自由と運命、2つの守り手の激突。ファウンデーションとの戦いが終えて少しだけ月日が経ったとき。
ミレニアムのブリッジにキラが顔を出した。
シンはキラの顔を見た途端、ぱあぁとした表情を見せて、キラの言葉を待つ。
キラは彼とは正反対に、気まずそうに口を開いた。
「シン、君に頼みたい事があるんだ。」
「君は僕が居なくてもこの世界を守れる、そんな人だって信じてる。ただ…」
「ただ?」シンは不思議そうに聞き返す。
「シンが本当に世界を守ることができる実力があるか、試したいんだ。」口にしてみると、本当に傲慢だな。とキラは自嘲を少しした。
「いいですよ!見せつけてやりますから!」シンはただただ明るく笑い、そう言葉を返した。意図して、ほんの少し生意気に。
そんな口約束をした翌日、ミレニアムの格納庫に二人は来た。
「あのとき以来だね。僕と君で決着の付く戦いをするの。」
「そうですね!」
二人はあのときの"悪夢"を、ただの戦いの記憶として思い出している。あの戦いの後、お互いに敵のパイロットはどんな人だろうと考えを回したものだ。
今こうして同じ目的の為に、視線を向けあえてる事自体が奇跡かもしれない。
デスティニーとフリーダムの使用許可は降りてるんですか?とシンは聞く。キラは大丈夫だよ。と答えた。
会釈をすると、二人の戦士は着替えをする。不思議と、パイロットスーツは普段よりも軽く感じた。
それじゃ、次顔を合わせるのは決着が付いてからだね。キラがにこやかにそう伝えると、シンはわかりました、手加減は出来ませんからね。とニヤりとしながら返した。
ミレニアムのカタパルトに、彼等の象徴の剣の重みがずしりとのっかる。自由と運命、それぞれの力を試し合うため。
「カタパルト推力正常。 進路クリア――――“デスティニー”"フリーダム"共に発進、どうぞ!」メイリンのハキハキとした案内が二人のコクピットに響く。
「シン・アスカ、デスティニー。行きますっ!!!」
「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」
メイリン、いいのか?コンパスのみんながいない日に、こんなことして。アスランの不満げな声が、メイリンの耳に入る。いいんですよ。とだけメイリンは返した。
「行くよ、シン。」
「はい!」
そう通信で言葉を交わした直後、両機の翼と関節が、互いの色にきらめき出した。
直後、フリーダムのドラグーンが展開する。青い物体が光線を紡ぐと、デスティニーを射抜こうとした。
その直後、ぶわっとデスティニーだったものが広がる。
数多の分身が攻撃の姿勢を取ると、キラのフリーダムに襲いかかった。
キラは少し圧倒されたが、すぐに心を立て直す。
2つのビームサーベルを両手に持つと、アロンダイトを構え突撃するデスティニーへ斬り掛かった。
振り向きざまの回転斬りが、確かにデスティニーを刻んだはずだ。しかし、ミラージュコロイドの残像を剣でかき消した事になる。もちろん、フリーダムに隙が出来た。
「らしくないですよ。キラさん。」シンが少し意地悪に笑う。残像の裏に隠れていたデスティニーが大型の砲を突きつけていた。
「やっぱりね。」キラは目を光らせて、デブリの裏に移動させたドラグーンを放つ。
直後、緑色のビームがデスティニーの右脚を貫いた。
シンは驚きもせず、砲を持たない空いた手でアロンダイトを振り下ろした。
フリーダムの右の翼と肩の先がえぐり取られる。
二人の脳内でSEEDが弾けて、更に深い思考がぶつかり合う。
デスティニーは速さで一方的に間合いを取ると、複数に分身してブーメランを投げる。
飛んできたブーメランを、フリーダムはドラグーンを駆使して全て撃ち落とした。キラが撃ち落とした直後、シンの機体はふっと彼の視界から消える。
投げつけられたアロンダイトが、フリーダムの真下から飛び込んできた。
それをドラグーンのバリアで防ぐと、キラは後方を確認する。シンならこうする。という信頼を込めて。
圧倒的な思考速度と機体の長所を活かした戦い方。つくづく今は仲間で良かったと微笑むと、後方から急接近するデスティニーに腹部のビーム砲を放とうとする。
予め、カリドゥスのチャージ時間とデスティニーの機動力を含めて計算はしていた。発射時の互いの位置は予測しきった、頭部を潰す。
