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    さめしば

    @saba6shime

    倉庫兼閲覧用。だいたい冬駿

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    さめしば

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    奥武幼馴染みのSS(notカプのつもり)
    冬居視点による山田の誕生日のお話。
    ⚠️誕生日捏造あり

    夏空に希う「誕生日が夏休み中にあるのって、損だよなあ」
    「損? って……どういう意味? 駿君」
     友達がぽつりとこぼした言葉に、僕は素直な疑問を投げ掛けた。かんかん照りの夏空の下、近所にある公園の広場の隅っこ。周りには、まばらに解散してゆくお兄さんお姉さんたち。きょうはお隣に住む山田駿君に連れられて、朝のラジオ体操にやって来ていた。並んで歩く駿君は、スタンプ押したてほやほやのカードを手元で弄んでいる。小学校に入ればラジオ体操のスタンプカードというものが配られることを、僕は駿君におしえてもらった。そのひとつ年上の友達が、右手の人差し指をびっと立てて語り始める。
    「終業式の日にさ、クラスのやつが俺きょう誕生日なんだーって言い出したんだよ。そしたらみんなおめでとーってなるだろ? それ見てて、俺の誕生日は夏休み中に終わっちゃうから友達に祝ってもらえねーじゃん! って気付いてよ」
    「ああ、そういうこと……」
     なるほど、駿君はたくさんのお友達におめでとうって言ってほしいんだな。そんな発想は自分の中には全然なくって、やっぱり僕と駿君はちっとも似ていないと改めて思った。いつも明るくて、楽しいことを見つけるのが得意で、僕をぐいぐいと引っ張ってくれる友達。駿君は、あした七歳になるのだ。
    「これからずーっとこうなんだろうなあ。チューガク上がっても、コーコー入ってもさ。夏休みも誕生日も変えらんねーもん」
     駿君はそう不満をこぼし、拗ねたように唇を尖らせた。どう声を掛けたものかと考えているうちに、僕の隣を歩く影がふっと小さくなる。ほどけた靴紐を結ぶために、その場でしゃがみ込んだらしい。僕も立ち止まり、斜め後ろを振り返って視線を落とした。砂を被ってまだらに白い運動靴に蝶々結びができてゆく様子を、日差しにじりじり焼かれながらぼうっと眺める。
    「ま、しょーがねーよな」
     俯いたままそう呟く友達の姿がやけに小さく見えて、普段の頼もしさまでどこかへ消えてしまったようで、胸がぎゅっとなるのを感じた。
    「……えと、駿君」
    「でもいーんだべつに。俺には冬居がいるし」
    「えっ」
     靴紐を結び終え、顔を上げた駿君はにかっと笑っていた。ぴょんと音がしそうな勢いで立ち上がり、僕の先へタタッと歩み出る。
    「去年も俺んちでケーキ食べたろ。明日も絶対来いよな! そんで俺の部屋で遊ぶぞ!」
    「……うん、もちろん」
    「誕生日プレゼント何もらえっかなー。リクエストどおりだといいなあ」
     さっきまでの沈んだ様子はどこへやら、うきうきと明日の予定を思い浮かべているらしい。駿君の表情はいつだって、僕にはとても追いつけないようなスピードでころころと変わる。
    「……ねえ駿君、僕ね」
    「おう、どーした」
     くるりと振り返り、僕の言葉をじっと待ってくれる、僕の大切な友達。
    「これから毎年、絶対お祝いするから。駿君のお誕生日」
     ちょっぴり勇気を出してそう告げると、駿君の顔はみるみるうちに満面の笑みになっていく。眩しいくらいの笑顔が、僕を照らした。
    「よーし、絶対だぞ! 約束な、冬居」
    「えっ、うん。わわっ」
     下ろしていた右手をぱっと掴まれたかと思うと、小指が駿君のそれに掬われて強引に絡められる。だいじな約束をする時の、お決まりの形に。
    「ゆーびきーりげーんまーん、うそついたら……」
     夏休みのとある朝、公園の隅っこで、僕の友達の声が高く響いた。


