機密情報 No.66 第一話
ベイカー・ストリート221B。
常なら騒々しさの絶えないそのフラットに、今は気まずい沈黙が漂っていた。
「マイクロフト、だよな?」
開け放されたままになっている扉のすぐ前に、見慣れない青年が立っていた。
其だけならば、依頼人が直接やってくるこのフラットでは、よくある見慣れた日常の光景であった。
しかし、彼は、今日初めてやって来た依頼人などではない。
本来其処に立っているべきは、フラットの住居人、シャーロック・ホームズにとって、最も忌むべき相手である、兄のマイクロフト・ホームズであった。
マイクロフトが弟を訪ねて来るのに、いちいちアポイントを取ることはない。
いつも通り兄の足音を聞いて、シャーロックが不機嫌になる、そしてマイクロフトが入ってきた所で、シャーロックが罵詈雑言を浴びせ、面倒な兄弟ゲンカが始まる…。
1386