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    さめしば

    @saba6shime

    倉庫兼閲覧用。だいたい冬駿

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    さめしば

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    奥武幼馴染みのSS/前回のワンドロワンライお題「ライバル」から書き始めた話ですが、時間など色々な理由からワンライとして出すのは断念しました。スタメン周りの話は捏造です。

    好敵手の条件「冬居お前さあ、ちょっとくらい悔しかったりしねーの」
     放課後の部活動を終え、職員室へ体育館の鍵を返しに行く道すがらのことだった。とうに日も落ちてひとけの少ない廊下を歩きながら、幼馴染みであり部活の先輩、そして主将でもある彼——山田駿は僕に問い掛けた。藪から棒に何を、と聞き返しかけて自ずと思い当たる。本日の練習前、いよいよ一ヶ月後に迫った冬の大会に臨むスタメンの発表があったのだ。僕に割り当てられた背番号は八、交代要員筆頭といったところ。一年生の中では最も期待されている立ち位置と言っていいだろう。
    「悔しいも何も。先輩方の次につけたんだから、順当じゃないですか」
    「……自信があるんだかないんだか」
    「僕は満足ですよ」
    「そーかよ」
     はあと溜め息をついた彼は、鍵のリングに人差し指を通してひゅんひゅんとぶん回し始める。今にも吹っ飛んでしまいそうに回転する金属の軌道を、僕は冷や冷やとしつつ横目に眺めた。
    「負けん気っつーか、逆に勝ち気っつーのか? そういうの昔っから薄いよなー冬居は」
    「そうですかね? 試合では、いつだって勝ちたいと思ってますけど」
     スタメン入りを逃して心から悔しがる自分の姿を想像してみる。案の定、実感はちっとも伴わない。生来の気質が他者との競争に向いていないことは、昔からそれなりに自覚している。
    「チームでの話じゃなくてさ、もっと個人的な……絶対コイツにだけは負けてたまるか! みてーな相手、お前にはいない……わけ……」
     だんだんと小さくなる語尾が中途半端に途切れた。口を動かしつつその内容に自分自身慌てたような様子の彼を、ちらりと盗み見る。手元に集中していたせいだろうか、無意識に口を滑らせたらしい。右手の動きがぴたりと止まって、鍵はくるくると指の付け根へ落ちていった。かちゃりと金属音が鳴り、一瞬の沈黙が落ちる。
    「……あ〜、つまりだな!? 対人スポーツやってんだから相手をハッキリ思い浮かべたほうがプラスに働くこともあるんじゃねーかって意味で! わかるだろ!?」
     そこまで必死に取り繕わなくたっていいのに。どこかむず痒い心地で、隣からそっと視線を外す。彼が先程の台詞のどこに焦りを見せたのか、僕には容易に察することができてしまったから——このひとつ年上の幼馴染みにとって、「負けてたまるか」と思う相手こそ、他ならぬ僕なのだ。
    「そんな風に思うひとはいない、ですかね。僕には」
    「……ふーん」
    「他人に対抗心燃やす暇があったら、自分の心配をしてたいかな」
     それとなく話題を逸らしてみる。藪蛇をつつかれずに済んだとでも言うような、見るからにほっとした様子で彼は小さく息を吐いた。「そう言う山田さんには負けたくない相手がいるんですか」なんて、今さら追及する気も起きないから安心してくれて構わないのに。幼馴染みにライバル視されている事実など、一桁の歳の頃からずっと僕の日常なのだから。

