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    サササ

    主にK○UGU関連のイラストや漫画を置いています。

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    サササ

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    千ェーン'/ーが推理する話が見たいと思い、書いてみたものです。妄想、捏造だらけ。

    狙われた乗客 夕暮れの海原に浮かぶ、大型のクルーズ客船『グリフォン号』。

     その大きな客船には高級レストランや劇場、ダンスホールなどなど……裕福層を楽しませる施設が目白押しだ。実際、船内は裕福そうな身なりの大人が楽しそうに歩き回り、有名店ばかりが立ち並ぶ様々な施設を心行くまで堪能していた。


     外に出て景色を眺められるデッキも人気だ。海の果てへと沈みゆく夕日を眺める為に集まった乗客で、今日もデッキが賑わっていた。


     そのデッキの隅に、赤みがかったロングコートを身に纏った1人の男が佇んでいる。


     彼の名はチェーンソー。右目の下にある筈のヒビは化粧か何かで隠したのか全く見えず、着ている物も普段とは違う。綺麗な装いの彼は、金色の前髪を海風で揺らし、他の乗客と同じようにじっと夕日を眺めていた。


    (さて、そろそろ船内に戻るとしましょう)


     目の前の景色を十分堪能したチェーンソーは、自身の客室に戻る為に踵を返した。

     周囲にはシンプルな装いの乗客が、穏やかな顔つきで静かに夕日を眺めている。

     そんな穏やかな顔で立ち並ぶ乗客の背後を、不機嫌そうな警備員がのしのしと歩いていくのが見えた。

    (船内の警備は厳重……まあ、あんな出来事があったのですから当然ですね)

     警備員を横目に歩き続けるチェーンソー。そんな彼の行く先に1人の男が姿を現した。

    「失礼します、貴方がチェーンソーさんですね?」

     茶色のコートをお洒落に着こなし、左右で色が違う不思議な赤髪を持つとても印象深い男は、青い両目をチェーンソーに真っ直ぐ向けながら口を開いた。

    「初めまして。ワタクシは南蛮の工具、ギアです」

    「ご丁寧にありがとうございます。ギアさん、私に何の御用でしょうか」

    「貴方も私と同じ工具だと噂で聞き、工具同士で是非会話をしてみたいと前から思っていました。デッキに出ると、海を前に佇む貴方を偶然発見し……こうして声を掛けた次第です」

    「そうでしたか」

     ギアは恭しい態度でチェーンソーと対話をするが、対するチェーンソーは素っ気ない反応だ。

    「チェーンソーさん。この後何かご予定はありますか?」

    「20時にレストランの予約を入れています」

    「そうですか……もし差し支え無ければ、これから近くのカフェに入ってお話でもしませんか?お金は全て私が持ちます」

     普段ならこの申し出を快く受けるチェーンソーだが、相手をよく知るチェーンソーはこの誘いに違和感を抱いていた。

    (KOUGU維新と親しいギアが、工具リベリオンである私と2人きりで会話……明らかに会話だけが目当てでは無さそうですね……)

     ギアはKOUGU維新と関わりがある。ギアはそんなKOUGU維新の面々から工具リベリオンについてある程度詳しい話を聞いている筈だ。

     なのにギアは、工具リベリオンに所属しているチェーンソーに対してごく普通に接し、しかも一対一の対話を試みようとしている。

    (……特に断る理由もありませんね)

    「……分かりました、少しだけならお付き合いしましょう。私も前から貴方に興味があったんです」

    「ありがとうございます。では参りましょう」

     ギアは相手から許可を得られたからかほんの少し表情が緩んだ。そしてギアはチェーンソーを引き連れ、船内にある豪華なカフェへと移動した。

     それなりに賑わう店内に入ると、近くにいた高身長で恰幅の良いウェイターがギアの前へと移動した。

    「2名でお願いします」

    「かしこまりました」

     彼は色の付いた眼鏡越しに2人を見ると、慣れた所作で2人を店の奥へと案内した。

    「こちらへどうぞ」

     ウェイターに連れられて来たのは奥の個室スペース。周りの客の席が全く見えない上に、周りの部屋に他の客は居ないのか、やけに静かだ。

    「随分と静かな所ですね」

    「これなら周りを気にせずお話ができます」

     ギアはチェーンソーと会話しつつ、ウェイターに飲み物を注文した。程なくしてウェイターが紅茶のセットを乗せたワゴンと共に現れ、テーブルの上に注文の品をテキパキと丁寧に並べた。

