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    かたくりこ

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    かたくりこ

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    星に願いを2025【最高の二人組】無配SS

    イベントお疲れさまでした!
    また、当スペースにお越しいただき、誠にありがとうございました。
    こちらのお話は、デップルでばっちり双黒やってる太と中が好きすぎるテンションで書いたものです。
    季節もイベントテーマも全く関係ありませんが、お菓子のおまけ感覚で読んでいただけると嬉しいです。

    最高の朝に「…………う」
    風の音がしている。
    中也が眼を開くと、淡い色彩をなびかせた夜明けの空が視界に広がった。
    いつもより広いと感じる。胸のすくような晴れやかな広漠。寝起きのまなこには鮮烈に映る……のではなく、単純に、視界を遮る建造物が無いからだった。
    瓦礫の山。
    汚濁が暴れた結果だった。
    記憶ははっきりしている。中也は横浜上空で龍の化物を圧倒し、太宰に一発呉れてやって、此処に着地した。
    汚濁の後はどうしても体力回復が優先される。霧が晴れていることから、中也が眠っている間に事件は解決を見たようだった。
    あの太宰の采配なのだから当然と云えば当然で、前座扱いが些か面白くないが、こうも的確に性格や行動パターンを読まれていると、むしろ清々しい。今日だけは、そういうことにしておいてやる。
    どのくらい眠っていたか。歩いて移動できる程には回復していない。携帯端末もないし、誰か通り掛かるだろうか。
    中也は身じろぎして、背を預けている瓦礫の感触をたしかめた。こんなものでも、案外悪くない寝心地だったようだ。
    「おや、お目覚めかい?」
    すぐ傍で声がした。聞こえたというよりも、振動が身体に伝わった。
    中也は声の方に視線を遣る。
    見慣れない白いスーツ姿の太宰が、見慣れたいけすかない笑みを浮かべて、中也を見ていた。
    「君が寄り掛かって爆睡しているから、私は一晩身動きが取れず酷い目に遭ったよ」
    肩が寄り添っている。
    中也は眉間を僅かに寄せた。
    「大方、手前がそうしたンだろ。霧が出ている間は異能が分離する可能性があった。……なんで未だ居る?」
    霧はすでに晴れている。元凶の異能は排除され、ならば太宰が此処に留まる必要はない。
    「その前に、君こそ、いつまで私にくっついてるの?」
    「気色悪い云い方すんな……、動けねえンだろうが。あンだけ汚濁に晒されれば、ちょっと寝たくらいじゃ如何にもならねえ」
    大袈裟でなく、全身が極度に消耗している。これはしばし休養が要る。
    「私が死んでいると判っていた筈だ。横浜を救って、君も死ぬ心算だった?」
    「計算ずくだったくせによく云う。手前は悪運だけは強いからな。そいつと手前の予測を掛け合わせれば、死は織り込み済みの要素で、つまり俺が俺のしたいように殴れば、手前は痛がるだろうと思っただけだ」
    「そんな莫迦みたいな理由で追いかけてくるの、君くらいだよ」
    「うるせえ」
    太宰がくすくす笑う。
    中也は舌打ちして、力の入らない自身の腕や脚を眺めた。肩を借りていることは、この際致し方無しと考える。“太宰が排除された事実”は本当だったろうし、瓦礫に囲まれ、ふたりともぼろぼろだ。
    「で?なんで未だ此処に居る?」
    太宰が勝利した盤上には、彼の取っておきの駒が置かれた。本件の真打ちとして据えられたのは芥川と、探偵社の新人。武装探偵社の連中も近くにいる筈で、霧が晴れても合流しないのはおかしい。
    「それより、どう?この衣装。似合っていると思わないかい?中也のこじんまりとした体格じゃァ、こうはいかない」
    「はァ?手前は似合う以前に、胡散臭えンだよ」
    中也は太宰の肩に頭を載せたまま、「あからさまにはぐらかすじゃねえか」と太宰の反応を意外に思った。真逆、中也の身を案じて目覚めるまで待っていた訳ではあるまい。
    明るさを増した空が光って見える。この男を信じていたとは云え、際どいところだった。今回もどうにか生きて戻れそうだ。
    「なんだよ。裏切った手前、探偵社とは顔を合わせづれえか?作戦だったンだろ?」
    中也や探偵社、異能特務課、横浜丸ごとを騙し遂せる、大胆な作戦。
    「……ちがうよ」
    太宰がそっとつぶやいた。それから調子を変え、「私がその程度で痛む良心を持っていると?」と笑う。
    「クソ野郎が」
    「ふふ……」
    どこかで瓦礫が崩れた。静かだ。全部終わった。
    「私は死んだのだよ」
    「手前の書いたシナリオどおりに」
    「君に後を託して」
    「露払いだろ?」
    「龍が斃れないと、恐らく横浜は早々に地図から姿を消していた。同じことだよ」
    中也は太宰の言葉を聞いている。まだ十分に動けなくて、太宰も此処を去ろうとしないから、仕方なくそうしている。一方で、過剰に嫌悪する気持ちは湧いてこない。対立するにもエネルギーが要る。
    肩越しの体温があたたかい。
    「中也。汚濁を使った後は、かならず、君と私の二人きりになるねえ」
    汚濁という重力渦の中心には中也がいて、太宰は中也に地面を取り戻させる唯一の人間。あらゆる物は吹き飛び、二人しか残らない。
    「そりゃ、一時的にはな」
    「いつもはしない話が出来る」
    中也は、傍らに並んで投げ出されている長い脚を見遣る。白いスラックスが薄汚れている。
    太宰は敵も味方も手玉に取るが、何かを得るために、自ら損な役回りを演じているだけなのではないか。だとしたら、救いようがなく不器用な男だ。
    「懺悔でもする心算か?」
    「したら聴くかい?」
    「……いいや、やめとく。探偵社の――手前の仲間にでもしやがれ」
    「吝嗇」
    ひしゃげた骸砦が向こうに見える。トロフィー、或いは墓標だ。
    起こった事の因果関係や経緯は中也には判らない。帰投したら顛末を含め、首領から何か聞けるだろう。とにかく今はクタクタだ。
    少し頭を持ち上げて、太宰の肩を小突く。
    「太宰。次死にかけても、俺は知らねえからな」
    「と云うと?」
    「今回みてえに駆けつけると思うなよ」
    「ふーん、そう。絶対に?」
    「ああ」
    「私には、次も私の筋書きどおりに走ってくる君が見えるけど」
    「ぜってえ行かねえ。勝手に死んでろ」
    「ふふ、たのしみだねえ」
    彼には掌の上で転がされて久しい。中也は負け惜しみのような舌打ちをする。