     親同士が僕ら二人を比較し合ったわけでは決してなかった。しかし得意分野の違いは成長とともに浮き彫りになってゆくもので、彼が難なくこなすことでも僕には難しく、そしてその逆もまた然り。弟のような存在に勝てなかった経験はいつしか彼の対抗心に火をつけ、何かと勝負事を持ち掛けられることがしばしばあった。かけっこ、テレビゲーム、食べるスピード、もしくは量。なんでもかんでも張り合わされたわけではないけれど、「冬居の上を行っていたい」という思いが彼の心に根差していたのは確かだろう。対照的に僕のほうは、年齢差や向き不向きという覆しようのない要素について、幼い頃からよく理解していた。珍しく二人同時にスタートを切れたカバディだってそうだった。学年や実力差の壁はやはり高く、昔と変わらず彼を追う立場にいるのが現状だ。後塵を拝することに悔しさを感じないこともないけれど、そういった感情に折り合いをつけるのには慣れていたし——何より、同じ競技に打ち込んだからこその発見があったのは、僕にとってとても大きかった。それは、プレースタイルさえ僕たちはまったく異なるのだ、という点。性格や資質、体格の違いから徐々に鮮明になったその「差」は、ささやかなモチベーションとして僕に作用した。なぜってつまり、チーム内で競合せず彼と共闘できるってことじゃないか、と思えたからだ。

    「ま、いーけどな別に。闘争心に欠けるとこがむしろ冬居の長所なんだろうし」
     どことなく心を読まれたような台詞に少し面食らってしまった。部長の顔をした彼は、時々こうして何のてらいもなく僕を褒めるのだ。どう返すべきか迷う僕をよそに、彼は言葉を続ける。
    「スタメンから外しちゃいるが、ウチで一番安定して点取れるのはお前なんだからな。確実に公式戦デビュー飾らせるぞ、覚悟しとけ」
    「……飾らせる、って言い回し、初めて聞きましたけど」
    「んだよ、部長命令くらい大人しく聞けよなあ」
     まただ。時には僕を侮るような言動だってするくせに、それと同時に、この世の誰より僕を買ってくれているのもこのひとなんじゃないか——そんな風に自惚れたくなる瞬間が、度々ある。
    「そりゃ緊張もするだろうけど、なんにも心配いらねーって。お前はお前のプレーをすればいいんだよ」
     そう言うと彼は、にかっと歯を見せて笑った。
     今みたいに、僕のすべてをわかっているとでも言いたげな態度を向けられるたび、考えることがある。彼の見ている僕は、彼の中に棲まう「僕」の像はいったいどんなかたちをしているのだろう——時折、頭をもたげる疑問。けれど今日は、なぜだろう、その存在を意識したこともない鍵穴に答えがかちりと嵌まって開くような感覚があった。ああそうか、僕は——。

     唐突に訪れた自覚に、思わず足が止まった。山田さん、と前を行く背中へ声を掛ける。立ち止まって振り返る表情は不思議そうな色をしていた。彼のほうへ静かに二歩近づいて、しっかりと、ぴたりと視線を合わせてみる。その両の目に映っているであろう自分の像を、彼の見つめる「僕」の姿を、強く強く意識した。瞳を奥深く覗き込むみたいに語り掛ける。
    「僕、今度の大会できっちり結果残して、夏は絶対スタメン獲ってみせますから」
     きょとんと丸く開いた両目が少しずつ笑みの形に細められ、眩しそうに見つめ返される。
    「どした、珍しくやる気じゃん」
    「そういう気分だったので」
    「悪くねーな」
     二人同時にまた歩き出す。ひとけの少ない校舎、廊下の真ん中を、肩を並べて。
    「それと、さっきの質問ですけど。思いつきましたよ、負けたくない相手」
    「……へえ?」
     隣からそわそわとした空気を感じる。もしかして自分の名前が挙がるかも、なんて期待させてしまっているだろうか。
    「僕です。自分自身」
    「……一流のアスリートみてーなこと言うじゃねえか」
    「自分で言ってて思いましたね今。なんちゃらの流儀、みたいな……」
     プロフェッショナルかよ、とツッコミを入れて彼はくつくつと笑う。決意を思い切って口にしてみたもののちっとも締まらないあたりに、僕の、もしくは僕たち特有の空気を感じた。
    「まーでも、己の中にこそ魔物は棲むとか言うもんな。冬居は特にメンタルコントロールが大事だろーし、いい心掛けだと思うぜ」
     腕組みをして、得心したように彼はうんうんと頷いた。
    「……自分の中ってよりは、外にいるって言った方が正しいかな。僕の場合」
    「外ォ? なんだそりゃ、てめーの生き霊でも見えてんじゃねえだろうな」
    「ちょっと! いきなり怖い話するのやめてくださいよ! こんな暗い校舎で……!」
     お前が妙なこと言うからだろ、とぶはっと吹き出した彼は、顎を上げてけたけた笑う。ダウンジャケットの襟と髪がこすれ合って、笑い声と一緒にかさかさと音を立てた。
     真面目くさった空気は完全に消え失せて、けれど僕の真意なんて彼は知らないままでいい、とも思う。
    「あー笑った笑った……っと、じゃ行ってくるわ」
     気付けば職員室はもうすぐそこだ。彼は目的地に向けタタッと駆け出す。後ろ姿はみるみるうちに遠ざかり、やがてドアの向こうへと消えるのだろう。
     あの背中に引き離されないように——願わくば、その視界から外れないように。彼の見ている「僕」自身こそが、僕にとってのライバルだから。初めて像を結んだ「負けたくない存在」は、僕をどこへ運んでいくのだろうか。熱い冬の足音が、しんと静まる廊下にひたりと迫っていた。
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    さめしば

