リクエスト貰ったチカアドと淡色アドの出会い
これで少しでも チカアドに楽しい思い出が増えるといいのだけれど。
淡色アドはそうしみじみと思ったのでした。
(*でもチカアドとの 出会いのはずなのに
なぜ ほんのりと 鮫淡のにおいが するのだ???)
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季節は夏真っ盛りであった。
じりじりと照り付ける日光は日を追うごとに強さを増し、自分のラジオ番組でも毎回おなじみのように「今日も暑いですね」なんて枕詞を付けてから始めてばかりな気がする。
おかげ様で収録のスタジオは常に快適な温度に保たれているため、配信している間は暑さや寒さなどを感じることはないのだが、あくまでもそれは室内の話。
終えて外に出ればカンカン照りの中帰宅への足を急がせる毎日だった。
「さて.........明日のラジオ、何の話をしようかな」
今日は収録終わりに別日にセッティングされているトーク番組の打ち合わせがあった。帰宅が遅くなることを予見していたがそれは見事に外れ、あっさりと終わりいつもの1時間遅れでスタジオを後にすることになった。
ラジオ局のエントランスで、手にした携帯で明日の話題を検索する。
「最近暑いし......人気のスポットとか...あればいいんだけど...」
画面をスワイプし、面白そうなスポットを検索していく。
やはり夏場だからかプールだのかき氷店だのいろいろと結果に上がっているが、ふとした単語に目が留まった。
「...移動式ジューススタンド??」
投稿にタップし詳細を見れば、
『この味が癖になる』
『移動式だから見つけるのは大変だけど 見つければラッキー!』
などなど、どうやら高評価のようだ。
なるほど、移動式のジューススタンドなるものがあったとは。素直に興味が沸いてきた。
投稿に一通り目を通し、よく目撃されるという場所を検索し地図を開く。
どうやらその場所は遠くはないようだ。
丁度仕事終わりに何か冷たい飲み物でも、と思っていたところだった。携帯を仕舞いラジオ局を後にする。
酷暑の中歩いて何十分たっただろうか。
よくその車が止まっているという場所に、果たしてそれの姿があった。
「こんにちは」
「いらっしゃい!!暑い中よく来てくれましたね!!」
紫色のアドソンはハキハキとした声で答えてくれる。
「噂を聞いて来てみたんです。オススメって何かありますか??」
「噂!?ワタシのジューススタンド噂になってるんですか!?オススメですねえ、お兄さん何か苦手な物とかありますか?果物で!」
「果物では......そうですね、実は100%オレンジジュースが酸っぱくて飲めないんです」
「なるほどそうなんですね!!じゃあリンゴとかどうですか!」
「リンゴ!いいですね!お願いします」
「はーい!!」
返事をした彼はてきぱきとリンゴを手に取って機材に入れ用意を始める。
手慣れた手つき、この仕事をして大分時間が経つのだろうか。
まじまじと見ていると数分もしないうちに、カップにたっぷり注がれたリンゴジュースを手渡される。
「お待たせしましたーーー!!」
「ありがとうございます、わっ、美味しそう」
「へへへ...どうぞどうぞ~」
催促されて一気にそれをあおる。真夏の中、出来立てのリンゴジュースが水分を欲していた体に染みわたるのを感じる。
「お兄さんいい飲みっぷり!いよっ!」
「これ美味しいですね!リンゴの味が濃厚で......噂どおりでびっくりです」
「いやいや~~お兄さん口が上手いですねぇ~」
「いや上手いとかじゃなくて本当に!この仕事始められて長いんですか?」
ふと問うと、彼は一瞬きょとんとした顔をしてからまたにこりと笑っておどけるように手を振った。
「いやいやそんな長くはやってませんよ!思い立って始めたようなものですから」
「でもそれでこんなに評判なのは努力の成果なんじゃないですか?尊敬しますよ」
「お...お兄さん...!!なんていい人なんだ...」
