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    さめしば

    @saba6shime

    倉庫兼閲覧用。だいたい冬駿

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    さめしば

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    冬駿のSS 背番号にちなんだ日付(7/1)に寄せて
    ⚠︎未来捏造要素あり

    ##冬駿

    ラッキーセブンとナンバーワン「そーいや、高校ん時と同じになったんだよなあ」
     エレベーターに乗り込むなり、幼馴染みが弾んだ声で言った。なあ冬居。彼はそう付け加えて、後ろに立つ僕をくるりと振り返る。エナメルのスポーツバッグが、壁にごつんとぶつかる音がした。大学のロゴと部活名がプリントされた、揃いの品だ。
    「ああ……確かに。そういえばそうですね」
    「リアクションうっすいなオイ。もーちょいなんかあんだろ普通、感慨とかよ」
     同じになった、と彼が言及するのは僕たちの背番号についてである。本日の練習前、監督から次の大会へ臨むスタメンの発表があったのだ。山田さんが部の主将になって最初の公式戦。当然ながら彼は背番号一を、一方僕は背番号七を背負う選手に指名されたのだった。——実を言えば、もちろん特別に深い感慨はある。なんとなく、余裕ある態度を気取ってみたかっただけのこと。
    「お前にとっちゃ『当たり』の番号だろ? 昔と同じっつーのもあるけどよ、縁起のいい数字だもんな」
    「んー……でも、『ラッキーセブン』の由来って野球らしいですよ。他の競技から担ぐ縁起なんて、アテになりますかね」
    「調べたことあんのかよ。抜かりねーなあ、冬居は」
     くつくつと愉快そうに笑う横顔を眺めて気付く。どうやら、本日の彼はなかなかに上機嫌らしい。すっと目を細め、唇の片側を吊り上げて企むような笑みを浮かべた幼馴染みが、僕の視線を絡め取った。
    「……もしかしたらさ。お前が部長を引き継ぐとこまで、高校ん時と同じになったりするかもな?」
    「ええ……それはちょっと気が早すぎません? まだスタメン取れたばっかりなんですけど、僕」
     強豪と名高い大学を二人で選んだだけあって、我がカバディ部の選手層は厚い。結果だけ見れば僕はなんとか七人目に滑り込めたけれど、監督に名前を呼ばれるまではハラハラし続けていたのだ。日々の辛い練習がこうして実を結び、ひとまず安堵している最中だというのに。更に向こうの未来を見据える余裕など、今の僕にはない。
     むっと唇を尖らせた僕を見て、山田さんが眉を下げて笑う。
    「んな顔すんなって、冬居。なんもかも同じになるとは限らねーわな、そりゃ」
     エレベーターはあっという間に目的の階へと到着し、彼はドアの方へくるりと向き直った。ガーッとやかましい開閉音に紛れて、「ま、そうなってくれたら俺は嬉しいけどな」と、ぽつりと溢した声が僕の耳に届いた。——このひとのこういうところが、本当にずるい。一生敵わないとすら思う。期待してくれることへの照れ臭さを、僕は黙って噛み殺した。お願いとも独りごとともつかない台詞は、聞こえなかったふりをすることにしよう、今は。

     エレベーターホールを抜け、山田さんのあとをくっついて廊下をまっすぐに進む。軽快に歩く後ろ姿を見下ろしつつ、ひとり思考に沈んでみる。あの夏と同じ背番号が揃ったということなら、その他の面でもあの夏の再現を——? いや、それは駄目だ。決勝リーグの敗戦を思い返し、ぶんと頭を振る。とは言えリーグ初戦の黒星が希望を繋ぎ、その結果現在も山田さんとカバディを続けられているのは、たぶん疑いようのない事実だった。高校時代と同じとか縁起がどうとか、番号それ自体が僕にとって重要なわけではない。彼ともう一度、公式戦のコートに立つことが叶うのだ。すべてはそこに尽きると言い切ってもいい。こんな本音、このひとには口が裂けても言わないけれど。

