宍戸さんが滝さんにTシャツ貸した件ずっと考えてるけどわかんない校門前 部活は休み(水曜)
ざあざあと音を立てて校舎のガラス窓を強かに打ち付ける雨を見上げて途方に暮れている人影が、けぶる景色の向こうにいくつもいくつも見えた。
スコールは夏の風物詩だ。にわか雨と書けばやわらかなイメージさえ覚えるが、一時的とはいえ触れれば痛みを覚えるほど強い雨粒が容赦なく天から振り落とされてくる。高い建物に登った時、ある一体のみを呪うようにもくもくと囲い時折稲妻を走らせる暗澹たる雨雲を見て『今日一日晴れって言ってたのに、あのあたりの人たちかわいそうだな』とぼんやり思うことがある。まさに今、ここ氷帝学園生の多くが『かわいそうな人たち』に成り代わっているのである。
天気予報はどのテレビやネットに頼っても雨傘のマークなんてひとつも見当たらなかった。どの時間帯においてもだ。最寄り駅までは校舎内のなるべく屋根がある場所を『ダッシュ』しても数分はかかるだろう。こんな土砂降りのもと身を晒すなど、数秒でも一時間でも含む水の量は大差ないはずだ。
車は父が通勤で使っているだろうし、あったとしても忙しい母に迎えに来てもらうのは気が引ける。兄はというと落とせない単位があるらしく朝からそそっかしく家を後にした。
風が強く横殴りの雨だから常に折り畳み傘を持ち歩くような準備の良い人間でも閉口しているだろう。置き傘は禁止で校内はいつも清廉に保たれていることがこんな形で仇になろうとは。そんな日もあるか。
滝を見つける。周りにはクラスの友人なんかは誰もいない。
いつもの顔ではない、困ったように眉を寄せて焦れたように何度も前髪を耳にかけている。その仕草さえも何となく艶っぽく見えるのは滝が滝である所以だ。
「よ」
「え。ああ、宍戸か」
「今日は迎え、来てねえの」
「うーん。朝、断ったんだよねー。一日晴れだって言ってただろ。うちの妹が『たまには一緒に歩いて帰りたい』って聞かなくて。今日、部活休みでしょ。だから図書館で俺の授業終わるの待つってさ」
「はは、かっわい。そりゃロッカーに絵も貼るわな」
「ふふ、見られてた? 恥ずかしいな」
「ばーか、自慢してきただろ」