2/9新刊書き下ろし愛してるってこういうことなんだろうな
二杯も食べて温まったのか耳まで少し赤くしながらお雑煮を頬張る悟を見ながら、かまぼこや黒豆をつまみに悟の分の雑煮を作りながら温めた日本酒を飲む。ふと部屋の外に目をやると、雪が降り始めていた。
そういえば、一年の初めて一緒に過ごした正月も雪が降ってたっけ。朝起きた悟は雪を見て外に飛び出して、一緒に雪遊びしたな。
そんなことを思い出していたら、悟は雑煮を食べ終わったようで。立ち上がったから何かお菓子でも取りに行くんだろうと思ったら、私の方にやってきて跨がって抱きついてきた。
「……悟?」
名前を呼んでも何も言わずに私にさらにきつく抱きついてくるから、首筋に悟のふわふわの髪が触れてくすぐったい。その髪に触れたくなって、私も悟を抱きしめて髪を撫でた。昨夜、久しぶりに抱き合ったけど、こうしてただ抱きしめ合っているのなんていつぶりだろう。
こうしていると、悟のことが好きだっていう温かい気持ちで心が満ちていく。こうして抱き合っているのも好きだけど、もっと触れたくなってきた。
「さとる、キスしたいな」
すぐそばにある悟の耳元に唇を寄せてそう言ったら、腕をゆるめてくれた。ストーブをつけた部屋が温かいからか、雑煮をおかわりして温まったからか頬が赤くなった悟の唇にキスをした。唇を触れ合わせるだけのキスじゃ足りなくて、髪を撫でながら舌を絡ませていく。
最近、こうして触れ合うのを避けていたからキスをしていると満たされるのに、もっと悟が欲しくなる。
悟から唇を離したから、ちょっと長くキスしすぎたかもしれないと思ったら真っ赤な顔をした悟に至近距離で見つめられて。胸がぎゅっと締め付けられた。
「傑……」
「……悟、抱きたい」
頷いてくれたから、悟を抱き上げてベッドに押し倒してキスを繰り返す。食べ終わった食器が出しっぱなしになっているけど、もうどうでもよくなってしまった。
昨夜も久しぶりに抱き合って気持ちよかったけど、外に物音が漏れないようにこっそり抱き合ったし。悟にあんなことを言われて、朝からずっと胸がそわそわしてなんだか幸せでふわふわしていた。
実家がある住宅街に入るまで悟と手を繋いでいたけど、もっと悟に触れていたかった。だけど両親も美々子と菜々子もいたから、二人きりになって落ち着いたら止まらなくなってしまった。
キスをしながら悟が着ているスウエットをたくし上げる手がいつもより荒くなっていることに気づいたけど、悟もキスに応じながら私のスウエットを脱がせてくる。
そういえば先に抱きついてきたのは悟だった。ひっつきたい、それだけじゃなくてひとつになりたいと思っていたのは私だけではないのかもしれない。
二人とも上のスウエットを脱いだ後に悟を抱きしめた。そうして抱きしめ合っていたら、悟の手が私のズボンに伸びてきた。
「どうしたの?」
「服、邪魔だって」
悟はそう言って私の着ていたズボンも下着も脱がせてきたから、私も同じように悟を裸にした。
一糸纏わぬ姿になって、向かい合って寝そべったまま両腕を伸ばしてきた悟を抱きしめると悟も私を抱きしめてくれた。
私は着たまま抱き合うのも好きなんだけど、悟はどちらかというと何も着ずにしたがる。だけど今夜は、私も何も着ずに抱きしめ合いたい。直に伝わってくる体温が愛おしくて、目頭がじんわりと熱くなってくる。
目、潤んでたり赤くなってたら恥ずかしいなって思ったけど。悟の顔が見たくなって腕を緩めると、少し頬を赤らめたまま私と見つめる悟が愛おしくて。気づいたら手が悟の頬を撫でていた。
「……悟」
「ん、どうした?」
「好きだよ……悟」
なんで別れられるなんて思ったんだろう。こんなに好きなのに。
別れるべきだ、そのほうが悟のためだって思い込んで。自分の気持ちから目を背けていた。そうするのが正しくて悟のためだと思ってしたことで、私は何度も悟を傷つけてしまった。
「俺も好き」
穏やかに微笑みながら同じ言葉を返して、悟からキスをしてくれた。キスをして、好きだと囁き合ってすごく満たされているのに。もっと悟が欲しくて、キスをしながら露わになった素肌に触れると甘い吐息を漏らす。
もっと聞きたいし、触れたくて堪らなくて。横向きに向かい合って寝そべっていたけど、ベッドに押し倒して
「……傑」
「ん?」
「愛してる、傑」
「……え、」
その言葉を悟の口から聞くのは初めてだ。私も言ったことのない言葉。
「そんな驚いた顔すんなよ」
「だって……」
「ああ、こういうことなんだなって思ったから」
「……悟、成長したね」
一年の時はまだ好きがよく分かっていないというか、自分の気持ちを理解していなかったのに。それなのに手を出したのはよくなかったんだけど。
付き合い始めてからは恋人らしい愛情表現もしてくれるようになったし。昨日なんて、今後のことを真剣に自分で考えて、私と話をする時間を実家に話をして作って。
好きだからずっと一緒にいたいという自分の気持ちをちゃんと言葉で伝えてくれた。
「はぁ?ていうか傑、泣いてね?」
「……そんなことないよ」
私が居ない人生なんて考えられないくらい好きだって、悟は私に言ってくれた。それに、私が用意した凝っているとは言えないおせちとお雑煮が一番好きだと言って、美味しそうに食べてくれる。その姿を、この先も毎年見たいなって思ったんだ。
「私も愛してるよ、悟」
初めて傑と身体を重ねた時、傑の初めて好きだって言われた。あの時はその意味もよく分かってなかったけど。それでも、俺が愛してるのは傑だけだって思ったから。
二人の家で新しい年を(仮タイトル)
年末に沖縄に旅行して、旅先で小さい結婚式する二人。硝子さんとか夜蛾先生にナナミンと灰原くんも来てくれる。
大晦日には帰って来て新しく立てた二人の家で年越しする。
「悟、明けましておめでとう」
「おう!おめでとー傑」
真新しいこたつに向かい合って入って、傷一つ無い机の上に置かれた少し年季の入ってきたおせちの入った重箱と雑煮を前に。私達は改めて新年の挨拶を交わした。
引っ越してきたばかりの新居は、新しい木のにおいで満ちていて。家具もカーテンも全て新しい物ばかりなのに。炬燵の上の重箱とお椀だけ年季が入っている。
美々子と菜々子が去年の春に、私の元を離れて二人で暮らし始めた。それを機に私は悟と二人で暮らすことにした。
どうせなら家を建てて一緒に住みたいと言い出したのは悟で。二人でこんな家がいいんじゃないかと考えて。家が建つまでの間に色々と家具を見て回った。