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    きりん

    @amenofurisika

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    きりん

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    🇨🇳パロ①
    悟の書生ゆうた×🇨🇳の男娼とげ
    租界の地主の屋敷でふたりが出会うまでです
    もぶとげ匂わせあります
    8割くらいはえっくすに上げてました
    あとで全体見直して書き直すと思います

    紫檀のテーブルの角に茶器を置いて、棘は開け放ったベランダから庭を眺めていた。岩を巡らせた大きな池、赤い柱の四阿、柳、牡丹、白い蝶。夏の終わりの午後もとうに過ぎたというのに、日差しはいまだ眩しく照りつける。
    湿り気を帯びた熱気は、部屋の中にまでは入ってこない。屋根の落とす影で涼みながら、茉莉花の香りを移した白茶をもう一杯。飲み干した茶杯に注ぎ足そうとして、茶壺にはすでに一滴も残っていなかった。
    退屈だ。
    寝椅子にもたれて伸びをする。飴がけの山査子にも飽きた。外界を区切る塀の向こうから、女子供の笑い声が届く。塀を越えたところで、行くところもない。
    「小姐!」
    更なる退屈の先触れを、小間使いの小男が運び込んだ。男に小姐はないだろうに、この屋敷の人間はみな棘を小姐と呼ぶ。
    「老大がお越しです」
    南方の訛りの強い漢語で言って退いた小間使いのあとから、この屋敷の主、皆が老大と呼ぶ太った男が来訪した。老大は棘を見て落胆した。
    「肌着じゃないか。おまえに似合う旗袍は用意してあるだろう」
    棘は顔を顰めた。老大の用意する女物の旗袍は、好きじゃない。一人でいるときくらい、白い肌着と絝のほうがよほどましだ。
    「そうわがままを言うな」
    猫なで声でいいながら、老大は棘の肌着のあわせに手を差し入れた。開いた胸元に、薄紅の乳首があらわになる。それを指先で抓られて、棘は顔を背けた。
    「今夜、客が来る。カナモリの後任だ。抱かれておけ。役立たずなら、殺していいぞ」
    棘が睨むと、老大は笑った。
    「はは、殺すは冗談だ。カナモリとは違って、今度のはなかなかの美丈夫だ。よかったな? バカならなお良いのだが」
    またつまらない命令だ。いっそこいつを殺してもいいけれど、殺したところで行くところもないので従っているだけだ。
    死んだように生きるのと、いっそ死ぬのと、どっちがおもしろい?

    ***

    筵山財閥は大陸進出の拠点として、中国のある港湾都市に支社を置いた。最初の支社長は金森という男だったが、現地で問題を起こしたために更迭され、代わって本社の幹部であった五条を支社長に任命した。
    夏の終わり、五条は腹心である七海と、五条家の書生でもある乙骨を伴って、現地に入った。数日後、支社の入るビルを含む地域の古くからの地主が、就任を祝う席を設けたいと申し入れてきた。
    ようやく日が落ちて、夜風に秋の涼しさが混じる頃、乙骨は七海とともに五条の伴として、その屋敷を訪ねた。西洋化の進む街にありながら、古式ゆかしい屋敷は朱赤に彩られた豪壮な門構え、出迎えの下男に案内される回廊は、日本の大伽藍を彷彿とする。向こうの建物が見えないほどの広い中庭にはガス燈が灯され、池の水面、柳、牡丹が風に揺れている。
    ガス燈の先の四阿に思わせぶりな人影、乙骨の背筋に、ぴりと緊張が走った。誰かいるのかと目を凝らす。お仕着せの長袍の袖の中で、短刀を握った。向こうもこちらを観察しているのか。
    「乙骨君、どうかしましたか」
    しかし、七海に声をかけられた時には、その人影は消えていた。
    「いえ、四阿に人影を見た気がしたので」
    「人影ですか」
