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    さめしば

    @saba6shime

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    さめしば

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    付き合ってない冬駿の日常SS 耳掃除編

    「なあ冬居、耳かき貸して」
     声に振り返ると、小指を片耳に突っ込み顔を歪めた幼馴染みと目が合った。僕の部屋でゲームをして、一頻り楽しんだ後はだらだらと過ごす日曜の午後。隣に住む幼馴染み——山田駿が要求したのは、他愛もないことだった。
    「えーっと、耳かき耳かき……あった。どーぞ」
     目当てのものを机の抽斗から探り当て、ベッドに寝転がる彼に手渡す。耳垢を受けるためのティッシュも添えて。
    「サンキュ。ってこれ、光るやつじゃん。なんか懐かしー感じ」
    「そういえば僕が子どもの頃からあるかも。今はこの部屋に置いてるけど、元々は母さんのだよ」
    「物持ちいいよなー、お前んち。おお、ちゃんと電池も生きてる」
    「へえ、ほんとだ」
     自分で使う際はライト機能など当然必要ないので全く気にしていなかったが、意外と長持ちなようだ。感心顔の幼馴染みから目を離し、読んでいた文庫本を再び手に取ろうとして、頬に刺さる視線に気付く。耳かきと僕を交互に見比べ、妙案を思いついたという顔の彼と目を合わせてしまった。悪い予感に先回りした口が動く。
    「お断りします」
    「オイ、頼む前から断るやつがあるか」
    「他人の耳掃除なんてやったことないですよ僕……」
    「でも自分でやるよりキレイになりそうじゃん。それに、せっかく光る機能があるなら使ってやんねーとなあ」
     妙に楽しそうな様子でいそいそとベッドから下りてきた彼は、脚を伸ばして座る僕の腿にごろんと頭を預けた。しまった、膝を立てて座っておくべきだった。後悔先に立たず。頼むよ冬居、と耳かきを差し出す彼の横顔を見下ろし、諦め度90パーセントの溜め息をつく。
    「一応聞くけど……他人に任せるのって不安じゃないんですか」
    「お前の性格なら慎重にやるだろ?」
    「僕だったら駿君に耳を弄られるなんて絶対ゴメンだけど」
    「やるつもりもねーけど先に断られっと腹立つな……」
     ヘタクソだったらすぐやめさせるかんな、と頼んだ側とは思えない台詞を言い捨てた彼は腕を組み、目を閉じて僕が動き出すのを待つ。こうなってしまってはもう仕方がない。手早く終わらせて満足してもらおう、と耳かきのスイッチをオンにした。
    「……危ないからじっとしててくださいよ」
     耳を軽く引っ張り中を覗き込む。プラスチックに内蔵された電球の放つ光は予想以上に力強く、奥までよく見渡せることに安堵する。慎重に慎重に、と心の中で唱えながら、幼い僕の耳掃除をする母の手つきをどうにか思い出そうとした。
    「痛くない?」
    「ん……へーき」
     さっさと終わらせる算段だったというのに、これはなかなか没頭してしまう類いの作業だ。凝り性な傾向を自覚してはいたが、地道に綺麗にしていく過程にやりがいを感じる。お互い無言の5分程度が経過し、左耳終わったよ、と声を掛けようとしたその時だった。
    「あ」
     耳かきのライトがぱちぱち瞬いたかと思うとふつりと消え、それっきりになってしまった。電池切れらしい。こればかりはどうしようもない、右耳は自分で済ませてもらうとしよう。面倒事を切り上げる口実ができたと喜ぶべきなのだろうが、どうせなら最後までやりきりたかった、と残念に思う気持ちも心の片隅にある。
    「ねえ駿君……って、うわ」
     膝枕にすうすうと寝息を立てる男がひとり。いつの間にやら眠りに落ちた彼の身体は弛緩し、先程よりもその重みを増していた。
    「はあ……油断した」
     咄嗟に揺り起こそうとしたものの寝顔があんまり穏やかで、それが自分の耳掃除の結果だと思うと悪い気はしない。きっと数分先の僕は脚の痺れに悶える羽目になるけれど、あと少しだけ寝かせてあげよう、と肩の力を抜いた。手慰みに彼の髪を指に巻きつけてみたり、ふわふわとした感触を楽しませてもらう。迷惑料と思えば、普段は絶対にやらない行為にも及べるというものだ。今この瞬間目を覚ましたら、確実に怒られるだろうけど。
     ——などと悠長に構えていた自分を数分後の僕は後悔することになる。部屋着のジャージに彼が残した涎の染みをきっかけに、高校入学以来最長の喧嘩に発展する事態になるのだから。彼の勝手を許すのは、程々に抑えるべきである。
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