    風に乗って、海辺の方角から人の声が聞こえてきた。数人分の明るい声だ。
    「おや、皆んな無事に合流したようだね」
    「行けよ、探偵社」
    行って、謝罪でも弁明でもすればいい。
    太宰が立ち上がり、中也の肩は硬いコンクリの残骸に預けられる。組織も動き出す頃合いだ。待っていれば迎えが来る。
    眼の前で白い長外套が翻った。嫌味なくらい似合っている。
    「真面目に、如何して此処に留まってた?いつもさっさと放っていくだろうが」
    「知りたいの?先刻はやめると云ったのに」
    「あ……?それくらい訊いちゃ悪いか?」
    空がまぶしい。中也は眼を細めて太宰を見上げる。
    彼は中也を見返し、幾分ぎこちなく空気を吸い込んでから云った。
    「君が好きだからだよ」
    「…………」
    脳味噌が、言葉を捉え損ねて停止する。
    なんだ?いつかの再現か?
    夜明けのハイテンションジョーク?
    「………………もしかして、笑うところだったか?」
    「全然違う……」
    期待に添えなかったのか、太宰は何やら不満そうな返事をしたが、中也は汚濁の消耗で昏倒し、つい先刻目覚めたばかりだ。意図不明な問答に付き合う余裕はない。
    「……悪いが、手前の謎解き遊びには、」
    「謎解きじゃない。暗号、符牒、何かのキーワードでもない。そのままだ」
    「そのまま……?……ああ、労いか?」
    珍しいこともあるものだ。
    太宰は海辺の方を気にしながら、しぶしぶといった表情で、中也の前に片膝をついた。
    「……なんだよ」
    「判っていないようだから」溜息をつく。
    同時に、耳に掛けてあった髪がこぼれ落ち、眼に馴染み深い蓬髪になる。
    「私は君が目覚めるまで傍に居て、その理由に好きだからだと云った。他にどんな意味があると?」
    「…………」
    言葉がいたずらに上滑りする。理解が追い付かない……もしくは、頭が処理を拒んでいる……。
    「なに、云ってやがんのか……」
    やけに真剣な瞳がにじり寄って、中也を覗き込んだ。
    中也は動けない自らの現状を呪った。死ぬかもしれない覚悟で空へ飛び出した時よりも、今この瞬間の方がよっぽどビビって帰りたいと思う。
    太宰が更に距離を詰めた。
    「つまり、私は君に並々ならない感情を寄せていて、行動で表すならば、手を握りたいし、デェトに出掛けてキスをしたり、あわよくば寝台でめくるめく夜を――」
    「待て待て待て黙れ変態!」
    中也は慌てて声を荒げた。
    「やっと判ったようだね」
    「ンな訳ねえだろ!巫山戯るのも大概にしろ……!」
    思い切り殴る算段ではあったが、打ちどころを拙っただろうか。自分たちに限って、そんな事態は万が一にもありえない。……ありえないのに、ひどく動揺している自分がいる。
    「その割には、顔が赤い」
    「赤くねえ!」
    「そう?」
    太宰はにこりと微笑んで立ち上がった。
    「さて、そろそろ行かないと」
    つぶやいて、風に遊ぶ髪をもう一度耳に撫でつけた。その仕草がリアルに中也との時間を惜しんでいるように見え、中也は苦い顔をする。
    嘘を操るこの男は、重要な交渉ほど絶妙に真実を忍ばせる。それが今なのかは判らない。まんまと太宰を追ってきた中也を揶揄っている可能性だってある。
    だが、瀬戸際で生命を預け合ったあとに仕掛けるのは狡いのではないか。
    中也は太宰を睨みながら「嘘だよ」の一言を待ったが、彼は長外套をはためかせるばかりだった。
    頭上に澄んだ空と、地上に瓦礫の山。
    二人きり。
    まぶしい、勝利の朝。
    太宰がそっと笑って背を向けた。
    「またね、中也」