    「ありがとうございます」

    「ごゆっくりどうぞ」

     ウェイターが席から離れ、この場にはギアとチェーンソーの2人きりになった。そして2人は紅茶を片手に談笑を始めた。

     会話はそこそこ盛り上がった。最初は張り詰めていた場の空気はだいぶ穏やかになり、ギアの顔には笑顔が浮かぶ。チェーンソーも見た限りでは、この状況をそこそこ楽しんでいる様子だ。

     やがて話題は当たり障りの無い事から近頃起こった事件に移り変わった。

    「所で……ギアさんは、この前起こった盗難事件の話はご存知でしょうか。美術館に大胆な怪盗が現れたとの事で……」

    「ええ、知っています。約2か月程前に起こった事件ですね」

    「そうです。20時、美術館に「今日22時に大事な美術品を盗む」と記載された予告状が届き、美術館の職員は急いで警察官に連絡。万全の警備で怪盗を待ち構えました」

    「でも、警備は完璧だった筈なのに殆どの美術品が盗まれてしまいました……」

    「それも当然。犯人は警備隊に変装して入り込み、美術館の職員が見ていない所でこっそり盗みを働いていたのですから」

    「あまりにも大胆過ぎる犯行でした……当時は、何故分からなかったのかと美術館を責める声もありましたね」

    「後日、美術館が警察に連絡をした形跡は無しと判明。それと同時に、警察に連絡を入れたと思われる美術館の職員が1人行方不明になりました。最終的に、警察に連絡する振りをして偽警備員を招き入れた美術館の職員が犯人という結論になりましたね。そもそもの話、名も知らない怪盗からの予告状を信じて警察に警備の手配をする時点で怪しかったのですから」

     チェーンソーはティーカップを置き、ギアの顔を見つめた。

    「そうそう……その例の怪盗が、5日前にこの船に予告状を出したそうですね」

     チェーンソーの話を聞いたギアの手がピタリと止まった。

    「…………そんな事があったのですね」

    「はい、知り合いから聞きました。この船のオーナーに届いた予告状には「イツカゴノフナタビ、ジュウクジ、ジョウキャクノダイジナモノヲイタダク」と書かれていたと……今、私達が乗っている船で19時に犯行が行われるのだとか」

    「この船に怪盗が……」

    「その予告状には、怪盗しか知らない情報が書かれていたそうです。それを見た警察はこの予告状が本物だと確信。警察は怪盗を捕まえるチャンスとしてオーナーにこの5日後の船旅を決行するよう指示を出し、本物の警察によってこの船の警備は最大限強化されました」

     じっと見つめるギアに対し、チェーンソーは更に続ける。

    「更に乗船する客や船員など、全ての人物の身元を調べて不審者が居ないか念入りに確認。オーナーは船旅に来る乗客に「高過ぎる貴重品は持たず、なるべくシンプルな装いで来るように」と伝えるなど……とにかく怪盗に対して警戒体制を取りました」

