ホッカイロ 深夜も深夜、人通りの少ない道でのみ、雨彦さんは手を繋ごうとしてくる。
それは別に良いのだけど、冬だと「ホラ」と言ってポケットの中に誘導されるものだから、僕のひじは変な位置で固定されてしまう。これなら腕を組んだ方が恋人っぽいのではないかと思うが、僕らは指先の交わりだけで充分だった。
「ん? 今日はあたたかいな」
ポケットの中で、僕の指先を遊びながら雨彦さんが言う。僕はにんまりと笑い、左手に持っているそれを掲げてみせた。
「ホッカイロですー」
「なるほどな」
右手に雨彦さん、左手にホッカイロ。冬だけど、無敵だ。
さっと、目の前を白いなにかが通り過ぎた。猫だ。この辺にはノラが数匹いる。黒いのと、白いのと、茶のまだら。白いのはとびきり人懐こいから、僕も数度おなかを撫でさせてもらったことがある。今日はご機嫌ななめなのか、家の隙間に入り込んで、こちらをキッと睨んできた。
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