爪を切る ぱちん、ぱちん、と爪切りの音だけが響く昼下がりの部屋。敦が手の爪を切っているのだ。
太宰は窓辺に腰を下ろして、その姿を見るともなく見ている。
やがて終わったのか、敦は爪切りを引き出しにしまった。
「敦君ってさあ、マメだよね」
太宰がそう云って敦の手を取る。爪は綺麗に切り揃えてあって、敦の几帳面な性格が見て取れる。
「……こうしておけば、太宰さんを傷つけずに済みますから」
少し照れたように笑う敦に、太宰は頬に朱が上るのを感じる。敦は太宰を抱くときのために爪を切ってくれていたのだ。
その発想は無かった。太宰は心臓が跳ねたので、敦から手を離すと、口を覆ってそっぽを向く。
「太宰さん?」
「なっ、なんでもない!」
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