    中也は呼び止める言葉を呑み込んだ。
    背中を見送り、息を吐く。剥き出しの腕をさすって、ダメージと称するに相応しい身体の重さに眼を閉じる。
    何も考えられない。寄りかかる瓦礫が硬いことだけ判る。
    夜は明け、濃い霧は晴れて、物事のかたちは明瞭に、自分たちの居る場所を浮き彫りにする。それは予想だにしない、青天の霹靂で。
    「…………彼奴、マジかよ」
    中也は小さく舌打ちをして空を仰いだ。
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    また、当スペースにお越しいただき、誠にありがとうございました。
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    季節もイベントテーマも全く関係ありませんが、お菓子のおまけ感覚で読んでいただけると嬉しいです。
    最高の朝に「…………う」
    風の音がしている。
    中也が眼を開くと、淡い色彩をなびかせた夜明けの空が視界に広がった。
    いつもより広いと感じる。胸のすくような晴れやかな広漠。寝起きのまなこには鮮烈に映る……のではなく、単純に、視界を遮る建造物が無いからだった。
    瓦礫の山。
    汚濁が暴れた結果だった。
    記憶ははっきりしている。中也は横浜上空で龍の化物を圧倒し、太宰に一発呉れてやって、此処に着地した。
    汚濁の後はどうしても体力回復が優先される。霧が晴れていることから、中也が眠っている間に事件は解決を見たようだった。
    あの太宰の采配なのだから当然と云えば当然で、前座扱いが些か面白くないが、こうも的確に性格や行動パターンを読まれていると、むしろ清々しい。今日だけは、そういうことにしておいてやる。
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