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    もちうさ

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    POIPOI 43

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    こむらさきさんの素敵なクロスオーバー小説に触発されて書きました。ツクヨ先生がなんかしてる話です。

    素敵なクロスオーバー小説【https://poipiku.com/IllustDetailPcV.jsp?ID=1127154&TD=11609719

    カティーアさん
    https://kakuyomu.jp/works/1177354054884402503

    #クロスオーバー
    crossover

    クロスオーバーのツクヨ先生の1日の話 「んー…こっちの方がいいかな…」

     アトリエの中、加工した色とりどりの鳥の羽根と花びら、生き物の革を私の背よりも大きいカンバスに並べながら、私は首を傾げた。個々の色が多いのは目を引くけれど、まとめないとただ騒々しい。
     今回の作品テーマは「四季」で、今は春に当たる部分を作っている。最終的に春夏秋冬のカンバスを連作として一つの絵としてまとめ上げるので、後々作る絵との調和も考える必要がある。おおまかな全体の完成図は用意しているけれど、お世話する間に予想以上に大きくなってしまった子もいるし、逆に病気やなんかで想定より早く枯れたり亡くなった子もいる。そういった子達に合わせて細やかな微調整を入れないといけない。

     「難しいなぁ」

     そう言いつつも、思わず口から笑みが溢れる。こうしてこの子達の特徴や個性を見ながら、どう作品に落とし込もうかと考えている時が、私は好きだから。
     今回のテーマは私が考えたものではなく、あの子…アカギ君だったかな?が提案したものだ。彼は美術商らしく、私の作品をより広く展開して売り出したいと言っていた。私は自分の作品の売り出しには興味ないけれど、彼が出したテーマが面白く思えた。「へぇ、良いねぇそれ」と私が何気なく言った時、彼の目がおどおどしたものから一変して、太陽のように輝いたのを覚えている。

     「ふふ…」

     あの時の彼の顔を思い出すと、なんだか楽しい気分になる。早く進めよう、そう思いながら私は傍らにある筆と赤い顔料を取った。


    ・・・


     「ふぅ…ひとまずこれでいいかな」

     私は息をついて筆を置いた。作品を作っていると、つい時間を忘れて、決めていた予定を超えてしまいそうになる。そろそろあの子達の餌やりや、飼育小屋や作業場の掃除もしなきゃいけないし、それに私も一度手や体を綺麗にしないといけない。やることがたくさんあるなぁと思いつつ伸びをして立ち上がると、視界の隅に金色の毛玉のようなものが立っているのが見えた。
     いつからそこにいたのか、彼…カタリナ君は、今日も私が作品を作っているのを見ていたらしかった。この子は私のパトロンというものらしく、またサラヤ君と同じく私の作品が好きなようで、こうやってうちに尋ねてくる。獅子の立て髪のような金の髪に、野いちごのように赤い目と、人間としては目立つ見た目をしているけれど、静かにして見られているだけだと、全然気づかない。
     
     「やあ、来てたんだね」

     彼の方に歩み寄り手を伸ばすと、こちらに頭を向けて来たので、そのまま頭を撫でてみる。カサマ君の金の髪はふわふわでとっても気持ちがいいので、ついつい撫でてしまう。そうしていると、今度はお返しのように彼は軽くキスをしてきた。子犬が戯れ付くみたいで面白いなぁなんて思っていたら、

     「昨日から作業を続けていただろう?一緒に食事をしよう」

    そう言われて、途端それに返事するかのように私のお腹が大きくグウゥと鳴いた。


     カブラ君が料理すると言うので、その間私は水浴びをしに行った。今の時期の水は少し冷たいけれど、かといって湯を張るほどの時間もない。濡れた髪が服につかないように頭の上の方でで団子にまとめてから、飼育小屋のみんなの状態を確認してから餌をやり部屋に戻ると、まだ料理はできていないらしかった。調理場から良い香りが漂ってくるからか、またお腹がグルグル鳴き始める。虎がお腹にいるみたいだなぁなんて思いつつ柘榴酒を飲んで待っていると、しばらくして料理を持った彼がやってきたので、二人で向かい合わせに並んで昼食をとる。
     肉と野菜を炒めたらしいその料理は、少しピリッとした辛めの味付けがしてあってとても美味しい。あんまり味は気にしない方だけど、カラメル君たちの料理はどれも美味しいと思う。

