額がつくほどの至近距離でマイクを握っていた。もう片方の手は相手の胸ぐらを掴み、今この場所に縛り付けて自分のリリックをぶつけてやることしか考えられなかった。
それほど頭にきていたのだ。言うことを聞かずに危険なことに首を突っ込むからだとか、自分の命を蔑ろにするようなことをするからだとか。隣で戦って欲しい。一緒に退屈で不条理な世の中を踊るように駆け抜けたい。あるいは地獄の底にある高級ソファにでも腰掛けて酒を酌み交わしつつ煙草をふかしたい。戦って勝つことでしか、俺たちは相手に大事だと伝える手段がない。
自分のものなのか相手のものなのかわからない息遣いが聞こえて、ふと我に返った。はじめは離れた距離から戦っていたはずだ。きっと、あまりの怒りに体が動いたのだろう。気がつけば、目の前で夏の葉のように燃えている瞳が俺と同じように怒りを湛えていた。
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