    「——ということが昔ありまして」
    「おいなんだそのただただ微笑ましいエピソードは」
     向かいに座る橋本さんから早口のツッコミが飛んでくる。僕の隣の船井さんは、「その手の話に弱いんだよ俺は……」と額を押さえて俯いた。「山田の誕生日の思い出とかあんの?」と矢島さんに尋ねられて僕が語り始めた記憶は、いわゆる「面白い話」ではなかったらしい。
    「大変だったんですよ、誕生日当日は。『俺のためにハッピーバースデー歌ってくれよ』ってせがまれちゃって。一人で歌うの恥ずかしかったです」
    「まだ更に微笑ましさが続くのかよ……」
    「次の次の年は拒否しましたけどね。さすがに」
    「一回限りで終わらなかったのか……」
     軽く目を見張ったあと、港さんがふふっと笑いながら言った。
     ここはファミリーレストランの一角で、きょうは僕の幼馴染みの誕生日。体育館の貸切練習が我がカバディ部に割り当てられたこの日、「オメーらのキャプテンの生まれた日だぞ、祝え!」という一言をきっかけに開かれたのがこの会である。もっとも、山田さんが言い出すより先に「あいつの誕生日だし帰りにどっか寄るか」と先輩方の間で話は上がっていたらしいけれど。自然とスタメンが集まったこのテーブルに、二年生は僕ひとり。本日の主役はといえば、今ちょうど席を外しているところだ。「ファミレスの楽しみ方ってやつを俺が教えてやろう」とヴィハーンさんを連れ出し、ドリンクバーへ向かったのだ。どうせまた、ろくでもない味と見た目の飲み物を錬成しているに違いない。本人不在の隙を狙って僕に振られた話題が、先ほどの思い出話というわけだ。「あいつにもかわいい時代があったんだなあ……」と呟く橋本さんは、なぜかとても遠い目をしている。その様子に港さんは困ったような笑みを浮かべてから、僕のほうへと視線を移した。
    「つまりあれだろう。霞が言いたいのは、今年は駿の誕生日を俺たちで祝えて良かった、って話なんじゃないか?」
    「えっ。あー……そう、なります、かね?」
    「なんだ、違ったか」
    「いえ! そういうことだと……思います」
     なるほど確かに、この状況は六歳の彼が望んだものに他ならないのでは。中学の頃だって、世界選抜の合宿と誕生日が被った年もあり、彼が寂しい思いをしたことはほとんどなかったはずだけれど。なんだかんだで彼は、僕が祝うまでもなく人に囲まれている存在なのだ。
     山田さんの話をやいのやいのと続ける先輩たちの表情を眺めながら、ストローを咥えてジュースを啜った。しばらくすれば、僕らのテーブルに近付いてくる足音がふたつ。
    「おうお前ら盛り上がってんな。何の話だ?」
    「ただいまー! 見て見て、オリジナルドリンクできたよ!」
     コーラから透明度を奪ったような色の飲み物を携えて、二人が戻ってきた。すると、良いことを思いついたとでも言うようにニヤリと笑った橋本さんが口を開く。
    「なあ山田。今年は俺たちがハッピーバースデー歌ってやろうか?」
    「お! いいなそれ!」
     明らかにからかい混じりの橋本さんに対して、おそらく善意のみの相槌を矢島さんが打つ。
    「あ? んだよいきなり……」
     山田さんは唐突な提案に首を傾げ、テーブルを囲む面々の含みのある表情をさっと見渡した。「声変わり前のかわいい歌じゃなくてわりーけどなあ」と橋本さんの付け足した台詞が決め手となって、彼は鋭い眼光をぎろりと僕へ寄越す。目が合う寸前で顔を逸らした僕は、わざとらしく知らんぷりをしながらストローに口をつけた。
    「冬居! なんか言いやがったな!」
    「黙秘します」
    「それは肯定と取っていいってことか? ちょっと目ぇ離した隙にお前ってやつは……」
     どすんと僕の隣に腰を下ろした彼は、不満も露わにぐいぐいと脚を広げて膝を押し付けてくる。こそりと横目で様子を窺ってみれば、耳のふちが赤く染まっていた。なんとなく予想はしていたけれど、彼にとっては恥ずかしい類いのエピソードだったようだ。
    「なになに? 何のハナシ?」
    「それがさあ、山田が子供の頃……」
     向かいの席では、興味津々な様子のヴィハーンさんが矢島さんに説明を求め、要約した僕の話を聞かせてもらっていた。——なるほど、客観的に聞いてみるとこれはなかなか気恥ずかしいものかもしれない。「えー、素敵なハナシだね! 二人ともカワイイ!」とヴィハーンさんがにこにこと笑った。ただただ素直で好意的な反応を受け、僕自身もようやく顔に血が上り始めるのを感じ、隣の幼馴染みと接する脚の一部までもがじんわり熱くなったように思えてくる。話題の中心である当の本人は、羞恥に耐えかねた様子でついに反撃に出た。
    「っだーもう! オメーらだってガキの頃の恥ずかしい話くらい、ひとつやふたつあんだろ!? よし、そっちから順に発表していけ、誕生日特権だ!」
    「んだよそれ、じゃあまずは言い出しっぺからしゃべれよな」
    「バカ言え、俺ぁもう終わってんだろが」
    「さっきのは冬居の話だからノーカンじゃね?」
    「だよな。山田がした話じゃない」
    「インドではねえ、お誕生日お祝いしてもらったひとがみんなにお返しのプレゼントをするシューカン? があるんだよ! だからサンダーからお話してくれるのも、おれはいいと思う!」
    「へえ、いい文化じゃないか」
    「断りづれーこと言うなよヴィハーン……」
     僕が口を挟む隙もなく、先輩たちのやり取りが目まぐるしくぽんぽんと展開される。その光景をひとり眺めながら、まさしくこんな誕生日こそ僕の幼馴染みには相応しいのだろうと、約十年越しの答えを得られたような気がした。
     わいわいと賑やかに、そして和やかに、即席の誕生日パーティーは幕を閉じたのだった。


