取るに足らない、小さな出来事だ。自分以外の大勢にとっては。
「うーん。そうかな? 僕は、ちょっと違う風に感じたけど」
首を傾げる郁弥の体が、慣性に揺すられて右に傾く。
大学方面へ向かうため、遙と一緒に乗り込んだ車両の中だ。そこにはたまたま郁弥と日和、旭、貴澄がいて、混雑する時間帯にも関わらず、運良く合流し話すことができた。
六人それぞれ吊り革や手すりに掴まりながら、話題にのぼるのは、昨日最終回を迎えたドラマについて。
「直前のシーンで言い争ってたのが原因でしょう? そうじゃなきゃ、あんな終わり方にはなってないと思う」
「でも、なんかモヤッとするよなー」と、旭の反論。
「そもそも言い争い自体が演技っぽく無かったか? 怒り出した理由も説明されてないし。あれって伏線だろ? 確か第三話の時に……」
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