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    nonbirishinkou

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    nonbirishinkou

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    左+銃の左馬刻さまとささらさん

     喫煙所の扉が開いて、見知った白髪が入ってきた。俺の姿を認めると、眉を困ったように寄せて「禁煙中じゃねーんか」と小さく笑う。
    「禁煙中やで。吸うてへんもん」
     ぱっと手のひらを見せて煙草もライターもありませんよーってアピールすると、左馬刻はどーだかとこれまた小馬鹿にするように首を傾げる。煙が俺に来ないように配慮してか少し離れたところに腰掛け煙草に火をつけた。ええけどね、煙くらい。むしろ欲してるくらいやけどね。口寂しくてジャケットの内ポケットに仕込んだ飴ちゃんを取り出し口に放り込む。
     何か喋り出すかと思ったけれど、左馬刻は黙ったままガラス越し、喫煙所の向こう側にいるチームメイトを眺めていた。各ディビジョンの二番手が集まって何やら盛り上がっている。そこにはもちろん盧笙もおって、左馬刻のチームメイトである入間さんもおる。年末の歌合戦以来、仲良くなったようだった。仲良く、というか学生に勉強を教えてるみたいやな。あそこは小説家も警察官も、教師もおるから。ホストの人は、茶々をいれつつ見守っている。ちょっと寂しいけど、微笑ましい。盧笙も楽しそうや。当然盧笙は盧笙のコミュニティがあって、それは仕事場だったり、学生の頃の友人や養成所の頃の友人なんかも。
    「お前はさぁ、元相方で、友達で、今はチームメイトってどういう感覚?」
    「どう、……って」
    「俺には無理だ」
     お、ディスか? やるか? と軽口を叩こうとしたけれど、左馬刻の真剣な雰囲気に言葉は口の中で苦く溶けた。
    「俺は、盧笙の隣におれたらなんでもええよ。相方やなくても、友達でもいい。盧笙の隣におれるんやったらなんでもなれる。チームメイトも友達もあかんくなったら、今から教員免許だって取ったる」
    「コワ」
    「おい」
     ホンマやもん。ホンマやで。今はチームメイトとして、チームになる前は友達としておるけど、それもあかんくなったらどんな手段だって取るやろうなぁ。もうあいつの隣におる楽しさをわかってるから。
    「入間さんと左馬刻は、友達ちゃうん?」
    「……友達にしてほしいよ」
     あまりにも小さなその声は、俺がこんなところで聞くには惜しかった。普段は不機嫌そうな声ばかり出している男とは思えないほどに、ひどく純粋な祈りのように聞こえた。というかそれ、入間さんに言うたれよ。俺に言うなよ。流石の俺でもお前とあの人を結びつけたりできひんよ。
    「何かをしてやりたい。でもあいつは俺たちの組の利にならないと俺を頼らないだろうし、俺も警察官としてのあいつの利にならない仕事は遠ざける。お互いの損得ばかり考えてる。飲みに行くぞとかなら、簡単に言えるんだけどな」
     立場がどうしても邪魔になってしまうのだろう。立場をかなぐり捨ててでも隣にいようとする俺とは対照的に、組織に属するが故に慎重にならざるを得ない。
    「どうしても黙って見てるだけしかできねえことが、ヤクザと警察官として、この先絶対くる。事情すら知らねえこともあるだろうな」
     とんとん、と長くなった灰を落として左馬刻が続ける。彼も煙草を吸うと聞いた。煙で繋がる、不安定で、けれど強固な絆。
    「友達なら、助けてやれるのにな」
     ガラスの向こう側、盧笙たちと笑う彼を見つめる視線には寂しさと愛しさが入り混じって、特別だと横顔が雄弁に語っている。まるで、水槽の向こうに憧れる魚のようで。左馬刻はずっとずっと溺れるように友達になりたいと願い続けているのだ。
     俺は、何も言えなかった。口達者な自覚はある。それでも左馬刻の純粋で神聖な願いの前に、俺はただ、ただ彼の知らない思いを零れないように手のひらで受け止めるのが精一杯だった。
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