    「ったくあいつら、ホントに歌いやがって……忘れた頃の不意打ちは卑怯だろ」
     結局、店を出て駅までの道中でハッピーバースデーの合唱は実行される運びとなった。山田さん自身も嬉しくなかったわけではないはずだけど、「ハッピーバースデーディア」に続く呼び名を数人の先輩たちが「駿君」と歌っていたあたりに、手放しで喜べないものがあるのだろう。
    「賑やかに終わって良かったじゃないですか」
    「賑やかになった原因はお前だろーが……」
     傾きかけた太陽に見守られる、二人きりの帰り道。僕らの家は、もうすぐそこまで迫っている。
    「つーか俺、マジであんなこと言ったっけか? 夏休み中だから祝ってもらえねーのがヤダ! とかさあ」
    「覚えてないことに僕はびっくりしましたけど……」
     この様子だと、あの時交わした約束も彼は忘れてしまっているのかもしれない。寂しく思う気持ちが、ほんの少しだけ心をよぎる。だけど、僕のほうが昔の思い出をよく覚えているのなんて、いつものことだった。
     彼が山田家の門の前で足を止めた瞬間、僕はすかさず声を掛ける。
    「山田さん、これ。プレゼントです」
    「お! サンキュ、冬居」
     鞄から取り出した包みを手渡す。彼はぱっと嬉しそうに顔を輝かせたと思いきや、スポーツ用品店のロゴに目を留めた途端、怪訝そうな表情へと変わった。小さな紙袋から取り出した中身をまじまじと見た幼馴染みは、眉を下げてどこか寂しそうな笑みを浮かべる。
    「……辞めるっつってんのに」
     ぽつりと呟いた彼の手の中にあるのは、プラケースに入った黄色い靴紐だ。有名スポーツブランドの高機能シューレースが、今年の僕からの誕生日プレゼントである。
    「予備は必要でしょ。大会の間に切れちゃうかもしれませんし」
    「そりゃーそうだけどよ……」
     いかにも自分の言いそうな台詞くらいは知っている。彼の目を見ないよう、手元のプレゼントに視線を合わせながら、それらしい建前を述べて見せた。
    「……あと、いい色だなと思って」
     こちらは本心だ。自分の買い物で寄ったスポーツ用品店で、ふと目に入ったのがこの商品だった。僕らのユニフォームに使われている色とよく似た淡い黄色のそれを、ほとんど直感で幼馴染みへの贈り物に選んだ。
    「ふーん? 確かにな」
     僕の言わんとしたことは伝わったらしい。彼は靴紐を目線の高さまで持ち上げ、強い日差しに透かすみたいに見つめて、すうっと目を細める。
    「ありがとよ冬居。今年も、な」
     ——あれ。約束、覚えてたんだ。はっきりとは言い表さなかったものの、今の照れ臭そうな顔を見る限りそう考えていいような気がする。指切りを交わしたあの笑顔が目の前の彼に重なって、しかしその面立ちは比べるべくもなく大人びていた。
    「……まあ、その部活カバンにでも忍ばせておいてください」
    「へいへい、りょーかい」
     今年も、と彼は言ってくれたけれど。実のところ、今年のプレゼントに込めたのは誕生日を祝う気持ちだけではなかった。この靴紐が、高校のユニフォームを着ている間に日の目を見なくたっていい。彼のカバディシューズを彩るところを僕が直接見る機会に恵まれなかったとしても、たぶん構わない。まだ続いていくはずの彼の道行きが先へと繋がるように、いつかは実を結んでくれるように——ひたすらそう望むだけだ。つまりは、これから始まる僕の長い悪あがきの一環に過ぎないのだった。どうしようもなく一方的な願いを込めた、決意の証みたいな贈り物。ぽうっとかすかに灯る光の色をしたそれが、彼の未来を照らしてくれるみたいに思えたから。
     一年後のきょうも、このひとがカバディ選手として歩んでいますように。
    「お誕生日おめでとう、駿君」
     ——願わくば、その先も。
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    さめしば

