(タイトル未定、途中まで書いたアルドラちゃんとリンウッド家の話) 焼いて固めたひき肉の塊に、ナイフが押し込まれて、ほとんど抵抗なく二つに分かれる。
勢い余ったナイフが皿と、かちゃんという軽やかな音を立てた後、ソースが跳ねた。
トマトソースの赤茶けた色をした、まん丸い模様が木製のテーブルに描き出される。
染み付いてはいけないと、すかさずナプキンが差し出されて、これは母親という生き物の習性のようなものだろうかとアルドラは思案する。当の娘(実の娘)はアルドラの真向いに座っていて、ただ黙々とハンバーグを食べ進めていた。つんと澄まして背伸びしたような表情は、塔士団の誰もが見慣れたものだ。しかし、少女らしくすべすべとした頬が膨らみ、それからもごもごと動いて、口角をあげて満足気に飲み込む様子を見たことがある者はそうはいないだろう。どうやら美味しかったらしい。そんな娘の様子を目にして、アルドラから見て右の、そしてジョーから見れば左手の席で手を組んだをしたリズが、にこにこと笑っている。彼女を『ドSの鬼軍曹』などと呼ぶのはジョーくらいなもので、それはそれで仕方ない面もあるのだが、しかし、ここで穏やかに微笑む女性は、確かに母親の顔をしていた。
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