灯火(サイバー三人組)灯火(サイバー三人組)
私達の名前は、サイバーモンスターブルーバード。
この名前も、この機械だらけの身体も、私達のマスターが与えてくれた唯一の物。
マスターは私達にたった一つの命令を下した。
【国に仇なす敵を殺せ】
その命令を忠実にこなし、私達はただただ戦いに明け暮れた。
終わらない戦、息絶えて行く人間達。
それでも機械の身体は命令に従い、壊れるまで動き続けている。
『戦の無い世界とは、素晴らしい世界なのだろうな』
『あぁ、だが私達はその世界を知らない』
『この世界から、戦は消えますか?』
答えの出ない質問に、私達三人は揃って空を見上げる。
晴れやかな青空など、もう久しく見ていない。
空には常に黒い煙が立ち込め、そこから火の手が上がってそこかしこで燃えている。
『行こう、私達はただ任務を遂行するだけで良い』
一号が呟いた言葉に三号と四号は頷き、戦場を行く。
武器を構えて向かって来る人間達を殺し、私達はただただ動く。
心に芽生えた感情に、蓋をして。
『一号、人間の子供が居る』
『生き残りか?』
見れば確かに、幼い子供が傍らに倒れている母親の名前を幾度も呼び、泣き叫んでいる。
そんなことをした所で、その人間はもう······。
『子供、その人間は死んでいる』
「おがぁざんじんでない!!!!おがぁざぁぁぁん!!!!」
死を受け入れられずに泣く幼子。
そんな幼子を守り、庇うように瓦礫の下敷きとなった母親。
あぁ、どうして······この人間達は、本当に私達の【敵】なのですか?
そこで初めて、私達はずっと気付かないように蓋をしていた感情が溢れ出す。
この人間を、殺したくは無いと。
今まで散々殺して来たこの手が、何かを一つでも守れたなら。
『······子供、此処から逃げろ』
『退路は私達が作る』
『最後まで貴方を守った、貴方の親に私達は敬意を表します』
「おがぁざん!!!!おがぁざぁぁぁん!!!!」
私達は頷き、泣き叫ぶ子供を無理矢理立たせ、せめてこの子供だけでも救おうと駆け出したその、瞬間······。
パンッ!!!!
『『『!!』』』
鳴り響く銃声。
崩れ落ちた人間の、子供······。
「完成体1号、3号、4号。命令違反による反逆の意思を確認、排除する」
武器を持った兵士達が、先程まで息をしていた子供の身体を踏み付け、私達に銃を向ける。
『人間の子供、応答せよ』
『······生体反応は無い。四号······その子供はもう······』
『っ······ぁ······あぁぁぁぁ!!!!』
その瞬間、三号から溢れ出す殺気。
子供の亡骸を抱えた四号が声にならない叫びを上げ、その目に赤い狂気を孕ませた。
銃を突き付けた兵士の一人を地面に叩き付け、瞳を赤く怒りに染め上げて叫ぶ。
『この子供が私達の国に何をした!!母を求めて泣き叫ぶこの子供が!!!!』
「っ!!恥を知れ廃棄品!!!ソレは子供と言えど我々の敵だ!!!!」
『ならば敵とは何だ!!私達はっ!!!!何故争う!!!!』
「我々の勝利は全て王の為、国の為にある!!!!国を大きくさせるには侵略するのが当然だろう!!!!敵国の子供がなんだ!!死んだのならば敵を一人屠ったことを誇りに思え!!!!」
『っ!!!!』
兵士の男が放った言葉に、四号は目を見開き、顔を伏せた。
『もう良い』
一号が、静かに呟いて兵士の首を飛ばし、冷めた瞳で三号により地面に叩き付けられた兵士達を見下ろした。
『お前達の戯言など、聞く必要は無い』
一号が私達に信号を送る。
その瞳に静かな怒りと、殺意を込めて。
一号はたった一言、私達に告げた。
『殺せ』
キィィィン、と私達の思考が攻撃モードに変わる。
『一号の指令を認承、攻撃モードにチェンジします』
『敵は目に見える範囲全てだ。全てを、殲滅する』
目の前が真っ赤に染まり、次から次へと兵士達の横を駆け抜けてはその首を己の爪で飛ばして行く。
三号もまた兵士達の首を片手で持ち上げ、そのまま首を折って行く。
次から次へと兵士達の数が減る中、一号は子供の亡骸を静かに横たえ、その瞼を閉じた。
『お前を守れず、すまなかった』
ポツリと一号が呟き、背後から剣を持って迫る兵士の顔面を掴む。
「がっ!!?」
『······』
ジタバタと暴れる男は一号の表情を見てガタガタと身体を震わせ、己の死期を悟る。
それ程までに一号の瞳は冷たく、見開かれた瞳からは確かな殺意が見て取れた。
一号の唇が静かに言葉を紡ぐ。
『【敵を排除せよ】それは、貴様等が定めた“ 命令 ”だ。ならば俺達は貴様等の命令を、遂行する』
バキッ!!!!と鈍い音と共に先程まで暴れていた男がピタリと動きを止めた。
どさり、と頭の無くなった兵士の身体を地面に落とし、血で赤く染まった一号達は言葉を発すること無く、横たえた子供の傍に寄る。
『私達は、知らなければならない』
『本当の敵は、誰か』
『私達が殺すべき本当の敵は、何かを』
一号が優しく子供の身体を横に抱く。
三号は、この子供の母親を。
四号は、母親の傍らに倒れていた、父親を。
せめてこんな血に汚れた場所では無く、光が当たる暖かな場所へ。
『花が咲き乱れる場所が良い』
『子供が安心して眠れるように』
『家族と共に眠れるように』
墓を建てよう。
最期まで子を守った偉大な人間達に敬意を表して。
親を求めて泣き叫ぶ子供が、親と共に居られるように。
ぽたり、ぽたり······私達の頬に滴が落ちる。
この感情が“ 悲しみ ”なのだと知った時、私達はただただ静かに崩れ落ち、声を上げるのだったーー······。