    「幽霊かもしれないよぉ、古い屋敷だし」
    五条が両手で幽霊の身振りをしながら言った。
    「この国に幽霊なんかいるんですか?」
    「そんなものいるはずないでしょう」
    真に受けかけた乙骨よりも五条に呆れた様子で、七海は肩をすくめる。
    「ねぇ、幽霊いる?」
    五条は案内の小男の背中を叩いた。小男は日本語を解さないのか、怯えた顔を横に振るだけだった。
    ばかばかしい、と胸の内で吐き捨て、乙骨は短刀を握る手をゆるめた。幽霊などいるはずがない。いるなら、里香に会えるはずだ。早くに亡くした幼なじみは、一度たりとも夢枕にすら立ってくれない。
    「でもさ、憂太」
    五条が乙骨に振り返った。
    「幽霊より怖いのは、生きてる人間だよ」
    だから、こうして同行している。乙骨の身分は書生だが、万が一のときは、身を挺して五条を守る役目を負っている。あらゆる武道をこなす五条に、その必要がないとしても、手出しを許さない体制を組んでいることに意味がある。
    小男の案内で、庭に面したベランダ付きの大広間に至った。小男は室内に向かって「老大」と呼びかけ、漢語で何事か叫ぶと、五条に一礼をして退く。室内を覗くと数人の男がいて、中央の男が一歩踏み出した。
    「やぁ、やぁ、五条先生。ようこそおいでくださいました。どうぞお入り下さい」
    この国の語は敬称に『先生』を使う。男は五条を先生と呼んで、流暢な日本語で呼びかけた。乙骨は七海に続いて足を踏み入れると、室内に視線を巡らせた。豪奢な調度品で彩られた大広間に、刺客の潜みそうな物陰を探す。
    「本日はお招きに預かり光栄です。僕の部下を二人連れてきたのですが、構いませんね」
    「どうぞどうぞ、歓迎しますヨ。みなさん、この国の長袍もよくお似合いですネ」
    「郷に入りては郷に従え、ということで。しかし、日本語が達者ですね。助かります、この国の言葉は難しくて」
    「私はたくさんの国からお客様をお迎えしますから、数ヶ国語は身につきましたヨ」
    男は漢語を話さない五条を、かすかに嘲るように言った。五条はそれを意に介さないで、「へぇ」と感心して見せた。
    「じゃあ、お宅の使用人も?」
    「いいえ。それはないですヨ。主人である私と違い、必要ないですから。ご用があれば私に言ってくださいネ。まずは私の配下をご紹介しましょう」
    背の高い五条と七海は老大らを睥睨し、腰を折ることもなく挨拶を受ける。この屋敷の男たちも、口元に薄ら笑いを浮かべながら、目では五条と七海をするどく観察している。まだ若い乙骨に対しては、侮蔑の色さえ滲ませた。
    「五条先生もみなさんをご紹介ください」
    「こっちが僕の右腕、七海。こっちの乙骨は、僕の書生。勉強中なので、教えてやってください」
    「お若いのに後進の育成をお考えとは、すばらしい」と老大は賛美した。「どの国でも世辞はあるものですね」と七海が乙骨に言うともなく呟いた。
    用意された円卓の、上座となる奥に五条と老大が並んで座り、以降、七海、乙骨と、老大の部下が交互に席に着いた。ほどなく艶やかに着飾った若い女が酒肴を運んできた。かぐわしい紹興酒、乾物、果物、木の実。乙骨の目の前の盃にも、琥珀色の酒が注がれた。「謝謝」と覚えたばかりの漢語で言うと、女は艶然と笑みを浮かべた。
    「ごめんね、僕、お酒は飲めないんだ」
    五条に言われた女は、困惑した顔で老大を見る。老大は顔色を変えることもなく、女に漢語で指図をした。女は老大にうなずき、退いた。
    「五条先生、すぐに茶を運ばせますネ。茶も、酒に負けず旨いですヨ」
    五条の手元に茶器が運ばれると、かぐわしい茶の匂いが漂った。
    「食事も海のもの山のものの逸品を用意しましたヨ。今夜は床の支度もあるので、お帰りの心配なく、存分にお楽しみくださいネ」
    老大は思わせぶりに言って盃を掲げた。
    「我々の共存共栄を祈願して、乾杯!」
