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    nonbirishinkou

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    nonbirishinkou

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    2年後の左馬刻さまと銃兎さんと一郎くん(左+銃)

    狸寝入り 駅前の大衆居酒屋の扉を開け、座敷のほうに歩いていくとそこに山田一郎と、酔いつぶれて壁にもたれかかっている左馬刻がいた。山田一郎は俺の姿を見ると、ほんのりと上気させた頬を緩めて「っす」と会釈をする。
    「まったく左馬刻も貴方も私の職業が公務員だってわかってます?」
    「すんません、左馬刻がどうしても入間さん呼べってきかなくて」
     テーブルに伏せられた伝票を尻ポケットに滑り込ませてから、革靴を脱いで上がり込む。何度も舟を漕いでいる左馬刻を無理やり背中に背負った。うわ、こいつ重い……。完全に脱力しているし、たしか俺よりも体重重いって言ってたな。いくら仕事柄鍛えているからといって三十路にはかなりきつい。それでも一応年下の前だという思いが邪魔をして、何食わぬ顔で立ちあがる。帰ったら腰死んでるかもな。
    「帰りはどうするんです? タクシー呼びましょうか」
    「あ、電車ギリあるんで大丈夫っす」
    「じゃあ駅まで送りますよ」
     会計を終えた俺の提案にいいっすいいっす! と人の好さそうな顔で断る。会計は俺が済ませたから、そこまでしてもらうのはと思ったのだろう。どうせ左馬刻が潰れていなくたって彼には出させなかったろうに。まさに責任感の強い長男を地で行く男だ。ここは素直に送られるとこだぞ。
    「なら聞き方を変えますね。駅のパーキングまでこいつを運ばないといけないのでついて来てもらっていいですか?」
     山田一郎は一瞬きょとんとした顔をして、ハハッと笑って頷いた。こうしていると二十一歳の年相応に見える。
     店を出て、駅まですぐの道を歩き始める。すれ違う酔っぱらいたちに紛れながら、バトルまでしたリーダーの元因縁の相手と歩いているのは、少し不思議な感覚だ。
    「結構飲んだんですか。貴方はそのわりにけろっとしてますけど」
    「左馬刻がかなりハイペースで飲んでたんです。飲まなきゃ気恥ずかしいって感じで」
    「なるほどね」
    「俺もちょっと気まずいなって思ってたんですけど、どっちも潰れたら迎えも呼べねーなと思って」
    「貴方のほうがこいつより数段は大人だ」
    「そんなことないっすよ。……俺、こんな風に左馬刻とサシで飲む日が来るなんて思ってもみなかったんです」
     やはり酔っているな、ふわふわとした山田一郎の口調を聞きながら思う。普段の彼ならこんな話を俺はもちろん、きっと兄弟にだってしないだろう。
    「あんなに憎んで、ぶっ殺してやるーって思ってたのに、変な感じっすね」
     正直、この二人の間になにがあったのか俺は知らない。左馬刻も話そうとしないし、酔っていたとしても山田一郎も何も言わないだろう。名前を出すだけでブチ切れてしまうほど、強く憎み、ほとんど本気で殺してやろうと思った相手と初めてサシで飲んだ二人の気持ちは絶対に俺にはわからない。ひどく大人びたこの青年は、俺の背中でうたた寝をしている男は、なにを思って酒を酌み交わしていたのだろうか。
     誰かを許すとはどういう気持ちだろう。俺には、未だにわかりそうにない感覚だ。
    「……私は貴方たちの間になにがあったのかは知りません」
     左馬刻を背負いなおして、口を開く。
    「許せないことがあるなら許さなくていいと思うんです。でも、許せると思えることがあれば、誰かを許すことができるなら、きっと生きやすくなる」
    「……そうですね」
     改札前に着くと、山田一郎はくるりと俺に向き直った。構内の光を浴びた彼はバトルも兄弟も左馬刻も介さない、誰かを憎んだことなんて一度もないようなただの青年に見えた。
    「送ってもらってありがとうございました」
    「はい、お気をつけて」
    「俺もうガキじゃねーっすよ」
    「私からしてみれば十も下のガキんちょですよ」
    「ハハッ! じゃあおやすみなさい、ごちそうさまでした」
     一礼して人混みに紛れていく山田一郎の背中を見送って、パーキングに向かって歩き始める。ぽつぽつと人通りが少なくなってきた。
    「さて、起きてるなら自分で歩いてもらっていいですか?」
    「……寝てる」
    「起きてんじゃねーか。いつ起きた」
    「お前が許す云々の話してたとこ」
     一番聞かれたくないところだ。もう起きているくせに俺に百パーセントで体重を預けてきやがる男をもう一度背負いなおす。左馬刻の顎が俺の肩に乗った。
    「お前はさ、ずっと許せねーことがあんのに、俺だけ許せるようになっていいんかな」
     まるで誰にも聞かせる気のない独り言のように、ぼそりと俺の耳の下で呟く。ひどく弱々しくて、めんどくさい酔い方をしているな、とため息が出た。本当はそれが左馬刻の本心だということもわかってしまっている。酔っているという免罪符をかざしているのはどっちだろう。
    「俺はお前にずっと不幸でいてほしいわけじゃねぇよ」
    「……」
     出会ったとき、たしかに俺たちは最悪な世界を生きていた。世の中に公平なものはないと、世界をぶち壊してやろうとしていた。俺もお前も地獄にいた。
     俺は許せるだろうか。この世から薬物を排除したら、この世界を許すことが出来るのだろうか。
    「左馬刻はずっと生きづらい世界で生きてきたんだから、一つくらい誰かを許して生きやすくなっても罰は当たらねぇよ」
     そういうと、左馬刻はすんと鼻をひとつすすって、首に回していた腕を強めた。頭を俺の肩に押し当てる。酔っているという免罪符をかざすのは俺だから、眠ったふりでもして聞いてくれ。お前が酔っていないと言えないような俺の本心を。
    「お前が生きやすくなったら、俺は嬉しいよ」
     二人ぶんの体重を乗せた孤独な足音が夜の街に響いて、どこまでも高く、どこまでも遠く広がっていく気がした。
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    nonbirishinkou

    PAST左+銃の左馬刻さまとささらさん
     喫煙所の扉が開いて、見知った白髪が入ってきた。俺の姿を認めると、眉を困ったように寄せて「禁煙中じゃねーんか」と小さく笑う。
    「禁煙中やで。吸うてへんもん」
     ぱっと手のひらを見せて煙草もライターもありませんよーってアピールすると、左馬刻はどーだかとこれまた小馬鹿にするように首を傾げる。煙が俺に来ないように配慮してか少し離れたところに腰掛け煙草に火をつけた。ええけどね、煙くらい。むしろ欲してるくらいやけどね。口寂しくてジャケットの内ポケットに仕込んだ飴ちゃんを取り出し口に放り込む。
     何か喋り出すかと思ったけれど、左馬刻は黙ったままガラス越し、喫煙所の向こう側にいるチームメイトを眺めていた。各ディビジョンの二番手が集まって何やら盛り上がっている。そこにはもちろん盧笙もおって、左馬刻のチームメイトである入間さんもおる。年末の歌合戦以来、仲良くなったようだった。仲良く、というか学生に勉強を教えてるみたいやな。あそこは小説家も警察官も、教師もおるから。ホストの人は、茶々をいれつつ見守っている。ちょっと寂しいけど、微笑ましい。盧笙も楽しそうや。当然盧笙は盧笙のコミュニティがあって、それは仕事場だったり、学生の頃の友人や養成所の頃の友人なんかも。
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