    「随分とお詳しいですね」

    「ええ、大体の事は知っています。貴方とKOUGU維新が警備として雇われてこの船に乗っている事も、1番怪しい私をずっと監視している事も……」

     チェーンソーがその事を口にした途端、ギアはピタリと固まってしまった。

    「どうやら図星のようですね。恐らくグリフォン号のオーナーの秘書にでも頼まれて、私の監視をしていたのでしょう」

     チェーンソーはこの時、親しくなったオーナーと会う度に目の敵のように自分を睨んでくる秘書の事を思い出していた。

    「エッ!?な……何故ソレヲ……!?」

     指摘されたギアは更に動揺し、うろたえている。

    「時折、やたら見慣れた人物が視界に映るので、もしやとは思いましたが……この会話も、私を19時まで足止めする為の作戦でしょう?」

    「エ……エト……!あの、私はそんなつもりデハ……!」

     チェーンソーは更に追撃。ギアは思惑を完全に見透かされてしまったのか口調が乱れ、しどろもどろしている。

    「先にお伝えします。私はこの事件の犯人ではありません、怪盗との接点も一切ございません。ですが、言葉だけでは貴方達は納得してくれないでしょう」

    「イヤ、ソノ……」

    「だからと言って私はこのまま怪盗の容疑者として疑われ監視され、この素晴らしい船旅を台無しにされたくありません。なので、貴方達の気が済むまで時間稼ぎに付き合うとしましょう」

    「カプリチョーザッ!?イヤ、ソンナ……!デモ……!」

    「独特な叫び声ですね……貴方は社交界には慣れているようですが、この手の状況には不慣れのようですね」

     敵だと認識していた相手からの都合の良い提案にギアは驚いた。だが、これがチャンスなのか罠なのかを1人では判別出来ないようで、相手からの提案を受け入れるかどうか分かりやすく悩んでいた。最初の時の冷静な姿は一切無い。

    「お客様、如何なさいました?」

     ギアの悲鳴に近い声が聞こえたのか、近場に居たと思われる体格の良いウェイターが再び姿を現した。

    「何か不手際でも……」

    「あっ!いえ、何でもゴザイマセン!」

    「申し訳ございません。ギアさんに「貴方達の時間稼ぎに付き合う」と伝えた途端、相手方が混乱してしまって……折角ですから、貴方も同席して私の時間稼ぎに付き合ってみては如何ですか。砥石」

    「…………」

     砥石と呼ばれたウェイターは口を閉じ、チェーンソーをジッと睨みつけた。

    「……人違いでは?」

    「砥石と言われたら一般の方は道具の砥石を思い浮かべるものでしょう、それか聞き間違いだと。やはり貴方は砥石で間違いないようですね」

    「……考え過ぎでは?」

    「そうですね、これだけの判断材料では証拠不十分です。では更に付け加えましょう」

     チェーンソーはウェイターにそっと顔を向けた。

    「目分量での推測では身長と体重共に砥石とほぼ同じ。貴方の姿勢や動作から察するに武術の心得あり。髪型を変え軽く化粧を入れ、赤い目を隠す為に色眼鏡を掛ける。時折本体の砥石を掴んでいるのか、左手の手袋に妙な擦り傷が目立ちます。普通に仕事をしただけではこのような傷は中々できません」

    「考え過ぎです」

    「貴方は他のウェイターと少し動きが違います、このカフェのウェイターは同じ人物から作法を教わっているのか皆同じ動きをするのに……恐らく貴方のウェイターとしての作法はギアさんが仕込んだものでしょう。KOUGU維新の面々がこのような作法を学ぶとしたら、真っ先にギアさんの名が出るでしょうから。砥石の作法は見事でしたが、ご教授なさったギアさんもさぞかし苦労なさったのでしょう」

    「そんな事はアリマセン!砥石サンはとても勤勉な方で、あっという間に作法をマスターしてしまいマシタ!」

    「ギア!!」

    「アッ……」

     ウェイター……もとい砥石に咎められ、自身の失言にようやく気付き固まるギア。ウェイターの正体は砥石だと決定付けた瞬間だった。

    「やはり貴方でしたか……あのような証拠が無くとも、見ただけですぐ分かりましたよ」

    「チェーンソー……探偵ごっこができて満足か?」

     正体がバレた砥石は、先程の丁寧な態度とは打って変わって大柄な態度に変貌。

    「お前みたいな怪しい工具が乗り込んでいる時点で、この船内で何か起こるって事は分かってんだ!痛い目に遭いたくなけりゃ、今のうちに白状しろ!!」

    「乱暴ですねぇ……そもそも、この今回の船旅に来れるのは会員のみです。厳しい審査を乗り越えてようやく会員となれた方のみ、この船旅を楽しめるのです」

    「オーナーの秘書からの話じゃ、お前はその会員制をスルーしたって話だぜ?」

    「半分誤りです。私はこの船のオーナーの困り事を解決し、そのお礼としてこの船旅に招待されたのです。ですが当時、私は会員ではありませんでした。なので事前に私も他の会員と同様に厳しい審査を受けています、今は私も会員ですよ」