    「乾杯!」
    声を揃え、酒を口に含む。
    円卓には、絢爛な装飾の施された大皿が運ばれた。若い女が客のそばに立って、料理を取り分ける。五条はへらへらと笑いながら点心を摘んだ。老大もその取り巻きも同じ大皿から料理をとりわけられている。乙骨は五条のために毒味を心がけたが、五条は乙骨の気遣いなど構うそぶりもない。七海も、もういいだろうと目配せを寄越した。
    「どうぞ、海老も桂魚も召し上がってください」
    酔って赤ら顔の老大が五条に勧める。
    「老大、この地域も蟹がうまいと聞きますが」
    「蟹の旬は秋から冬ヨ。ぜひ食べにきてください」
    「だってさ! 七海、楽しみだね。ほら、もっと食べなよ」
    五条は老大の配下の頭越しに七海に言う。
    「ええ、いただいています」
    七海は億劫そうに答えた。
    「そうですヨ。今日は商売の話は抜きにして、大いに飲んで食べてください」
    「憂太ももっと食べな、育ち盛りなんだから」
    五条が言うと、老大が通訳をした。給仕の女が乙骨にほほえみながら、皿に料理を盛り付ける。
    歌舞音曲が始まり、俄然にぎやかになった。五条と老大はなにやら談笑するが、末席の乙骨にその声は届かない。五条の表情から機微にかかわることはなさそうだと聞き取りは諦め、本音では退屈して、席の男たちを観察した。
    五条はこの顔合わせを楽しんで見せている。七海は無表情を貫いている。老大側の人間も同じだ。物陰に刺客もいない。
    少なくとも、この場で不測のことは起こらない。そう判断すると、場の観察、五条の護衛よりも、退屈が勝った。乙骨は席から立ち上がった。
    「どうしましたか?」
    老大が乙骨を睨む。乙骨は作り笑いを浮かべた。
    「酔いが回ったので、夜風に当たってきます」
    老大が、乙骨に給仕をしていた女を指さし、漢語で何事か指図した。女が乙骨に向き直って、ついてくる素振りを見せる。乙骨は、「すぐに戻ります。一人で大丈夫」と日本語で言って付き添いを断った。
    乙骨は女を置いて席を離れると、ベランダへと悠然を装って歩き、回廊に出た。
    庭のガス灯に照らされた回廊は、池の縁をなぞるように巡らされている。水面に向かって張り出した廊下の先に、一人きりで柱にもたれた女の横顔を見出した。いや、女ではない、女のような顔つき、女の衣服ながら、細くしなやかな体躯は女のそれではない。
    四阿にいた人影は、彼だと直感的に思った。手に細長い棒を持っている。武器かもしれない。乙骨は袖の中で短刀を握った。刺される前に制圧する。
    彼は、視線に気づいたのか、乙骨に顔を向けた。ガス灯に透ける髪が揺れ、淡い色の目が光る。
    乙骨が短刀を握る右腕を振り上げようとした瞬間には、彼は棒を投げ捨て、乙骨に駆け寄った。いきなり乙骨の肩に両手をかけると、背伸びをして、何かを口移しで寄越す。
    「えっ、なに?」
    不意打ちに抗えず、それをくわえると、頭一つ小柄な彼は乙骨を見上げて、可笑しそうに笑った。頬にえくぼのような文様がある。
    彼は笑った唇のまま、漢語で何事か言うと、舞うように身を翻した。それきり、走り去って姿を消した。
    乙骨は口にくわえさせられたものを手のひらに吐き出した。それは飴がけの赤い菓子だった。毒入りか、確かめるべく口に放り込む。
    大広間に戻ると、元の席で女が手を振った。
    「アナタ、ドコニ、イタノ?」
    女は乙骨に椅子をすすめながら、覚束無い日本語で言う。乙骨はそれには答えず、菓子を咀嚼した。干した果実を練って飴をかけた菓子は、甘いばかりで毒の味などしない。市場の屋台でも長い串に刺して売られていたそれは、山査子といったか。果実の残り香を紹興酒で飲み下す。彼の残したやわらかな感触は、しばらく唇に残った。
    会食が終わる頃、乙骨は五条、七海とは別に、客間へと案内された。給仕を務めた女が、酒肴を盛った籠を片手についてくる。
