甘いキスは思い出の香り 帰路 ① ーーー ***ーーー *** ーーー
実は書きかけて行き詰ったときに、コウさんに読んでもらって展開のアドバイスをいただき、ちまちまと書き進めておりました温周現代転生AUです。書き始めたのが秋でしたので晩秋から初冬の設定で申し訳ありません。
こちらは全年齢の前半部分となります。
社畜の阿絮と人気モデルの老温。付き合い始めて数か月、作者がハピエン厨のため事件は起こりません。頭を空っぽにしてただ甘い温周をコウさんと🏔️が好きな皆様にお読みいただければと思っております。
この場をお借りして、日頃からお世話になっているコウさんに感謝とお礼を申し上げます。これからもよろしくお願いいたします。
では、どうぞ……。
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周子舒はこのところ大きなプロジェクトに関わっていて休日も返上で、仕事に没頭していた。いや、したくてしていたわけではなかったが任されるとより良いものに仕上げたいと心血を注いでしまうため上司や部下、同僚からも信頼は厚い。しかしそれゆえ自分を顧みなくなってしまい、気が付けば一か月近く恋人である温客行に会っていなかった。
プロジェクトがひと段落して久しぶりに今日は早く帰れる。明日と明後日は休みをもらえた。連絡を入れてあるから自宅マンションに温客行は来ているはずだ。夕方の人混みに紛れて段々足取りが早くなるのを自覚して苦笑しながら、ふと己の身体の違和感に気付いた。
「……???」
体の芯がムズムズする…? いや? 熱い?
違和感の正体を探りながら歩を進めたが何がおかしいのかがつかめない。晩秋の冷たい夜風が顔を撫でるように吹き抜けると、肌に触れているシャツがピリッと体の表面の神経を逆撫でしたように感じた。
「……⁉⁉」
ピリピリとざわつく身体をさすりながら、やっと帰り着いたマンションの鍵をカチャリと開けドアをひらいて入った途端、温客行がガバッと抱き込んで視界を奪った。
「ただい……まっ!!」
言い終わる前に閉めたばかりのドアに押し付けられて言葉と呼吸までも奪われた。
「ぅ…んっ…ン…っ……。」
くちゅくちゅ、と口内を蹂躙されて身体から力が抜ける。身体の芯はとろけて力が抜けたようになっているのに皮膚の表面はピリピリと熱い。
「ンぁ…っ…」
銀糸を引いて口唇が離れる。温客行は口付けで真っ赤になった唇が唾液でぐちゃぐちゃのまま
「お帰り」
と天使のような笑顔を浮かべた。
久しぶりの逢瀬に突然の抱擁と熱烈なキス。温客行の特上の笑顔に周子舒の心拍が跳ね上がる。だが周子舒は視線を彷徨わせて「あの…」と小さくつぶやいた。
「阿絮? どうしたの?」
いつもと違う反応に温客行は周子舒の顔を心配そうに覗き込んで、額に張り付いたゆるく癖のある髪を優しく手の甲で撫で上げた。
「…んんっ!!あ…っ!!!」
びくん!と周子舒の身体がはねる。
「え⁉ あしゅ、どうした?」
身体を固くしてうつ向く周子舒は温客行の肩口に顔を押し付け、腕を背に回してぎゅうっと抱き付いた。
「お前に、久しぶりに会えると思って、急いで帰ってきたんだ……」
「うん。僕も楽しみにしてたよ。」
「だけど、帰り道で……なんか身体がおかしくて……。身体の芯が、こう、ざわついてるみたいな……変な感じで。……身体の表面がチリチリして、シャツとか、お前の手とかが触れるだけで……ピリピリするんだ……」
耳が真っ赤に染まっている。
「待って、待って。どこか具合でも悪いの? 熱は……」
周子舒の肩を掴んで引きはがすと少しかがんで、こつんと額を合わせた。
「ん、熱はないね。」
「~~~。」
「に、しては顔が赤い。」
温客行は額を合わせたままにんまりと笑う。
「……」
「……あしゅぅ? 僕に会いたかった?」
「…!!」
「僕に、抱き締めてもらいたかった?」
「……ちがっ、う……ぅん……。」
周子舒の顔がますます赤くなって、わかりやすく視線を逸らす。うるんだ瞳がめちゃめちゃ可愛い。
「ちがうの? ちがわないの?」
くすくすと笑いながら大きな手のひらで周子舒の頬をやんわりと包んで自分の方を向かせると温客行は首を傾けて、優しく口唇を吸った。ちゅっと音を立てて唇が離れると周子舒は温客行の首に腕を回して抱き付いた。温客行の長い髪に隠れている首筋に顔をぐりぐりと押し付けて耳までたどり着くと耳たぶに唇をぴったりとくっつけて小さな声で囁いた。
「……らおぅぇん……会いたかった……。」
「……!!!!」
「……ん、もぅ……。そうゆうとこだよ、あしゅぅ~~。」
「なっ!ぅわっ!!」
よいせっと周子舒のお尻の下と膝裏に腕をまわして担ぐように抱き上げると、周子舒がより強く温客行の首筋にしがみつく。そのままリビングに入ると大人が横になっても充分な大きさのあるソファーの上に周子舒をぽすん、と降ろした。
温客行は再び周子舒の顔を白く長い指でするりと撫でて両頬を包むと顔中にちゅっちゅっと啄むようなキスを降らせた。ぴくんぴくんと身体を震わせながら背中に手を回して縋りついてくる周子舒が…可愛い過ぎる。
「阿絮…教えてあげる。それはね、僕に触って欲しくて身体が啼いてるんだよ。」
ないてる?????
