     ブラッドへの信頼に、まさか本人から虚を衝かれるとは。傷つくより怒りに支配されるより、まず先に驚きで動けなかった。その隙にブラッドは走って行ってしまう。珍しく焦ったジェイにブラッドの居場所を聞かれ、首を横に振ると同時に敵の増援に襲われた。
     キースとジェイと三人でなんとか切り抜けはしたが、先程とは打って変わって、てんで駄目だった。キースの能力で突然からだが浮かび上がったときは内臓がぞわりと鳥肌を立てた。そのまま敵のど真ん中に飛ばされ、内心泣きながら手当り次第に爪を立てたのを忘れない。後日敵と間違えたと弁解があり、キースが周りを見れないくらい心を乱されていた理由を痛いほど自分も理解できたので責め立てるのはやめた。
     司令部からの連絡で危険が去ったことをインカムから聞いた。ほっと息をつくと、ドッと疲労が押し寄せてきて、手足の痺れや筋肉が引き攣るのを感じる。ブラッドがいない。感覚のない拳を握る。不思議と憤りも嫌悪も湧かない。ブラッドを取り巻く環境がブラッドを追い詰めていることを知りながら、どうにかできなかったことを後悔していたからだ。信頼という言葉に包んで、ブラッドに過度な期待を押し付けていたのは自分も同じかもしれない。
    「キース」
     息を切らしたキースは怠そうに手首を捻った。多分これから言うことを分かっていたんだろう。
    「ブラッドを探しに行こう」
    「……仕方ねぇな」
     これ以上ルーキーに負担をかけるのはと一瞬ジェイは渋ったが頑ななのはこちらのほうだった。やがて笑顔でそうだなみんなで探せばそれだけ早く見つかるかもしれないと承諾してくれた。
     そうして見つかったブラッドは今までにないくらい鋼鉄化が進んでいて目も当てられない状況だったが。呼吸器がそうなってしまってはまともに息もできないだろう。じわじわと侵食される苦しみにブラッドの目は虚ろだった。




     


     肩書が増えて責任がおおきくなってのしかかり、簡単に動けなくなってしまった。
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