    部屋の中まで入ってきた女は、テーブルに籠のものを並べながら、乙骨に露骨な色目を寄越した。それぞれに寝室を用意し、夜伽に女を抱けということだと理解する。
    「僕はそんなつもりはないんだけど」
    乙骨が言うと、女は眉を寄せた。
    「ムズカシイコトバ、ワカラナイヨ」
    幼子のような舌足らずで言って、首を傾げる。
    「アナタ、ナマエ」
    「僕はただの書生ですよ」
    「ワカラナイ。ムズカシイね」
    女はもったいぶった手つきで、杯に酒を注いだ。その間も、女は乙骨に寄り添い流し目を寄こす。
    乙骨は椅子に腰を下ろし、杯の酒を一口啜った。罠としては、あまりにあからさまだ。
    五条の前任の金森は娼婦に入れ上げ、会社の金を使い込んだ。機密を持ち出したか、娼婦の主のために便宜をはかろうとした可能性もあると、金森のときから支社の要職に就く伊地知は言う。
    もともと伊地知は金森に仕える前から五条と繋がっていた。金森に不信感を持った五条が送り込んだのだ。ならば、今日この場にいるべきは自分ではなく伊地知のはずではないか。
    乙骨が黙ったままでいると、女は焦れたように睨んだ。
    「ワタシ、アナタ、スキよ」
    漢語で鼻歌を歌いながら、服を脱ぎはじめる。
    「それより、お茶をください。服を着て」
    「ドウシテ?」
    女は不満そうに口を尖らせたが、乙骨が「茶」と繰り返すと、やっと意味が通じたのか、女は服を着て部屋を出た。
    しばらくして、女は茶を運んできた。が、時を同じくして屋敷内は騒然となった。伊地知が車を走らせ来訪したのだ。
    伊地知は、本社から五条にあててて緊急の電報が入り、すぐに対応しなければならないと日本語と漢語で叫ぶ。廊下を見れば、慌てた様子の小間使い数人に取り囲まれながら、伊地知が五条を探していた。乙骨はろくに茶も飲まないうちに、五条、七海とともに老大の屋敷を辞して、伊地知の車に乗り込んだ。
    乙骨らを乗せるなり、車は猛スピードで発進した。広大な屋敷に沿った道路を駆け抜ける。川に架かった大きな橋を渡りきり、川沿いを走って、この国にありながら、外国人が支配する租界に戻った。
    「やれやれ、伊地知のおかげで助かったよ。女がしつこいのなんの」
    五条は何事もなかったように、後部座席かり運転席の背もたれに足をかけた。
    「いえ、五条さんのご指示どおりです」
    伊地知は車の速度を落とさず、五条に答える。そういうことかと乙骨も理解した。五条は老大の罠を見込んで、伊地知に乱入するよう命じていたのだ。
    「タイミングが良かったって言ってんだよ。七海と憂太はどうだった?」
    「ついてきた女はしきりに誘ってくる様子でした。もちろん、指一本触れてはいません。乙骨君はどうでしたか?」
    「僕も同じでした」
    「憂太にまで? 抜け目ないね。伊地知、金森が入れあげた娼妓も、あの家だったか?」
    「家までは特定できませんでした。金森は娼妓に会うときは常に一人で行動しており、毎度場所を変えたか、それとも尾行に気づいてまかれたか、追いきれませんでした。申し訳ありません」
    「それが幇の作法かね」
    肝心の金森は、帰国して詳細を語る前に、運河に落ちて死亡した。当局が阿片中毒による事故であるとして処理してしまったために、金森の背後を洗おうにも手がかりはない。ただ、この界隈で仕事をするなら、地主である老大と接点を持たないわけにはいかないことだけは確かだ。
    「ま、我々の思うところの共存共栄がかなうなら、こっちから手出しすることはないさ。それこそ、やぶ蛇ってやつだ」
    五条が大あくびをして、それきり、車内は静まりかえった。
    乙骨は、山査子の彼のことは言いそびれたまま、車窓からあかりの消えた租界を眺めた。
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