     目的地まであと数歩というあたりで、前を歩く背中がごそごそと鞄を探り始める。
    「なあ冬居、来年どうなるかはわかんねーけどよ。とりあえず今日のことを祝ってやるよ、この俺がな」
     鞄から取り出された鍵が一瞬きらりと輝く。二人で暮らす部屋の扉ががちゃりと開いて、玄関の馴染んだ匂いが僕たちを出迎えた。
    「祝う、って……特になんにも用意してないですよね?」
     ドアに錠をかけながら、素朴な疑問を口にしてみる。僕の声が聞こえているのかいないのか、彼はスニーカーをぽいぽいと脱ぎ捨て勢いよく部屋へ上がる——かと思いきや、ぱっと後ろを振り返って見せた。やけに神妙な表情がずいっと近付いてきて、どうやら不意を突かれたらしいことに気付く。玄関の段差のぶん、普段より視線の高さが近い。至近距離にあるまぶたがゆっくりと伏せられるのを見つめながら、ああ、そういうことかと合点のいく思いで柔らかな唇を受け入れた。「これ」が僕へのお祝いに値するはずだなんて、ずいぶんと自分自身を高く見積もってるんだなあ。実のところ大当たりには違いないから、減らず口は叩かずにおいてあげよう、と思った。
     お互いに軽く唇を食み合い、僕の上唇がちゅっと音を立てて吸われたあと、キスは終わりを迎えた。逃げられてしまう前にと素早く彼の身体を捕まえる。斜め掛けのスポーツバッグに阻まれて中途半端に抱き寄せる形になったけれど、駿君は逃げずに腕の中へと収まってくれた。唇を離す瞬間に見た表情を思い返して、しっかりと記憶に焼き付けようと試みる。恥ずかしそうにぎゅっと眉を寄せ、浅黒い肌にほんのりとした赤みを乗せて。艶のある唇から熱い吐息を漏らす、あの様子はなかなかの見ものだった。二人の空間に足を踏み入れた途端、これほどかわいいところを披露してくれるだなんて。本日の上機嫌っぷりの成せるわざだろうか。数ヶ月前、「お前絶対スタメン取れよ、絶対だかんな」と頭ごなしに命令を下してきたときの姿をなんとなく思い出して、まるで別人みたいだと失礼なことを思う。
    「……ね、駿君。お祝い、もうちょっと欲しいです」
    「ったく……ぜってー調子乗ると思った」
     なんて言いつつも、拒んだりはしないんだよな。存分に甘やかしてもらえそうな予感が、現金な僕の心を躍らせる。彼に与えられるご褒美を目当てに練習を頑張ってきたわけではないと、そこはきっぱり否定できるけれど——そうだとしても。すべてが報われるような心地に身体中が包まれて、胸の奥がじわりと熱くなった。抱き締める力を無意識に強めていたらしく、腕の中の駿君がもぞもぞと動く。
    「……冬居てめー、スタメン選ばれたからってそこで満足すんじゃねーぞ。俺とチームの勝利に貢献しろよ」
    「もちろんです」
    「せいぜい頼りにさせろよな」
    「……光栄ですね」
     下から伸びてきた両腕が、僕の頭をがしりと掻き抱く。昔と比べてあらゆることが変化したけれど、その最たるものが僕らの関係かもしれない。幸福に浸りながら、今更なことを思った。あの夏と同じ——しかし確かな変化を抱えた——七番の僕と一番の君の物語が、また始まろうとしている。
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    さめしば

    DONE灼カバワンドロワンライのお題「こどもの日」で書いたSS
    5月5日の井浦慶の話。⚠️捏造要素あり
    「じゃあ今から十五分の休憩に入ります! 皆さん、水分はしっかり取ってくださいねー」
     はあーい! 整列した子どもたちの声が、体育館の天井に高く響いた。

     きょうは五月五日、こどもの日。都内のとある大型スポーツ施設では、小学生を対象としたスポーツフェスティバルが開催されていた。さまざまな競技団体が集うこの日、カバディ協会に割り当てられたのはここ、第二体育館の午前のプログラムだ。「こどもカバディ体験教室」と題し、競技未経験の子どもたちにカバディの楽しさを知ってもらう——これが本日のねらいである。その折り返しとなる休憩時間、運営スタッフとして参加中の井浦慶は、持参したペットボトル片手に休息を取っていた。立ったまま体育館の壁に背を預け、小さな溜め息を吐く。——わかっちゃいたけど、子どもの相手ってのはなかなか骨が折れるモンだな。スポーツドリンクを喉に流し込みながら、目の前の喧騒を眺めつつ思った。体力の有り余っているらしい男子数人が、休憩の間も惜しむようにマット上でじゃれ合っていた。狭いコート内で行われる鬼ごっこがいたく気に入ったと見える。悪くない光景だと、井浦は素直にそう思った。すると、井浦のところにまっすぐ近付いてくる男がひとり——同じくスタッフの一員として参加中の、山田駿だ。
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