火に油が注げない(お題:襟足)「おはよう、悟」
「おはよ」
「悟も、こっちにおいで」
「何してんの?」
座学に参加するために教室に向かうと、窓際に置かれた黒い箱の前でしゃがみ込む後ろ姿が視界に映った。ヒグマみたいだな、と思いながら手招きにつられて近づくと、膝下がじんわりと暖かくなった。
「灯油ストーブ。夜蛾先生が、寒いだろうって出してくれたんだ」
「へぇ」
夏油が少し左の方にズレるので、五条も隣にしゃがみ込んだ。夏油がするように掌をかざすと、赤い筒の発する熱でじんわりと指先が暖められていく。
「こんなのあるんだ。あったけぇな」
「あれ?もしかして悟、灯油ストーブ知らない?」
おや、という顔をして、夏油は五条を覗き込んだ。赤い筒に反射して、夏油の顔が赤く色づいているように見える。急に近づく夏油の瞳から逸らすようにしてストーブのスイッチに目線を落とし、小さく呟いた。
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