    TRAINING付き合ってる冬駿のSS
    お題「黙れバカップルが」で書いた、井浦と山田の話。冬居はこの場に不在です。
    お題をお借りした診断メーカー→ https://shindanmaker.com/392860
    「そういえば俺、小耳に挟んじゃったんだけどさ。付き合ってるらしいじゃん、霞君とお前」
     都内のとあるビル、日本カバディ協会が間借りする一室にて。井浦慶は、ソファに並んで座る隣の男——山田駿に向け、ひとつの質問を投げ掛けた。
    「……ああ? そうだけど。それがどーしたよ、慶」
     山田はいかにも面倒臭そうに顔を歪め、しかし井浦の予想に反して、素直に事実を認めてみせた。
    「へえ。否定しないんだ」
    「してもしゃーねえだろ。こないだお前と会った時に話しちゃったって、冬居に聞いたからな」
     なるほど、とっくに情報共有済みだったか。からかって楽しんでやろうという魂胆でいた井浦は、やや残念に思った。
     二週間ほど前のことだ、選抜時代の元後輩——霞冬居に、外出先でばったり出くわしたのは。霞の様子にどことなく変化を感じ取った井浦は、「霞君、なんか雰囲気変わったね。もしかして彼女でもできた?」と尋ねてみたのだった。井浦にとっては会話の糸口に過ぎず、なにか新しいネタが手に入るなら一石二鳥。その程度の考えで振った一言に返ってきたのは、まさしく号外級のビッグニュースだった。——聞かされた瞬間の俺、たぶん二秒くらい硬直してたよな。あの時は思わず素が出るとこだった、危ない危ない。井浦は当時を思い返し、改めてひやりとした。素直でかわいい後輩の前では良き先輩の顔を貫けるよう、日頃から心掛けているというのに。
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    さめしば

    MOURNING※供養※ 灼カバワンドロワンライのお題「食欲の秋」で書き始めた作品ですが、タイムアップのため不参加とさせていただきました。ヴィハーンと山田が休日にお出掛けする話。⚠️大会後の動向など捏造要素あり
     しゃくっ。くし切りの梨を頬張って、きらきらと目を輝かせる男がひとり。
    「……うん、おいしー! すごくジューシーで甘くって……おれの知ってる梨とはずいぶんちがう!」
     開口一番、ヴィハーンの口から出た言葉はまっすぐな賞賛だった。「そりゃよかった」と一言返してから俺は、皮を剥き終えた丸ごとの梨にかぶりついた。せっかくの機会だ、普段はできない食べ方で楽しませてもらおう。あふれんばかりの果汁が、指の間から滴り落ちる。なるほどこれは、今まで食べたどの梨より美味い。もちろん、「屋外で味わう」という醍醐味も大いに影響しているのだろう。
     ——俺とヴィハーンはふたり、梨狩りに訪れていた。

     長かった夏の大会が幕を閉じ、三年生はみな引退し、そしてヴィハーンは帰国の準備を着々と進めていた十月下旬のある日——「帰る前になにか、日本のおいしいものを食べたい!」ヴィハーンから俺に、突然のリクエストが降って湧いたのだった。
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