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    NayutaKoryu

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    NayutaKoryu

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    導入的な……
    なかなかにアレなネタです

    紫劉遠くで空が燃えていた。
    主の顔が思い浮かぶが、信頼できる右腕の存在を思い出し、頭を振って自陣から目を離した。
    やらなければならないことがある。
    今この瞬間だからこそ、標的は油断しているはずだった。
    混乱で入り乱れる船上を横目に、匂いを頼りに崖を駆ける。
    律儀なものだ、と紫鸞は思わず鼻で笑う。
    離れても共にあった証だと、渡した香包をまさかこの戦地にまで持ってくるとは。
    居場所を知らせているようなものだと、あの者なら気付きそうなものだが。
    思い切りが良い男だが、妙に未練がましいところがある。紫鸞が戻ってくることを何処かで信じているのかもしれない。
    憐れみのような感情を覚えながら木立を抜けると、ついに目的の背中が見えた。

    護衛はいる。だが、対処できない数ではない。
    時刻も想定どおり。間もなく西の伏兵が動き出すはずで、そのとき陣の奥にいる標的は孤立する。

    ――今だ。

    紫鸞は音もなく剣を構えると、一気に飛び出した。

    「!」

    護衛が気付き、剣を構えるが、遅い。
    一閃のもとに斬り伏せられ、声もなく崩れ落ちる。

    「なっ……!」

    標的――劉備が漸くこちらを見る頃にはすでに遅く、一気に間合いを詰め引き倒す。
    決して気を抜いていたわけではないだろうが、いとも簡単に押し倒され、反撃のための剣も取り落としている。
    紫鸞は無表情のまま、腰から深紅の紐を引き抜いてその両腕を縛り上げた。

    「くっ……!なぜ、ここに」
    「何故?誘うようなことをしているくせに、よく言えるものだ」

    劉備の腰布を弄り、手に触れた小さな袋を引き抜いて顔の辺りへ転がしてやると、小さく息を呑む音が聞こえた。

    「不用心だ。俺と敵対することは覚悟の上ではなかったのか?」
    「っ……!」

    紫鸞は淡々と言い放ち、劉備を見下ろした。
    後悔か怒りか、肩が震えている。

    「〜〜ッ!雲長!翼徳!!」
    「呼んでもこない。気付いているだろう。そちらの策は読まれている。ここにはしばらく救援はない」

    大声で義兄弟の名を叫んだ男は顔を歪ませてこちらを睨む。
    この期に及んで、その目には碌な殺意も滲ませていない。どこまでも甘い男だ。
    紫鸞は呆れたように小さく溜息をつく。

    「何故……!何故だ!船は燃えている、曹操軍も撤退に転じている!こちらの策は成っている!!それなのに、どうしてお前がここにいる!!」

    劉備は抵抗するように腕を揺するが、紐がぎちりと軋むだけで、紫鸞が強く引いてやれば悔しげに呻くことしかできない。

    「俺の任務は戦の勝敗に関係がないからだ」

    腹這いになったその背中と脹脛を膝で押さえ付ける。自身の身に迫る危険を察知したらしい劉備は、何とか起き上がろうとするものの、自由を奪われていてはどうにもならない。
    それでももがく相手に、「大人しくしていてくれ」と告げ、紫鸞は紐を握る手とは逆の手に握りしめた剣を、腱に向かって勢い良く振り下ろした。

    「ぐぁっ……!!」

    びくりと体が跳ねようとするが、上から押さえつけているためそれすら許さない。
    劉備は痛みを逃すためか唸るばかりで暴れることはしない。その様子を冷めた目で見下ろしながら、紫鸞はもう片方の足へと狙いを変える。そして同じように剣を振り下ろす。

    「っ〜〜〜!!!!!!」
    「……これでお前は走れない。歩けもしないだろうが」

    呻き声も途切れ、荒い呼吸だけが残る。全身の震えが膝越しに伝わる。
    陸に上げられた魚のようだ、と紫鸞は思った。
    かつて諸葛亮を得たとき、「水を得た魚のようだ」と称したと聞く。今はその真逆だ。哀れなものだ。

    「はぁ……っ!……ぅ…!」
    「劉備」

    名を呼べば、涙の膜が張った瞳が向けられる。

    「無名……ッ!お前、何を……っ」

    殺されると思っていたのか。困惑が声に滲む。

    「聞き分けが悪いからだ。劉備は直ぐ逃げるからな」

    紫鸞は剣を引き抜くと、紐をたぐり寄せて背を起こさせる。
    抵抗しようとしても痛むのか力が入らず、劉備はほぼされるがまま膝立ちの姿勢になった。

    「ぐっ……ぁ…!」

    劉備の額から汗が流れ落ちる。血の気が失せて顔色が青ざめている。

    「少し眠っていろ。目が覚める頃には全て終わっている」

    紫鸞はそう言って劉備の首元に手刀を叩き込んだ。

    「ぅ……」

    意識を刈り取られた劉備はくたりと体重を預けてくる。それを肩に担ぎ上げ、戦場を後にした。


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