白き志のもとに-3「随分、気骨のあるやつが増えたじゃねえか」
張飛は蛇矛を振り回しながら愉快そうに笑った。
蛮勇とも取れる、向こう見ずな男達のことは好きだ。
腰が引けてちゃ、討ち取れるモノも討ち取れない。
それに、隙をつかれ逆に致命傷を負わされる可能性が高くなる。
人影で怯え逃げ回り無傷で戻るくらいなら、恐怖心を乗りこなし、敵に突っ込んでいき、傷を増やすほうが、ずっと良い。
生きて戻って来さえすればいいのだ。
ここのところ、そういう男達が魁を務めるようになってきた。
「練度ってヤツか?」
「どうであろうな。拙者には『信念』が加わったように見える」
偃月刀が一閃する。
敵対する兵は以前の黄巾のような玉石混淆ではなく、董卓が率いる北方の精兵や、中央の鍛え上げられた雑兵である。
義勇軍も黄巾討伐を経て役職を得、また直ぐに流れたものの、寄せ集めではなく軍としての形がそれなりに整ってきてはいる。だが、転戦を繰り返しており、入れ替わりが激しいのも事実だ。
その中で常に戦状態の古参は、並の軍にいるよりは否応にも練度が上がる。
ただ、そういう動きではない。
「信念?……ははァ、兄者か」
「うむ。一処に留まらぬ我らに、黙して付いてくる者らだ。兄者の器に惹かれ、それを支えることを信念とした者が、意思を持って前に出ている、と言うことだろう」
見れば、兵たちは前を行く劉備の周囲を、護衛するように攻撃を防いでいる。
全くの向こう見ずというわけでもなく、同じように護衛する兵の援護にも都度回っており、動きも悪くない。
無名が離脱し張り合いがなくなったと思っていたが、なかなかどうして、面白い事が起きている。
「うん?ありゃ何だ」
「どうした翼徳」
「ほらよ、彼奴等の腰あたり。筆か?」
「あれは飾房だろう。……ふむ」
ちらちらと、白く光るもの。
それが、一様に腰の帯に括り付けられている。
「兄者が時折編んでいたな。成程、それでか」
関羽は得心がいったように、ふ、と微笑した。
己が兄と仰ぐ男は、人の真に望むものを、何気なしに、自然と与えてしまう。そういう人間なのだ。劉備玄徳という男は。
あの兵たちは、武功をあげようと奮戦しているのではない。ただ、自身の願いのため。己に与えられた希望の為に、剣を振るっている。
それは、関羽や張飛の想いと同じものだ。そして、彼らの主将である劉備も。
董卓討伐の連合軍として参加しているが、未だ流浪の集団である劉備軍団でも、確かに形作られていっているものがある。
この先に、どのような姿形となっていくか。
――義兄に付いていけば、きっと間違いはないのだろう。
関羽はぐ、と大地を踏みしめると、飛ぶように戦場を駆ける。
連れて行かねばならない。
劉玄徳の名を、天の下に広く轟かせるために。
光はここにあるのだと、民に知らせるために。
その白い房を身に着けた兵たちは、後に陶謙の精鋭兵たちと合流し親衛隊として形作られ、長坂坡では劉備を護衛し戦線からの離脱を支えたという。
蜀漢において、劉備より下された白毦(白い鳥の羽や動物の毛で作られた装飾品)を徴とした兵装を身に着けた精鋭――白毦兵と呼ばれる事となる。
彼らの記録は僅かなるものだが、そこには、どのような境遇にあっても劉備の志を支えんとする確かな絆があったのだと、うかがい知ることができる。