    TRAINING付き合ってる冬駿のSS
    お題「黙れバカップルが」で書いた、井浦と山田の話。冬居はこの場に不在です。
    お題をお借りした診断メーカー→ https://shindanmaker.com/392860
    「そういえば俺、小耳に挟んじゃったんだけどさ。付き合ってるらしいじゃん、霞君とお前」
     都内のとあるビル、日本カバディ協会が間借りする一室にて。井浦慶は、ソファに並んで座る隣の男——山田駿に向け、ひとつの質問を投げ掛けた。
    「……ああ? そうだけど。それがどーしたよ、慶」
     山田はいかにも面倒臭そうに顔を歪め、しかし井浦の予想に反して、素直に事実を認めてみせた。
    「へえ。否定しないんだ」
    「してもしゃーねえだろ。こないだお前と会った時に話しちゃったって、冬居に聞いたからな」
     なるほど、とっくに情報共有済みだったか。からかって楽しんでやろうという魂胆でいた井浦は、やや残念に思った。
     二週間ほど前のことだ、選抜時代の元後輩——霞冬居に、外出先でばったり出くわしたのは。霞の様子にどことなく変化を感じ取った井浦は、「霞君、なんか雰囲気変わったね。もしかして彼女でもできた?」と尋ねてみたのだった。井浦にとっては会話の糸口に過ぎず、なにか新しいネタが手に入るなら一石二鳥。その程度の考えで振った一言に返ってきたのは、まさしく号外級のビッグニュースだった。——聞かされた瞬間の俺、たぶん二秒くらい硬直してたよな。あの時は思わず素が出るとこだった、危ない危ない。井浦は当時を思い返し、改めてひやりとした。素直でかわいい後輩の前では良き先輩の顔を貫けるよう、日頃から心掛けているというのに。
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    さめしば

    MOURNING※供養※ 灼カバワンドロワンライのお題「食欲の秋」で書き始めた作品ですが、タイムアップのため不参加とさせていただきました。ヴィハーンと山田が休日にお出掛けする話。⚠️大会後の動向など捏造要素あり
     しゃくっ。くし切りの梨を頬張って、きらきらと目を輝かせる男がひとり。
    「……うん、おいしー! すごくジューシーで甘くって……おれの知ってる梨とはずいぶんちがう!」
     開口一番、ヴィハーンの口から出た言葉はまっすぐな賞賛だった。「そりゃよかった」と一言返してから俺は、皮を剥き終えた丸ごとの梨にかぶりついた。せっかくの機会だ、普段はできない食べ方で楽しませてもらおう。あふれんばかりの果汁が、指の間から滴り落ちる。なるほどこれは、今まで食べたどの梨より美味い。もちろん、「屋外で味わう」という醍醐味も大いに影響しているのだろう。
     ——俺とヴィハーンはふたり、梨狩りに訪れていた。

     長かった夏の大会が幕を閉じ、三年生はみな引退し、そしてヴィハーンは帰国の準備を着々と進めていた十月下旬のある日——「帰る前になにか、日本のおいしいものを食べたい!」ヴィハーンから俺に、突然のリクエストが降って湧いたのだった。
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