【倉御】恋人未満、延長戦 初めてそれを試みたのは、風の生暖かくなってきた春のはじめのことだった。
引っ越しをしたばかりの部屋は雑然としていて、整理のされていない段ボール箱が隅に積み上げられていた。ベッドとテーブル、それに簡素な棚だけが無造作に置かれている。飾り気のないアパートの一室は、学生らしい清貧さに満ちている。
ベッドの上に二人はいた。まだ外は明るく、閉じられたカーテンの隙間から強い光が漏れている。明るい日差しから隠れるようにして暗い部屋に閉じこもっているのは、なんだかひどく不健康な気分になる。
倉持は御幸の頬に触れた。指先が眼鏡の縁に当たる。くすぐったいのか、御幸は僅かに身体を揺らした。薄暗い部屋の中にいるせいで、表情はよく見えない。
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