感動したかのようにわなわなと大げさに震えだす彼に、つい笑ってしまう。
どうも親近感の沸くこのアドソンのことをもっと知りたいと思っていた。
「お名前を聞いても?」
「チカアドです!!!」
「チカアドさん、よろしければお願いがあるんですけれど」
一呼吸おいて、言葉を続ける。
「自分のラジオで、このジューススタンドのことお話させてもらってもいいですか??」
「え????お兄さん、ラジオやってるの??」
「はい......名乗り遅れてしまいました。淡色です」
「え????」
チカアドさんは目をまあるくして、震える指で自分を指差す。
「淡色サン????ラジオの人気パーソナリティーの???」
「人気かどうかは分かりませんけれど!!!みなさんのおかげで楽しく配信させてもらってます」
「ええええ!!!マジですか!!!そりゃ是非とも是非とも!!!淡色さんのラジオで紹介いただけるなんて光栄だなぁーー!!!」
「よかった!!」
握手の為に手を差し伸ばすと、両手でがっしりと包まれてぶんぶんと振られる。ずいぶん大げさなしぐさのように思えるかもしれないが、その行動すら自分には好意的に感じられた。
「最近暑いですから、リスナーの皆さんにおすすめスポットを紹介したいなと思って情報を検索していたんです。そうしたらこのお店のことが出てきたものですから」
「そ、それでわざわざこのクソ暑い中来てくれたんですか...??知ってます?うちの店移動式なんですよ??もしこれで今日ここにいなかったらどうするつもりだったんですか???」
「それなら、それで。次によく見かけるって場所に行こうと」
言葉の途中でがしりと両肩をつかまれる。
「淡色さん...ッッッ!!!!!!ありがとうございます!!!!こんな!!目にかけてもらえるとは!!」
「いえいえこちらこそ...!早速明日のラジオでお話させてもらいますね!またお邪魔させてください!」
「ありがとうございます!!!いつでもお待ちしていますね!!!!」
代金をしっかり払って、その場を後にする。
チカアドさんは何度も何度もぺこぺことお辞儀をしては手を振って見送ってくれていた。
そんな彼へ何度か振り返りながら、帰宅への道を急ぐ。
早速明日のトークの為にまとめあげなくては。
自分のラジオが放送されて、幾日が経った。
ラジオの反響か、チカアドさんからお客さんが倍近く増えたと嬉しそうな電話を貰った。
たまに初めて出会った場所の付近を通ると、大勢の人に囲まれたあの車を見かけた。
いつも忙しそうだしと寄るのを遠慮していたが、話したい気持ちは隠せなかった。
しかし、その気持ちを見透かしたかのように時折彼から電話を貰えていたから寂しいと感じることは無かった。
それからまた、幾日が過ぎた。
時折合間を見ては、落ち着いている隙にチカアドさんのジューススタンドでスタジオのスタッフへ差し入れを購入したり、個人的に遊びに行ったりと、彼とは何度も楽しく会話をさせてもらった。
「兄さん 今日もお疲れ様」
「ありがとう鮫ちゃん」
いつものように、仕事終わりに車で迎えに来てくれる鮫ちゃんに礼を告げて、助手席に座る。
「今日はこの季節にしては暑いですね」
「そうだね」
「どこか寄って飲み物でも買いますか?おごりますよ」
「えっやった.......!....あ」
「どうしました?」
ふとしばらく寄っていない彼の店の事を思い出し、鮫ちゃんへぐいと身を乗り出す。
「ね、おごってくれるならさ。飲みたいジュースがあるんだけど、そのお店まで連れて行ってくれない??」
「いいですけど...ここから遠いですか?」
「そこまで遠くはない!はず!!」
「なんで言い切れないんですか...」
しぶしぶながらも鮫ちゃんはなんやかんや車を例のチカアドさんによく会う場所へ向かわせてくれる。
今日はどのフレーバーにしようかなと考えるだけで胸が躍る。それが伝わったのか鮫ちゃんが赤信号につかまっている間にこちらを伺い見た。
「ずいぶんその店、お気に入りなんですね」