その直後、カリドゥスビーム砲は過充電により発射が出来ないとエラーを起こした。
「何っ!?」
デスティニーのデュートリオンビームが、カリドゥスビーム砲の発射口に送電されていた。慌てて、キラは腰部のレールガンを発射する。シンはそれを読み切ったか、腕部のシールドを展開してそれを防ぎきった。
遠距離では残像を使い撹乱し続け、的を絞らせない。そしてブーメランと長距離ビーム砲による攻撃を仕掛ける。近距離でドラグーンのビームを放てば、フリーダムに自爆のリスクがある。その密着状態を維持して、パルマフィオキーナとアロンダイトの近接戦闘で相手の手札を使わせ続ける。遠距離と近距離を自在に移動できるデスティニーの長所を活かし、どんな状況でも常に自分の手札を押し付ける。前々から、キラさんを倒すために練ってきた戦術だ。
デスティニーはパルマフィオキーナを展開して、フリーダムの頭部を鷲掴みにしようとする。
直後、渾身の蹴りがデスティニーの手のひらにぶちあたり、パルマフィオキーナは暴発する。エネルギーがあらぬ方向に飛び散り、デスティニーの左手とフリーダムの右脚は弾け飛んだ。
シンは咄嗟に右腕のパルマフィオキーナを低出力で放ち、目くらましをする。
宇宙空間に漂うアロンダイトに手を伸ばすが、その隙を見逃される訳がない。
フリーダムがデスティニーの翼を、ビームサーベルで切り裂く。
片翼のデスティニーがアロンダイトに手が届くと、片方の翼だけから光を放ち、自ら離した距離を恐ろしい速度で回転しながら詰める。回転しながらの切り抜け、キラのフリーダムの得意技である。
「よっぽど研究してたみたいだね。」キラはほんの少し嬉しそうに笑う。シンはにひひ、と笑みを返した。
フリーダムはビームサーベルで回転斬りを受け止めようとするが、振り上げた光の刃は、残像に空振った。
ここでか、とキラはシンの成長に喜ぶものの、まだ残った自分の余力を確認していた。
「もらったぁ!」シンの声と共に、大剣がフリーダムへすっと入り込む。
だが、フリーダムはビームシールドを手に纏い、アロンダイトを手で受け止めていた。
「まだ、負けるわけにはいかない!」僕は劣勢からの足掻きには自信がある。
フリーダムはそのままアロンダイトを握りつぶすと、レールガンをデスティニーの腹部へ放った。
撃たれたデスティニーはよろめくが、止まらずパルマフィオキーナを展開する。
はああああっ!というシンの叫び声がすると、的はずれな方向へ掌からビームが放たれた。直後、握りつぶされたアロンダイトにビームが放たれる。アロンダイトが破片となり、フリーダムを襲う。
キラはパルマフィオキーナに対して回避行動を取れたものの、弾け飛んだ破片までは回避しきれなかった。
よろめくフリーダムにデスティニーは距離を詰める。
パルマフィオキーナを頭部に放とうとしたその時、キラは残った出力でディスラプターを放つ。直後爆発が起きて、デスティニーの残った右腕と、フリーダムの頭部と胴体の上部が弾け飛んだ。
グレー色になったフリーダムはカリドゥスのチャージを、両腕を失ったデスティニーは長距離ビーム砲を展開する。
お互いがビームを放とうとした直後、どこからともなくやってきたズゴックがくるくると暴れながら二人を牽制する。
「流石にもう終わりだ!キラ!シン!」アスランの怒号が二人のコクピットに響く。
「やめてくださいよアスラン。今いいとこなんですから!」シンは悪態を付く。
「成長をキラに見せたいなら目的は済んだだろう!!いつまでも子供でいるつもりか!?お前は!」
シンはカチンと来たのか、長距離ビーム砲をズゴックへ放つ。
ズゴックはそれを手慣れた動きで避けると、デスティニーの長距離ビーム砲をクローで握りつぶした。
またたく間にデスティニーの武装解除をしたズゴックは、ゆらりとフリーダムへ体を向けた。
「キラ。」やけに優しげな声で、アスランは語りかける。
「お前、今日のことラクスに話してないだろう?」
「アッ…!」絶句したキラの掠れた吐息が漏れる。
「ラクスから伝言だ。料理をたくさん作って待ってるから、シンさんと一緒に来てくださいね。だそうだ。」
「あ"あ"あ"ああああぁっっ!!!」
ラクスの揚げ物による胃もたれ地獄が確定したことによる、キラの慟哭が宇宙空間にこだましていた。