海と出会った日「父さんと母さんがいなくなった」と、村じゅうが大騒ぎになったことを覚えている。とても小さな頃だったから、そんなにはっきりした記憶ではないけれど。
大人たちはみんなざわざわしていて、カニクやほかの犬たちも不安そうに鼻をひくひくさせていて、「今日は俺たちのところで寝ような」とおれの頭を撫でてくれたアキアックの手もなんだかきごちなくて。たぶん極夜の頃だったんだろう、空は一面真っ黒で、風は吼えるような音を立てて地面の雪を吹き上げていた。
おれはといえば、いつも夜にはおやすみを言って別れなきゃならないアキアックと一緒にいられるのが嬉しくて、ひとりだけ浮かれていた気がする。みんなの様子も空の様子もいつもとあんまり違うから、お祭りでも始まるのかと思ったのかもしれない。
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