正しさに帰る道/おじさん『正しさに帰る道』
仮に名前をユウとしよう。綴りはyou。あなた。誰も彼の名前を覚えていないから、誰もが彼を呼ぶことが出来ないので、誰しもが心の中だけで呼んでいる存在だ。ユウはほんの数ヶ月前まで、オンボロ寮にいた、異世界から来た男の子である。そうして、ほんの数ヶ月前に異世界に帰ってしまった友達でもある。
エースはオンボロ寮のドアノッカーを人差し指の腹で撫でながら、彼を思い出してみる。髪は、たぶん、黒だ。でもジャミルやマレウスのような艶のある黒ではなかった。もっとぱさついた、短い髪で、寝癖がつくとなかなか直らないのだと言っていた。目は、どうだったろう。いつも隣にいたから、目を見た記憶がほとんどない。焦げ茶だったか、黒だったか、とにかく赤や緑ではなかったはずだ。
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