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    チィカマ

    成人済みの腐。夏五夏(生産はもっぱら夏五)。夏油傑に沼っているモノガキど素人です。画像小説とか、途中書きとか、諸々置き場。

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    チィカマ

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    GEGO DIG. 1week challenge
    10月お題より、画像小説の上げ直し。

    AM 3:30(お題:頼み事より)闇の中で、カチッと錠の外れる音が鳴り響く。密閉された室内に、じっとりとした空気が連れ込まれ、雨が降っているのだと気付かされた。たった今帰宅した家主は、昼夜関係なく働き詰めできっとクタクタなのだろう。重い足取りで浴室に向かった様子で、程なくして、勢いよく流れるシャワー音がする。おそらく雨に濡れるといったストレスとは無縁だろうが、その分彼は別のストレスを背負い込んできたはずだ。拒絶の術式を持っているのにも関わらず、彼はどこまでも他人に介入しようとする。
     不憫だなぁと、私は真っ暗な部屋のベッドに寝そべりながら率直に思った。手の届く範囲にある大切なものたちに積極的に介入し、驚くほど堅実にそれらを守ることに徹しているのだ。世界を滅ぼせるほどの力を持っているというのに。その健気さが愛おしく、哀れだ。私であれば遠慮なく世界の不要物は滅ぼすだろう。豊満な土壌のためなら植生を全て焼き払って灰にしてしまったって構わないはずだと思う。それなのにちまちまと鍬で骨を折る。なんて地道で辛抱強い真似だ。だから悟には適わないなと思う。
     いつの間にか浴室の水音が鳴りやみ、部屋は再び静寂に包まれた。悟と私は何年も前から親友で、いわゆる恋仲にある。私たちは半年前から同棲をはじめたがその実はシェアハウスに近く、基本的には別々の部屋で過ごしている。生活リズムがあまりに異なるため、お互いの休息を妨げないようにと配慮した結果だった。
     私はベッドから起き上がり、サイドテーブルの読書灯を点けた。柔らかな灯りでも、暗闇に慣れた目には少し眩しい。思わず目を細めた。冷やした水を取りに行くついでに悟の部屋に立ち寄ることにした。ダークブラウン色の扉を開くと、ふわりと悟の匂いが鼻をついた。だが、ベッドの上の布団は半分に捲れあがったままで、持ち主が最後に起き上がったままの形を留めるだけだった。
     またソファで寝ているのかもしれないな――。そのままリビングに向かえば、案の定ソファから柔らかそうな足の裏が、はみ出していた。下だけスウェットを纏い、上半身は裸のままで眠る私の癖はいつの間にか悟にも伝染っていたようだ。悟の象徴でもある白い髪の毛は湿ったまま、毛先に水滴を蓄えている。私はラグの上に膝をついて、首にかけられたままのバスタオルで水滴を拭ってやる。暗闇の中でも白く光る髪の毛を撫でるように、何度もバスタオルで髪の水分を拭った。
     半開きの唇に人差し指を押し当てれば、ふにっと柔らかな感触と、穏やかな呼吸が触れる。一瞬ぴくりと長いまつげが動いた。唇の形に添って人差し指をすりすりと動かすと、そこから生温い感触が伝わって、どうしようもなく胸を締め付けた。どうか、今この瞬間だけでも、悟が安らいでくれたらいい。私のささやかな頼み事だ。
     冷たい水を冷蔵庫から取り出して一気に飲み干してから、私は腰をかがめて悟の背中と腿に腕を添えた。そのままグッと力を入れて、抱きかかえる。念のため悟の右腕を私の肩口に巻き付けた。190越えの巨体だが重量としては普段のトレーニングの半分にも満たない。寝室まで抱えていくことくらいは容易いことだった。無意識なのか、悟が右手に力を入れて、私の肩口にぎゅっと捕まるようにした。触れ合った部分がじんわりと温かい。このまま別の寝室に送り届けるのを惜しいと思った私は、自分の部屋に連れていくことにした。
     オレンジ色の読書灯が枕元を照らす中に、そっと悟をベッドの上に降ろした。眩しかったのか、眉間を寄せて「うぅん」とうめきながら、壁の方を向いた。私は悟をそのまま壁際に少し移動させ、灯りを消して後ろから抱きしめるようにして寝そべった。顔の前に添えられた左手に自分の左手を絡めて、悟にくっつく。悟の寝息が絡めた指に吹きかけられてくすぐったいが、安心するのでそのままにしておく。
     「ねぇ、さとる。頼まれてほしいことがあるんだ」
     独り善がりの頼み事を私は闇の中で呟いた。
     毎日なんて烏滸がましいことは望まないから、今日みたいに帰ってきて、安らかな寝顔を見せてくれないか。・・・いや、本音を言えば毎日君と顔を突き合わせたいし、起きている君と四六時中くっついていたい。そもそも、もう君は十分すぎるほど働いたはずだ。私と一緒にどこか知らない街に逃避行しようか。きっと私たちならうまくやれるはずだ。君がいなくなった後のこと?知ったことか。なぜそんなに君ばかりが責任を負わなければならないんだ。君は自由になんだってやれるはずなのに。頭が硬いのは君の方だろう?
    ――すまない、調子に乗ったね。私が道を違えそうになってから今まで、散々君に迷惑をかけてしまった。これ以上何かを君に押し付けるつもりはない。話を戻すが、私のもとでは、ただの恋人として思い切り安らいでほしいんだ。少しくらい君が気を失うくらい眠っていても、私がいくらだって代わりに祓うさ。
     
     温かい寝息が首元にかかり、背中全体がじんわりとあったかい。何も着ないから、相手の体温を直接感じられて、たまらなく心地よい。何の気なしに真似てみてから病みつきだ。
    ――ねぇ、傑。僕だってお前がこの家に帰ってきてくれることが何より幸せなんだ。僕と一緒に居てくれて、ありがとう。
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