     「これ美味しいねえ」

     私が箸を進めつつそう言うと、彼はなんだか嬉しそうに笑っていた。


     昼食を食べ終え作業に戻ろうとすると、

     「片付けをしたら、お前の作業を手伝えるが……」

    とカタール君が言ってきた。少し考えた後、先ほど使っていた筆と作業場の洗浄を任せることにした。彼は私の手伝い、特に作品周りのことを良くしたがる。彼は『手品』が使えるので、大抵のことは私より早く終わらせられる。私はやることがたくさんあるので、そういうところがありがたいなぁと思う。
     片付けやなんかを任せている間、私はまた作業に戻った。骨を並べ、なめした革や花を貼り、結晶化した眼球を嵌め込んで、繊維を織り込んだ布を敷き、みんなの骨や内臓や血を加工して作った顔料を混ぜたりしながら筆にとって、それぞれ薄くカンバスに塗り重ねていく。テーマは『四季』だけど、この子達らしいものにしなくちゃいけない。生きていたこの子達を、私はずっと、愛したい。
     そうしてまた時間が幾つか過ぎた頃。私はふと手を止めて、フゥと息をついた。集中しすぎると呼吸も忘れてしまう。少し深呼吸してから柘榴酒を飲もうとした時、カティラ君がまたこちらを見ていた。彼は私が作業をする間は、いつも黙ってじぃっと様子を見ている。その時の顔が面白くて、クフクフと私の喉から声が漏れた。
     私は近づいて、彼の左手に嵌められた黒い手袋をスルリと抜き取った。そこには人の手ではなく、髪と同じ金の毛に覆われた獣の手がある。それに指を絡めて握ったり、黒曜石のようなツヤツヤした爪や柔らかい肉球を指でなぞってみてから、それを顔に押し当ててみる。ふわふわで艶のある毛並みと、体温の温かさがこちらにも伝わる。体の内までじんわりとそれが沁み込むような、そんな不思議な心地がする。そうしてしばらく彼の手を堪能した後に、私はまた作業に戻った。




      「帰る。明日も暇だから来ると思う」




      そんな声が聞こえた気がした。


      また筆を止めて、ふと顔を上げて見たけれど。
     作品と私以外、もう誰もいなかった。


     ・・・

    日が傾いて、空がほとんど紺色の星空に染まる頃、私は飼育小屋に向かった。餌やりと、掃除をするためだったのだけれど、すでに小屋は綺麗に片付けられていた。お願いをした覚えはないのだけれど、あの子がやったのかな、となんとなく思った。
     みんなにご飯をあげて、そのうちの一匹をそっと抱き上げてみる。メェメェと鳴いているこの子はザムーアと名付けた。ザムーアはまた生まれたばかりで小さいけれど、秋の作品になる頃にはもう少し大きくなっていると思う。
     それまでにたくさんお世話しなきゃなぁ、なんて思いながらもふもふ撫でていると、食事を邪魔されたからか、ザムーアはメェー!と一声大きく鳴いて、私の腕から逃げていくので、私は思わず笑ってしまった。彼は食いしん坊なのだ。
     飼育小屋を出て、ふと空を見た。まんまるな金色の円が、こちらを見下ろしていた。

     「…今日は満月かぁ」

     そう呟いてから、保管庫の方に向かう。ここは私の大切な作品たちがいる。鍵を開けて中に入ると、数え切れないくらいのカンバスがある。本当はこの子達を家の壁に全部飾って毎日見ていたいのだけれど、管理や家の面積から今はできないので、ここにしまっている。
     いくつも並べられたカンバス棚から、一つの作品を取り出した。そこには赤いリボンをつけた黒い猫がいる。この子の名前はティル。今から10年前に私が作った子だ。
     ティルを連れて私は保管庫を出る。そして部屋のよく見えるところに飾り、そっと体の方の毛を撫でてみた。
     さふさふした黒い毛並みに、まんまるな金色の目。それを見て私は嬉しくなった。
     猫はどんなに長生きしても20年しか生きない。そのままにしていたら、きっと「ティル」はやがて風化して、なくなってしまう。でも、こうして「作品」にすれば、もっと長く一緒にいられる。
     ティルの顔を撫でてみる。生きていた頃とは違ってあったかくないし、鳴き声だって返ってこないけれど…それでもあの時と変わらない。
     1000年先でも、きっと私はこの子達の命を忘れない。


     「ずっと一緒にいようね、ティル」


     
     ニャー、と、あの子の声が、聞こえた気がした。
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