Look at me!赤と白のタキシードに身を包み、鏡の前に立ってみる。…やっぱり、こっちの方がいいかな。元々宛がわれていた白のネクタイを外し、候補の一つとして用意されていた蝶ネクタイに手を伸ばした。
「…うん、これにしよう」
白も悪くないけど、この紅白のタキシードには赤い蝶ネクタイの方が合っている気がする。初めて身に付ける蝶ネクタイに悪戦苦闘しながらも、何とか結び終えたリボンは少し不格好だ。…人のネクタイを結ぶのは得意なんだけどな。若干歪んだリボンを直しながら、毎朝の光景を思い出して、僕は鏡越しに笑ってしまった。
――さて、話は数十分前に遡る。
折角の休日だからとドライブに出掛けた僕たち兄弟は、都心から少し離れたこの場所を訪れていた。広大な土地に慎ましく建てられた建物は、兄曰く『写真館』らしい。そして殆ど説明のないまま車は止められ、僕が状況を飲み込めずにぽかんと呆ける中、兄が笑ってシートベルトを外してくれた。ほら、と優しく手を伸ばされ、掌にそっと手を重ねる。幼い頃から何度も繰り返された、僕たちの儀式みたいなもの。キリッと上がった眉と目尻が少しだけ下がって、重ねた掌を柔く握られる。そしてそのまま立たせてもらい、僕たちは少し離れた場所にある写真館へと歩き出した。
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