「……な……そ、そうなの、か?……そう、かも……?」
温客行の言葉が腑に落ちず、困惑して思考と動きが停止したとたん周子舒のお腹の虫が大きく「ぐぅ~」と音をたてた。温客行と周子舒は顔を見合わせて噴き出すともつれるように抱き合ってソファーに転がりながらひとしきり笑った。ひぃひぃと喘ぎながら笑いを収めると笑いすぎて涙を浮かべた周子舒の瞼に温客行がちゅっと口付けて涙を吸い取った。
「阿絮、ホントかわいいんだから。ご飯の用意できてるから一緒に食べよう。続きは後で。」
ふんわりと笑い周子舒の両手を取って立たせると
「料理温めるから阿絮は着替えてきて。」
と言って、用意してあったのであろう部屋着を渡してキッチンへ向かって行った。
温客行への全ての気持ちに名前を付けるなら「愛おしい」以外の言葉が見つからない。
正直、こんなにいい男が自分の恋人というだけで信じられないのだ。仕事がらみでファッションモデルの温客行と初めて出会った瞬間、雷に打たれたかのように恋に落ちた。これまでの恋愛の相手はすべて女性だったが不思議と違和感を持たなかった。徐々に距離が近くなり『阿絮』『老温』と呼び合えるほど仲良くなったものの、冴えない社畜の自分が温客行の恋愛対象になるわけがないと諦めかけた時に温客行からの熱烈な告白で恋人となった。そして初めてのキスでお互いに前世の記憶がよみがえり、そのままホテルになだれ込んでこれまで離れていた時間を埋めるように身体を重ねて今日に至る。
つらつらとそんなことを思い出しながらクローゼットで着替えを済ませリビングに戻ると、温客行が奥のダイニングで湯気の立つ皿をテーブルに並べていた。ドアの音にこちらを向くと花も色褪せるほどの笑顔をこちらに向けた。
「阿絮、早くこっち来て。今日は寒いからビーフシチューにしたよ。」
「え? 煮込むの時間かかっただろ。いつから来てたんだ?」
わしわしと片手で髪をかき混ぜながらリビングを横切ってテーブルに近づく。『今更老温の笑顔が眩しくて直視できないとか俺も大概だな……。』心の中で独り言ち、いただきますと言いながら席に着いた。
「いただきます。…僕、今日は早朝から撮影だったけどお昼には終わったんだ。そのままここに来て牛肉を煮込み始めてね、煮込んでるうちに少し寝たから元気だよ。今日は僕が阿絮を甘やかすって決めてるから覚悟して!」
「三十路の男に甘やかすとか言うなよ。」
「ハイハイ。」
柔らかく煮込まれた牛肉を口に運びながらフフフと笑う温客行の、スプーンを持つ白く長い指が目の端に入って、あの指が……と考えるだけで胸がきゅんとなる。いかんいかんと目の前に用意されたビーフシチューを口に入れた。
「うまい!!」
考えてみればちゃんとした食事は久しぶりだ。忙殺されると自分をないがしろにしてしまうのは前世から変わらない。現代の教育を受けているからバランスのいい食事が大切なのは重々承知だが、今世においても食事よりも酒を優先するこの性格は変わらなかった。そしてその周子舒のお世話を嬉々として買って出る温客行も前世と変わらなかった。
「とにかくたくさん食べて。また軽くなってた。」
「反論の余地もないが……忙しかったんだ……」
「わかってる。けど、僕の大事な阿絮をもう少し大切にして?」
「……ぜんしょする……」
最後の一口を頬張りながらもごもごと返事をする。
「ありがとう。美味かった。」
「もういいの?」
「ん……ごちそうさま。」
「眠くならないうちにお風呂入って。どうせ毎日シャワーだけだったんでしょう。お湯溜めてあるから。」
「ぅん……あぁ……お前は?」
「ここ片付けたら追っかけて入るから先に入ってあったまってて。」
「一緒に、片付ける。一緒に入りたい。」
周子舒の一言が温客行の胸をぎゅうっと締め付けるが鉄の理性で誘惑を抑え込んだ。
「あしゅぅ~かわいいこと言わないで。嬉しいけど、お仕事がんばってきた人は片付けなんて僕に任せて。甘えんぼ阿絮啊……脱がせてあげよっか?」
せっかく久しぶりに会えたのだから少しでも一緒にいたいと素直に思ったのだが、温客行の微笑と赤子をあやすような甘い声に周子舒の心拍が上がる。
「んっ……ぃや、わかった、先に入る……。」
赤くなった顔を見られたくなくて、くるりと背を向けパウダールームへ向かうとがばりと服を脱いでバスルームに入った。
周子舒の背中を見送ってから温客行は額に手を当て項垂れた。天然なんだかワザとなんだか……。どちらだって愛しい人に変わりはないのだが。パチパチと両頬を叩いて気合を入れ、夕食の片付けに取り掛かった。
片付けといっても食器をサッと水にくぐらせて食洗機にセットするだけだ。夕食に添えた赤ワインのグラスだけを手洗いして濡れた手を拭うと、シャツのボタンを外しながらパウダールームへ向かった。
② へ続きます。