「そうだね!行くのが久しぶりで楽しみというのもあるけれど」
「へぇ...」
「でも本当にオススメだから!!鮫ちゃんも気に入ると思うよ」
「だといいですけど...あ、この近辺ですね。適当にパーキングにとめますよ」
「はーい」
目的地周辺のコインパーキングの空を見つけ、バックに切り替えて車を停める。
見事に一発で駐車を決めてみせた彼に流石!と声をかけてから助手席から降り立つ。
鮫ちゃんが車のロックをかけたのを見てから、早々に駆けだす。
ちょっと兄さん、なんて後ろから声をかけられるけれど気にせずに小走りで向かう。
「チカアドさーーん!」
視界に映った、もう今ではすっかり見慣れた車に大きく手を振る。
「淡サァ~ン♪♪♪おひさしぶりですねぇ!!ラジオお忙しいんですか??」
「いやはやそれほどでも!!最近中々顔出せなくてすみません」
自分ににこにこと笑ってそう答えたチカアドさんが、ふと自分の後ろに立つ鮫ちゃんへ視線をやった。
「あ こっちは鮫ちゃん!弟みたいな存在!」
「どうも~」
「初めまして~~!!お二人で来てくれたんですねぇ!!嬉しいなぁ!!」
「チカアドさんまたいつものやつお願い!!鮫ちゃんは苦手なのある??」
「"私"ですか...?兄さんのと同じので」
「わかりました~~!!お待ちくださいね~!!」
いつものようにニコニコと笑って答えるチカアドさん。彼が支度をしている間、ふと隣に立つ鮫ちゃんに視線をやる。
両腕を組んでじっとチカアドさんのほうを見ていたようだけれど、自分の視線に気づいたのか目が合った。
「ほら、大分前ラジオで紹介したお店があるって話したでしょ?それがここなんだよ」
「なるほど」
「ラジオでオススメしてから一気に人気になっちゃったみたいで、しばらく行くのも遠慮してたんだ。たまに落ち着いている時に買わせてもらってたんだけど。思い出すと飲みたくなるんだよねぇ~」
「へぇ...」
無意識に自分の尻尾がぴょこぴょこと揺れているのを自覚する。
鮫ちゃんはその様をじいと見つめていたようだったけれど、
「お待たせしましたーーー!!淡色さんオススメリンゴジュースですよーー!!」
チカアドさんの大きな声で互いに視線が彼へ向いた。
「やった!!チカアドさんありがとう!!」
「いえいえ!!こちらこそいつもごひいきにありがとうございます!!」
「兄さん、"私"が受け取りますよ。代わりにポケットから財布とって払ってもらっていいですか」
「鮫ちゃん本当にいいの?ありがとう!チカアドさん、これ今日は持って帰るね!」
「ありがとうございま~~~す!!!!淡色さんラジオがんばってくださいね!!」
「こちらこそありがとう!また来るね!」
チカアドさんに手を振って、その場を後にする。
両手が塞がっている鮫ちゃんを見上げて、自分の分を受取ろうと手を伸ばす。
「鮫ちゃん、いいよ?自分の分くらい」
「いいえ、これくらい持ちますよ。...ねえ、兄さん。一つ質問しても?」
「...?いいよ。何??」
「兄さん、よく"変な奴に好かれる"って言われません?」
「え?」
何とも言えない表情で問われ、更に唐突な質問に面食らう。
「どうかな.........こっちとしては自分のやりたいようにやらせてもらっているから...むしろ自分のほうが変だと思うけど、なあ....」
「それでもそんな兄さんを慕う人は多いんですよ」
「それは素直にありがたいと思うよ!これからも頑張っていかなきゃね。みんなのためにも」
「...........................」
「...?鮫ちゃん?」
ふと彼が何かを呟いたような気がしたのだけれど、
「いいえ、何も。...さ、兄さん。車の中で飲みましょ。それからどこか飯にでも行きましょう」
「さんせーい!!」
鮫ちゃんの提案にのってしまい、すっかりそのことを忘れてしまっている自分がいた。
「........."俺"に目を付けられている兄さんも大概ですよ」
彼はこう、車に乗り込む後ろ姿に呟いた。