ウィがシャの髪を切る話 しゃきん、と軽い音が響く。
その音を追いかけるように、ぱらぱらと黒が舞った。銀の鋏の隙間から、彼だったものが散り落ちる。
「……リアム」
「ごめん、何か間違えたかな」
「いや逆。もっとバッサリやってくれていいんだぜ? 失敗しても気にしねえし」
髪を切ってくれ、と急に言い出したのはシャーロックだった。ウィリアムははじめ遠慮したものの、どうしてか彼は引くことなく。気づけばウィリアムは、鋏を手にして立っていた。
しゃきん、とまた鋏が鳴る。
「……君は、怖くないの?」
「べつに。見てくれなんざどうだっていいタイプなのは、リアムだって知ってんだろ」
「ううん。そうじゃなくて」
しゃきん。
「大量殺人犯に刃物を持たせて、無防備にしていることが」
しゃきん。
しゃきん。
二回分の鋏の音。それだけの間を置いて、ふっと彼は息だけで笑った。
「それがリアムの選択なら、別に」
黒い髪がまた散る。確かに生きている彼から切り離された、黒が。
「……そう」
しゃきん、と軽い音が響く。
鋭い銀は終ぞ、その黒を赤く染めはしなかった。