まだ夏の気配がさめない日差しを避けた部屋の隅で、棘は裸になって腰に鏡をかざした。昨夜噛まれた歯型が生々しく残っている。触れるとわずかに痛い。それだけでなく、点々と痕跡が残る。思い出しかけた煙草臭い囁き声を舌打ちで打ち消して、絝を穿く。
五条という日本人が来た日、老大に抱かれろと命じられたが、あの日も肌に残されていた醜い痕跡のせいにして、命令に背いた。老大は仕方ないと納得したが、あとになっていかに五条が扱いにくいかと寝物語に八つ当たりされた。
そんなこと、屋敷に入ってきたやつらを四阿から見たときからわかっていた。一筋縄ではいかないと棘も伝えたはずだ。顔では談笑しながら、三人の日本人は誰も目は笑っていなかった。あの若い男だって、と棘は山査子をくわえさせてやった五条の連れを思い浮かべた。
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