【グレ場地×反社千冬】君の知らない物語 ③ -I've seen you from many ang 朝起きたら場地の姿がなかった。目が腫れぼったい。もしかして、俺、泣いてた?そんな姿を見せてしまったのかと思って情けなくなった。
リビングのローテーブルのところを見ると、メモがあって、乱雑な字で「鍵持ってく」とだけ書かれていた。
ここのところ、物騒なことばかり起きているので、学生の彼に関わって欲しくはなかったけれど、俺も心のどこかでまた会いたいと思っていた。
すると数日後、家に帰ると鍵が開いていた。中に入ると場地がいた。
「おかえりー千冬。」
ソファーに座ってテレビを見ている。
「おかえり、っていきなり来て何スか。」
俺はため息をつく。
「てか、また怪我してるっスね!」
怪我したらここに来るっていうルーティーンになっているのか?と千冬は思った。後で聞いてみたらまさにそうで、「母ちゃんが泣く」と言う。外泊も十分、「泣く」範囲だと思うのだが、喧嘩したことの方がよっぽども隠したいことらしい。だったら、喧嘩をそもそもするなよ、と大人の俺は言いたくなるが、この年頃だったら喧嘩上等だろう。
仕方なく、救急箱を取り出して手当てをする。
「お前、包帯巻くのとかうまいよな。」
ふっと場地が笑う。
「まぁ、誰かさんよりも年季が入ってますからね、っと、終了!」
ペシっと手当してところを叩いた。
「てか、ずっとテレビの画面見てるっスけど、何にそんなに夢中なんスか?」
「んー、ライオンの赤ちゃん特集」
テレビでは動物園で生まれた赤ちゃんの様子を特集しているようだった。
「動物好きなんスか?」
「あぁ、ペットショップとかで働いてみてぇなぁ。バカでもなれんのかな?」
その言葉に胸がぎゅっと締め付けられる気がした。
「中坊ならとりあえず、学校行ったらどうっスか?」
「そーだな。」
彼が笑って、ペットショップで働ける未来が来ますように、と俺は思った。
それから場地は頻繁に俺のマンションを訪ねて来るようになった。
俺は自分の母親が家にいないであろう日を狙って、団地から引っ越した後の実家へと足を運んだ。
母親とは良好な関係とは言えないが、悪い関係でもない。苦言を呈することはあっても俺の決意を受け入れてくれている、と俺は思っている。年に数回だけだが、顔を合わすこともあった。
今日は母に会うことが目的ではない。うちの老猫「ペケJ」を迎えに来たのだ。武道のマンションから帰ることが少なかったので、母親に世話を任せていた。それに、自分がいつ死んでしまってもおかしくないという諦めのようなものもあったからだ。
でも、場地に会わせてやりたくなった。
「ペケー」
「ニャー」
部屋でくつろいでいたペケを久しぶりに抱く。
「場地さん、お前も会いたいだろ〜?」
そう話しかけて、ペケのお引越しの準備を軽く済ませると、母親にメモを残して足早に家を出た。
そのまま自分のマンションに行くと、予想どおり場地がいた。
「ただいまっス」
「にゃー」
玄関につきキャリーバッグを開けるとペケが飛び出し、場地に抱きついた。
「おわっ、猫?」
慣れた手つきで撫でながら場地が言った。
「我が家の老猫、ペケJっス。実家から連れてきたっス。」
「へー。」
場地は満面の笑みを浮かべた。
「俺、家を空けることも多かったんで、実家にずっと預けてたんスけど。君がこんなに頻繁に来るならお願いしようかな、と思って。」
俺も場地に抱かれてるペケを撫でた。
「マジで!?いいぜ。家のそばのノラたちに餌やったりしてるから、慣れてるから任せとけよ。」
穏やかな表情だった。やっぱり、場地は動物好きの優しいヤツだった。
「じゃあ、まずはペケの猫砂とかのセッティング手伝ってくれる?一通り買ってきたり、持ってきたけど。」
「おう!」
何もなかった部屋から一転して、ペケのもので賑やかな部屋へと変わっていった。
続く