    「しゃらくせぇ!お前が怪盗を動かしていた犯人だろ!とっとと白状しやがれ!!」

    「砥石サン落ち着いてクダサイ!!」

     ヒートアップした砥石はテーブルをダンと叩いて叫んだ。ギアはそんな怒り心頭の砥石を必死になだめる。

    「お願いシマス!怪盗を捕まえたい気持ちは痛いほど分かりマスガ、今は冷静になってクダサイ!」

    「…………わりぃ。少し熱くなり過ぎた」

     ギアに宥められた砥石は我にかえると、声量を下げて乱れた服装を整えた。

    「私も1つの正義を志す者として、貴方の正義を貫きたい気持ちは痛いほど分かります。貴方のその気持ちに免じて1つ、私の推測をお教えします。この船で盗難騒ぎが起こる事は絶対にありません」

     盗難騒ぎは起こらない。それを聞いた砥石とギアは妙な顔をしながらお互いを見つめ、再びチェーンソーを見つめた。

    「……何だと?」

    「それはどういう事デショウカ?」

    「この船の中で窃盗は絶対に起こりません。乗客や乗員などが船に乗る為に事前に行う厳しい審査、この船の高度な警備、そして乗客のシンプルな装い……こんな入っても得しない船にわざわざ入りたがる怪盗は1人もいません」

    「船に入るだけで大変……だから怪盗が船に乗れたとシテモ、船に仲間を連れていくのは至難の技デス」

    「外部から入るとなると侵入の手助けが必要です。ですが入れたとしても中は警備員だらけ、しかもあのKOUGU維新の面々まで居ます。非常に手間が掛かりますし帰りも無事である保証は無し、しかも頑張って乗船しても、それに見合った報酬はほぼ手に入りません」

    「確か乗客はオーナーの指示で貴重品を極力持ち込まないようにしていマシタネ」

    「怪盗の予告状を見てオーナーが乗客に指示を出したんだったな……乗客から物を盗もうにも盗む物が殆ど無いんじゃ、更に船に近付こうとは思わねぇな」

    「しかも予告状の内容は何処かから漏れたそうで、事前から怪盗の予告状の話は噂として出回って殆どの乗客が知っています」

    「そんな噂を聞いたら乗客は絶対に貴重品を持ち込みたがりマセン。予告状を出したせいで怪盗は物を盗みにくくなってしまったんデスネ……」

    「逆です。怪盗は容易に盗みを働く為に、あえて船のオーナーに予告状を出し、噂を広めたのです」

    「意味わかんねぇよ。わざわざハードル上げて、その上げたハードルを飛び越せないんじゃ元も子もねえだろ」

    「それでは2人に伺います。船に持ち込めなくなった貴重品は、どこに保管されますか?」

    「馬鹿にしてんのか?それくらい俺様でも分かる。高価な物なんだから家の金庫にでも入れるんだろ」

    「金庫、デスカ……」

     砥石の何気ない一言で何か気付いたのか、ギアがぼそりと呟いた。

    「何かお気付きになりましたか?」

    「イエ、前に美術館の品を簡単に盗んでいった怪盗なら金庫程度の鍵も容易に開けられるかな、と思ッテ……」

    「美術館の金庫も容易に突破した彼等の事です。きっと個人の家に置かれている金庫も簡単に開けられるでしょう」

    「……確かこの船、次の港に到着するまで1日掛かるんデシタネ……」

    「ああ、そうだな」

    「次の日までこの乗客は家に居マセン……」

    「……まさか、怪盗が狙っているのは船の上の乗客じゃ無くて、貴重品がある乗客の家だって言うのか?」

    「その通り。恐らく怪盗団の狙いは、この豪華客席に泊まっているゲストの家そのものでしょう」

    「何だと!?」

     砥石は思わず驚き大声で反応した。

    「怪盗団は大勢います。もし今日の夜、怪盗団が一斉に乗客の家に行ったとしたら……?あの怪盗団は演技力もあるので、例え屋敷に人が居ても騙して容易に入り込む事が出来るでしょう」

    「だが、盗みに入った屋敷に警備が無いとは考えられないだろ!詐欺に用心深い奴や、留守番を任されている兄弟や親戚が居たらどうする!いくら詐欺が得意な怪盗でも、上辺だけじゃどうにもならないに決まってる!良くて門前払い、悪けりゃ逮捕だ!」

    「か、会員制……」

    「ん?ギア、何が言いたいんだ?」

    「……会員の審査デス。私もこの会員の審査を受けた身なので覚えているのデスガ……確かあの審査の中デ、家族構成や身の回りの付き合い、警備や年収の事とか色々聞かれたヨウナ……」

    「このグリフィン号を所有する会社に、乗客名簿の他に会員審査の書類があるのならば……模写して外に持ち出せれば、さぞかし盗みをしやすくなるでしょうね」

    「マジかよ……!そんな個人情報があったら、簡単に家に上がりこめるじゃねーか!!」

    「社員には厳し過ぎる審査は無いそうですし、もしかしたら社員の中に怪盗の仲間が居たかもしれません」

    「ペペロンチーノ!?ではツマリ、この船の上で待機しても怪盗団を捕まえるのは実質不可能……!?」

    「そうなります」

    「やべぇ!今すぐプラスややっとこに伝えねぇと!!」

    「多分大丈夫ですよ」

     チェーンソーの話を一通り聞き終えた2人は分かりやすく動揺した。砥石は仲間に連絡しようとその場から飛び出そうとしたが、チェーンソーに引き止められた。

    「何言ってやがる!こんな事してる間も奴らは……!」

    「砥石さん、つかの事お伺いしますが……丸鋸さんはこの船に乗船してませんね?彼だけはずっと姿が見えなかったので」

    「ん……確かあいつ、「今日は気分じゃない」とか言って乗船拒否したな。で、巻尺に何か吹き込むと巻尺と一緒にどっか行っちまった」

    「なら大丈夫でしょう。恐らく丸鋸さんは秘書からあれこれ聞いた結果、怪盗の真の狙いに気付き地上に残る事を選んだのでしょう。今頃彼は、警察に連絡して乗客の屋敷に警備を手配している筈です」

    「何でそう言い切れんだよ……」

    「彼の頭脳なら気付くと思ったんです。それでも信じられないのなら、貴方達を雇った秘書に彼の動向を聞いてみなさい。恐らく彼は皆と別れた後で乗客名簿や様々な書類について尋ねた筈ですから」

    「…………」

     砥石は無言でその場から離れた。仲間に報告しつつ、秘書に話を聞きに行くつもりだろう。

    「では、我々は話の続きでもしましょう」

    「わ、ワカリマシタ……」

     ギアとチェーンソーはそのままごく普通の会話を続け、19時30分頃にそのままお開きとなった。この後もチェーンソーの周りから監視の目が消えなかったが、チェーンソーは次の日には消えるだろうと確信していた。



     次の日の朝、寄港した港で怪盗団が一斉に逮捕されたという報せが入った。


    「どうやら私の無実は証明されたようですね」

     チェーンソーは昨日と同じカフェに入り、昨日と同じ奥の席でコーヒー片手に、怪盗団が逮捕されたという報道が載った新聞をじっと眺めていた。

    「本当に申し訳無い事をした……」

     チェーンソーの目の前にいる、乗客に扮したプラスドライバが申し訳無さそうに謝罪をした。

     彼は外を歩くチェーンソーの前に現れ、謝罪も兼ねて朝食をご馳走したいと申し出てきたのだった。

    「まさかチェーンソーも事前に、オーナーから怪盗団に関する依頼を受けていたとは……」

     実は今日の朝、怪盗団が逮捕されたという報道を知ったオーナーが「チェーンソー殿の言う通りだった」と溢したのがきっかけで、オーナーが数日前に怪盗の予告状の事をチェーンソーに相談していた事が分かったのだ。

     そして相談されたチェーンソーは、怪盗団の真の目的は乗客の屋敷と推理し、乗客名簿や書類を見て1番狙われそうな屋敷に警備を置くよう伝えていたのだった。

    「そうと知っていれば、監視をする事はなかったのに……」

    「例えオーナーから私の話を聞いても、貴方達は監視の目を緩める事はしなかったでしょう」

    「……かもしれないな。でも、よく犯人の狙いが分かったな」

    「考えればすぐに分かる事です。では、私はこれで……」

    「ああ」

     用事が済んだと言わんばかりに立ち上がったチェーンソーは、そのままゆっくりと歩いてカフェを後にした。それとすれ違いになるように、丸鋸がカフェに入店してきた。

    「あ、いたいた〜」

    「丸鋸!乗船したのか!?そもそも、俺が此処にいるとよく分かったな」

    「此処で働いてる砥石の様子を見に来たら、プラスの姿が見えたから来ちゃった」

     いつものように首を傾げている丸鋸はプラスのいる席に座り、足をぶらぶらさせながらウェイターが来るのを今か今かと待っていた。

    「結局、丸鋸が正しかったな」

    「え?何が?」

    「とぼけないでくれ。怪盗団を捕まえた事についてに決まってるだろ。まあ俺も昨日チェーンソーから聞いたんだが……事前に丸鋸に話を聞いていれば、俺達も外で怪盗を待ち構える事が出来たのにな」

    「あーあれね。別にいいでしょ、犯人はちゃんと捕まったんだからさ。それよりも」

     丸鋸は突然真剣になり、真面目な顔をプラスに向けた。

    「怪盗団の護衛、もっと増やした方がいいよ」

    「それは勿論増やすだろうが……急にどうしたんだ?」

     プラスは丸鋸の真剣な顔に思わず面食らう。

    「チェーンソー」

    「何?」

    「怪盗団ってさ、結構腕のいい詐欺集団じゃん?金庫も鍵開けも容易にこなして、演技力で人を簡単に騙す。あの優秀な人材を、チェーンソーはただ放っておかないんじゃないかなぁって思っただけ」

    「……まさか、チェーンソーが怪盗団を盗むとでも?」

    「うん。でもこれは何となく思っただけ、ただの勘。とりあえず怪盗団を移動させる時は気をつけた方がいいかもね」

     丸鋸は全てを言い終えたのか、再び視線を戻してウェイター姿の砥石が来るのを待ち続けた。



     後日、丸鋸の言う通りの事件が起こった。



     怪盗団を乗せた護送車が事故で破損し、どさくさに紛れて囚われていた怪盗団が散り散りに逃げた。逃げた犯人は周りについていた警察に再び捕まったが、捕らえられたのは下っ端だけだったらしい。

    「いや、そんなまさかな……」

     丸鋸の話が本当なら、幹部級の怪盗団はチェーンソーの手引きで逃がされて手下にされたという事になる。だが、誰かが故意に事故を起こしたという証拠は今の所出ていないそうだ。

     しかもチェーンソーは事故当日、船の上に居た。事前に部下に指示を出して犯行に及んだのだろうか。

     予想をした当の本人である丸鋸は、この件を止められなかったからなのか、一切興味を失ってしまったのか、「あ、そう」と言ったきりで、この事件に興味を示す事は2度と無かった。どちらにせよ、証拠が出ない以上、チェーンソーを疑うのもお門違いと言われても文句すら言えない。

    「…………もし、本当にチェーンソーの仕業なのだとしたら、恐ろしい話だな……」

     プラスは『怪盗団逃走』と書かれた新聞を片手に、1人で溜息をついたのだった。
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